日立ソリューションズグループでは、企業・事業活動の中心に協創を掲げており、ビジョンを共有するパートナーとのネットワークを、世界各地にひろげています。領域を横断することから生まれる新しい出会い。誰もが幸せを感じる社会をつくるために、「遊び心」を持って日々の活動を展開されている中島さち子氏と小間裕康氏、山本社長が一堂に会し、持続可能な社会に向けて大切なことについて語り合いました。
取締役社長
一般社団法人
steAmBAND 代表理事/
大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー/
音楽家/数学研究者/STEAM教育者
フォロフライ株式会社 代表取締役
境界を超えて響きあう
つながる楽しさをひろげたい
山本:本日は社会の変化を先読みし、率先して新しい分野に挑戦しているお二人にお越しいただきました。現在の主な活動や、持続可能な社会に向けて意見を交換できたらと思います。よろしくお願いします。
小間:現在は、エネルギーコストを削減したスマート宅配車を提供するインフラテック企業と日本初の3Dプリンター住宅メーカー企業を経営しています。一見、共通点がない事業のように思われがちですが、ベースのテクノロジーは同じで、自動車産業のモノづくりのノウハウを住宅産業に活用しています。モノづくりというと、昔は大手メーカーでなければできないといった重厚長大なイメージがありましたが、今では水平分業化も進み、さまざまなテクノロジーが業種を超えた横のつながりで流用できるようになりました。このつながりにより、小さな初期コストで大きなプロジェクトへのチャレンジが可能になりました。
中島:私は、ジャズピアノを弾きながら数学を研究してきました。30代を過ぎたころから、音楽と数学は、どちらも創造的なもので、そこに楽しさがあるという点で二つはよく似ていると感じはじめ、音楽と数学をつなげる活動にも取り組むようになり、モノづくりをはじめとするさまざまな世界へと興味がひろがっていきました。STEAMと出会ったのはこの頃です。答えは一つじゃない。いろいろなものを組み合わせて、自分でつくりだしていく時代。科学や数学を「学ぶ」のではなく、科学者や数学者のように「考える」。音楽家や芸術家、エンジニアのように「つくりだす」。〇か×か、正解を学ぶ時代から、「知る」と「創る」が早く循環していく躍動感のようなものに興味を感じたのです。
山本:小間さんが自ら実践しているように、そして中島さんがSTEAMで取り組まれているように、今、必要なのは、自分で考えて行動することだと思います。シリコンバレーなどからは、新しいモノやテクノロジーが次々と生まれていますが、日本ではなかなかそうはいきません。こうした差は、教育の違いによるところが大きいといえるでしょう。STEAMの発想を、従業員教育などにも取り入れていく必要性を感じます。一方で、当社では STEAMの発想にもある「ワクワク」を感じられる未来をみんなで創っていく取り組みとして、2022年度からSXプロジェクトをスタートしています。
失敗もプラスに変えていく
挑戦そのものを楽しむ
山本:SXプロジェクトをスタートしたきっかけは、持続可能な経営には、あらゆる活動を通じて環境価値・社会価値・経済価値の向上に貢献できないと、企業として時代に取り残されてしまう危機感を抱いていたからです。 我々は、どのように行動変容すべきか、社長に就任した3年前から深く考え続けてきました。次世代を創っていく若い人財が自分で考えて行動するためには何が必要か。多様性や心理的安全性を確保しつつ、まずは社会課題の解決に挑戦しようとする従業員一人ひとりを、全社をあげて応援していくことをめざしました。トップダウンでは何も変わりません。ボトムアップで個性豊かな若い世代が自分で考える。私たち経営層は、その実現のためにサポートする。また、当社が考えるSXとはお客さまの未来と社会に新しい価値を吹き込むことです。その核となるのが、お客さまやパートナー、地域、コミュニティなどとの協創です。協創で創出された価値を連鎖させることで、環境・社会・経済価値の向上をめざしています。
中島:SXプロジェクトでは、みんなでアイデアを出しあい、その実現のために力を合わせ、結果も出しているとお聞きしました。そういう仕組みをつくること自体が素晴らしいと感じます。サステナビリティというキーワードには、未来の地球を守るといった側面と、事業を継続していくという二つの面がありますが、今、生きているこの地球と真剣に向き合い、会社の事業も、自分自身で考えてトライする。当事者意識を持って、自分が未来をつくっていくという感覚がみなさんに備わっていく。とても貴重な取り組みだと思います。山本社長がおっしゃるように、企業は変わらなければいけない時を迎えています。日本は、自分で考えて意見を言ったり、失敗を恐れずに進んだりすることが比較的苦手で、それは長い間、失敗しないための教育を受けてきたことも影響していると思います。
小間:スタートアップは失敗を恐れずに挑戦できます。仮に結果が伴わない場合には、瞬時に見直しを行うことが可能だからです。大企業ではなかなかこうはいかないですよね。私の会社には、大企業から出向してこられる方が多くいます。当社では大いに失敗の経験を積んでくださいと冗談を交えて話をしています。
山本:当社では、従業員によるスタートアップ創出を支援する制度を開始しました。SXの視点から社会課題に挑み、世界を相手に戦えるサービスを事業化できる人財の育成を目的としています。従業員は2名1チームでアイデアをエントリーし、最終的に選出されたチームは米国のシリコンバレーに1年間駐在します。1年後にサービス化が可能だとジャッジされると、メンバーは当社から独立し、事業の成長に挑むことができます。今までに4チーム8名を送り込みました。事業が育ち、独立につながることは大変喜ばしいことですが、私は、たとえ失敗しても、本当の意味での失敗ではないと考えています。失敗したら戻ってきて、その知見を次の仕事で活かすことができれば、意味のある貴重な経験になるのです。最初に送り込んだチームが、遂に会社設立のフェーズを突破してくれました。厳しい現実の中で、大変な苦労をしてつかみ取った結果です。私が何よりも嬉しかったのは、挑戦する気概を持つ従業員がいたことです。これからも、失敗を恐れない挑戦を促す気風を大切に育てていきたいと思います。
多様性をはぐくむ
コミュニティ出会いが
新しい発見の喜びをひろげる
小間:スタートアップの何よりの強みは少人数で始められることだと思います。好きなことを、気の合う人と、思いどおりにできる。これに尽きるのではないでしょうか。選択も自由、YesもNoもはっきりと言える。スタートアップの初期段階はとにかく楽しいです。文化祭のようなワクワク感をもちながら、前へ前へと進んでいく感じです。また、その小さなコミュニティが重なり、ひろがることで、できることも増えてくる。もちろん、苦労や悩みも増えますが、人との出会いを楽しみながら、日々達成感を得ています。
山本:若い人はコミュニティをつくるのが上手ですよね。当社にも、若手従業員を中心としたコミュニティがありますが、あるメンバーが、自分の事業部だけではカバーできないお客さまの課題をテーマにあげたところ、部署を超えてみんなが協力し合い、短期間に数百ページにわたる資料を作成して、解決へと導く提案を実現したというケースがありました。こうした活動が社外の組織や人々にもひろがり、エコシステムを形成していくという流れが、自然な形で生まれはじめています。
中島:特異な一人が何かをやったのではなく、みんなでテーマを俯瞰的にとらえて、大きな目的のために一緒になってゴールをめざしている。このようなコミュニティが若手から生まれたことは画期的ですね。音楽に例えるなら、ソロでやれること、バンドだからできること、オーケストラでなければ実現できないことがそれぞれにあるんですよね。一人ではできないけど、高い視座を持って、力を合わせれば可能になることはたくさんあると思います。今、大阪・関西万博で、障がいのある方、病気でなかなか外へ出られない方、高齢の方々などと一緒に作業をしています。目が不自由な方といると、自然と周囲のものを触るようになったり、音がどこから聞こえているのかを感じられるようになったりします。耳の聞こえない方といると、ジェスチャーが大きくなり、表情も豊かになっていることに気づかされます。閉ざされていた感性が開いていくのを感じます。そして、何ができるか、できないかもまた個性なのだと思えてきます。しかし、日本では、言語や特性の違いでかなり分断されており、多様性の醍醐味がまだまだ伝わっていないように感じます。障がいや病気、ジェンダー、国籍、人種・・・。多様な出会いを通じて、まずは仲良くなって、そこから少しずつ踏み込んだ話ができるような関係性を築いていきたいと思っています。
山本:お二人のお話にもあった人と人とのつながりについて、私も危惧しております。新型コロナウイルスの感染拡大時は、在宅勤務が9割になりました。今でも、7割の人が在宅勤務をしています。オンラインの会話では、なんとなく元気がないといったニュアンスのようなものがキャッチしにくいのではないかと思うのです。実際に会うことで起きるプラスの反応も、ここからは生まれません。オンラインをうまく使う方法はありますが、オフラインの大切さも社内で共有していかなければならないと感じています。
小間:当社では、現地を見る必要がある現場の従業員は原則出社ですが、その他の従業員は在宅で仕事をしています。しかし、中島さんのお話で挙がった、目の不自由な方といることで起きた変化は、実際にその人と接することがなければありえなかったことですよね。オンラインでの「場」とオフラインでの「場」。双方ともに利点があり、例えばこの人を理解したいという時はオフライン、意思決定まで進んだ場面ではオンラインというように、使い分けることが大事だと改めて考えさせられました。
中島:オンラインでのコミュニケーションはたくさんの可能性を開いてくれました。時間に制約がある、子育て中の主婦の方などからも力を借りることができています。また、音楽は、オンライン上で配信することもできますが、ライブでしか味わえない良さもあります。オンラインとオフラインを組み合わせれば、世界中のいろいろな場の中で、ジャンルの違う多彩なセッションも可能になります。
持続可能な未来をともに創る。
鍵を握るAIとデータの活用
中島:私は出会いの場となる多様性を尊重するコミュニティや、それらを包括的に受け入れ、発展させる協創の場は、とても大きな役割を果たすと考えています。そして、そこから何かが生まれてくる、社会が動きだすといった仕掛けをつくっていくことが大切です。欧米はルールをつくることが上手ですよね。SDGsもその一つです。ルールをつくることで、巨大なビジネスの流れをつくりました。多様な人たちが手を取り合える仕組みをルール化できれば、サステナブルなエコシステムをつくっていくことが、もっと容易になるのではないでしょうか。
小間:私も、多様性は協創に不可欠な要素だと思います。従来の産業の枠は、互いにすそ野を広げています。自動車産業、住宅産業ともに、単にモノをつくることから、テクノロジーを取り入れ、サービス産業という側面も出てきました。たとえば、AIを活用して多様なデザインパターンを瞬時に作成したり、サブスクリプションで売ったりと、ビジネスモデルが変化しています。この大きな変化には1社だけでは到底対応しきれません。相手の違いを強みとして活用する多様性、協創を取り入れる仕組みがないと、生き残れなくなってしまうと思っています。また、AIとデータの重要度もますます高くなっています。
山本:生成AIに関しては、ソリューションやサービスとして展開していく上で、信頼性をどう担保するかが重要な問題です。倫理面を含めて慎重に検討を重ねていく必要があります。生成AIを提供する企業を第三者機関が認証する制度も生まれているので、当社としても社会的責任を果たしながら普及に努めていきたいと考えています。
中島:データが次世代の重要な鍵を握っていることは間違いありません。AIについては、どのようなデータが使われていて、どのようなアルゴリズムで動いているのか。ある程度、理解して使わないと、翻弄されてしまう危険をはらんでいるように思っています。教科書を読み、問題を解くのではなく、自分でAIを使ってみることで学びが生まれ、身につけられることがあると思います。
AIも友だち。
一緒に遊ぶ楽しさが、
これからの人財育成の極意
中島:インターネットやSNS、AI、ローコード・ノンコード開発など、さまざまなテクノロジーのおかげで、誰もがつくり手になれる時代です。私はそれを、「創造性の民主化」という言葉を使って表現しています。動画の配信サイトを使って発信すれば、昨日まで無名だった人がタレントになることも夢ではない。もうデジタルとアナログを分ける時代ではありません。何かをやりたいと思う気持ち、そのコンセプトを実現するために、いろいろな人と力を合わせて協創していく。新しいテクノロジーがでてきたら、それを取り入れてまたつくり直す。試行錯誤しながら、創造体験を重ねていく。やがてテクノロジーは、リアルな世界での制約を取り除いてくれることでしょう。たとえば、高齢者になって体力が落ちてきたとしても、デジタルを活用すれば、できることや楽しめることがぐんと増えます。大人向けのSTEAMのような「遊び場」がもっと増えて、テクノロジーに対する心理的安全性が高まると同時に、感性や身体性の重要性も今まで以上に高まっている時代になっていくと思います。
山本:誰もが本来持っている力を引き出すという中島さんの理念や行動は、とても参考になることばかりです。個々人の能力を最大限引き出すためには、個々人の仕事がマッチしているかの見直しも大切だと考えています。当社では、入社3年目の従業員を対象にしたジョブマッチングの制度があります。あなたのやりたい仕事は? キャリア形成のプランは? あらためて問いかけることで、自分で考えて行動するきっかけをつくれたらと思っています。50代以上の熟練者を対象としたプロフェッショナルエルダー制度もあります。また、日立グループ全体に範囲を広げたFA制度も導入しました。あらゆる世代の人財が組織という枠に捉われず、イキイキと活躍できる職場をめざしています。古い考えを打ち破って、常に新しいものをつくり続けていくことの重要性を感じています。
小間:私も協創を推進するうえで、多様な人財が最大限のパフォーマンスを発揮することが最も大事だと考えています。組織においてAIは、もう人財と言えるかもしれませんね。AIは、文句も言わずにひたすらアイデアを出し続けてくれます。最初はありきたりのつまらないものでも、もう少しセンス良くというようにリクエストをすると、すぐに軌道修正してくれます。人間だったら何カ月もかかるところを数時間で行えます。ところが、細かい設計などを頼むと、とんでもないものがでてくることもあります。AIにも得意、不得意がある。得意なところで活かせる使い方をすることが大切ですよね。
中島:すべてにおいて、遊びが重要だと思っています。好きだと感じる、何かをおもしろいと思うといった、余白のようなものがとても大切で、それが生まれるのが遊びだと思います。また、問われる経験と問う経験が、今までの社会には少なかったように感じています。これからは問う力が大事になります。そのためには問われることが必要です。問われ続けることで、問いを生みだす力が身についていくからです。答えが一つではない創造的な世界を、ITを通して遊ぶ。そうすれば、いろいろなことがもっと楽しくなります。そういう仕掛けをつくりたいと思っています。
山本:当社には、アイデアを持っている人がたくさんいます。中島さん、小間さんとの出会いを機に、持続可能な社会に向けた「遊び心」を一緒に育み、ひろげていきたいと思います。
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