日立ソリューションズは、社会生活や企業活動を支えるソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。

起業スタートアップからスケールアップへ 「スタートアップ創出制度」で生まれたビジネスが成長軌道に

シリコンバレーでの起業を支援するプログラム「スタートアップ創出制度」を利用して会社を設立したPaletter Incが、1年間にわたる事業検証などの活動を終え、2024年4月から新たなフェーズへと移行しました。さらなる資金調達に注力しながら、ビジネスのスケールアップをめざしていきます。スタートアップ創出に本気で取り組む当社の、リスクを恐れない世界への挑戦は続きます。

集合写真
井上 正彦さん

Paletter Inc、Founder, CEO

井上 正彦

日立ソリューションズ入社後、インフラSEなどの業務に従事。2022年にスタートアップ創出社内制度の最終選考会を突破。
ベンチャーキャピタルのDNX Venturesと日立ソリューションズで組成した投資事業組合からの出資を受けて新会社Paletter, Inc.を設立した。

上田 淳さん

Paletter Inc、Co-Founder、CMO

上田 淳

日立ソリューションズ入社後、プログラマ、ネットワークエンジニアを経験した後、日立製作所に転籍し事業開発および研究開発に従事。2022年10月から渡米し、Paletter, Inc.の共同創業者として参画。

採用の最大のネックだったソフトスキル判定をAI化 最良のマッチングを実現

Paletter の主な事業内容を教えてください。

井上:HR分野における、AIを活用したソフトスキル評価ツールに関する事業を立ち上げました。人が人を評価する際、感覚や主観に左右される場合が少なくありません。しかも、重視するソフトスキルは企業によってもまちまちです。そこで、言語化や標準化が困難なソフトスキルの判定を、企業独自の基準に合わせて実施できるようにAIに学習させることで、マッチングの最適化、効率化を支援するというものです。

アイデアの着想はどこから得たのですか。

井上:私自身、これまでに何度か、システム開発に必要なエンジニアを求めて面談を行った経験があります。人事が行う採用面接とは趣きの異なる、専門性の高さに焦点を絞ったものです。現場のプロジェクトリーダーやマネージャーなど、業務に精通したものが面談にあたるのですが、パフォーマンスを充分に発揮してもらえるケースばかりではありませんでした。ミスマッチはなぜ起きてしまうのか。適性を見極めることの難しさを実感し、以前から問題意識を持っていたのです。

事業の優位性を高めるために
工夫した点はありますか。

井上:極めて困難とされるソフトスキルの言語化、標準化を図る上で、AIは最適、かつ必要不可欠なテクノロジーでした。AIによるソフトスキルのスコアリングが実現すれば、定量化と再現性を同時に手に入れることにもなるからです。

クラウドサービスで利用できるSaaS(Software as a Service)での提供をめざし、検討と技術検証を重ねていきました。

上田:リーガル面を工夫しました。ビデオインタビューの画像利用に個人情報とプライバシーへの疑義が生じないように、アメリカやヨーロッパの情勢を反映したオペレーションとしています。特に採用へのAI利用に対してアメリカで最も厳しいとされるNYC 144 Local Lawに対応すべく外部監査を受け、結果を公表しています。

参考: https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/07/371f37710f066b3d.html

参考: https://proceptual.com/paletter/

井上さん

企業と人財、双方の幸福感を増大することで、 社会課題の解決に貢献

この事業は、どのような社会課題の解決につながるとお考えですか。

井上:アメリカでは、顔写真や名前といった人種の推測や特定につながる要素は、レジュメに掲載する必要がありません。加えて、生成AIを活用すれば、誰でも簡単に魅力的なレジュメを作成できるようになりました。もはや書類選考の段階で、リクルーターが応募者のソフトスキルを予測するのは不可能と言えるでしょう。獲得したい人財にピンポイントでアプローチできれば、時間や手間の大幅な削減が可能になります。

上田:転職のサイクルが短いアメリカでは、その分、面談が頻繁に行われます。しかし、それに対応できるプロフェッショナルなリクルーターは企業の中で限られています。

例えばコミュニケーション能力といっても、積極的な人を望む会社もあれば、そうでないところもあるように、求められる特性や能力は会社ごとに違います。一般的な試験や検査では、フィットする人財を見極めることは至難の業です。こうした、リクルーターの暗黙知が必要とされる場面で威力を発揮するのがAIです。経験が浅い担当者でも、ミスマッチを減らし、採用の公平性を保つことができるようになるのです。企業と人財、双方の幸福感を増大することにもつながります。

井上:採用マッチングという難易度の高い作業を、人の力だけに頼ってきたことが、本質的な課題解決を遅らせてきた要因だと考えています。レジュメのチェックや、応募者とのミーティングスケジュールを自動化するツールはすでにありますが、採用の最終的な決め手は 「人」を見極めること以外にありません。この部分のDX化が進めば、マッチング率は飛躍的に向上するはずです。終身雇用という概念が希薄なアメリカ社会が抱える課題に直結したテーマだと思っています。

シリコンバレーで、スタートアップに挑戦することに不安はありませんでしたか。

井上:言語の問題や、家族と離れて暮らすことに対する生活面の不安はありましたが、仕事への不安はあまりありませんでした。日本で積み上げてきたことを、今度はアメリカで試したいという思いの方が強く、むしろ飛びついた感じでした。

上田:アメリカでの生活経験があるので、不安はまったくありませんでした。信頼できる仲間とともに、スタートアップに挑戦できるのなら、二つ返事でアメリカ行きを決めました。

ゼロから対面で築き上げた強固な連帯

事業化の過程で最も苦労したのは
どのようなことですか。

井上:どんなに素晴らしいアイデアがあっても、それだけで事業化を実現させることはできません。市場を形成する企業の本音、リクルーターが何を求めているのか、洞察を深めていく過程で、鍵となるのはメンバーの存在です。想いを共有できる仲間をどれだけ集められるか。エンゲージさせることができるか。右も左もわからないアメリカでのチームビルディングには本当に苦労しました。

手探りで試行錯誤を繰り返しながらも、こだわったのはフェイストゥフェイスのネットワークづくりでした。たくさんの人が参加するビジネスカンファレンスのような場にも何度も出向き、私たちの仮説に興味を示す人、反応が良い人をつかまえては、丁寧にじっくりとプレゼンテーションを重ねていきました。こうした地道な活動を通じて意気投合した人たちが今のチームメンバーです。

上田:アメリカで参加してくれたメンバーに、なぜジョインしようと思ったのか、その理由をたずねたことがあります。皆が一様に口にした言葉は意外にも「直接、会いに来てくれた」という温かみを感じさせる、アナログ的なものでした。

あなたと一緒に仕事をすると、お互いこういうことができるんじゃないかという仮説をたてて話を進めたことも共感につながったようです。膨大な移動時間と仮説によるアプローチが実を結んだ結果だと思います。

今後の活動についてお聞かせください。

井上:これからはベンチャーキャピタルからの出資をめざすことが活動の中心になります。私たちの目のつけ所はソフトスキル。感覚的なものをAIで再現できる点が特徴です。今のところアメリカで、類似の事業展開は見当たりません。実績を増やすには今が勝負の時ととらえ、資金調達に注力したいと思っています。

現在、アメリカ大手のファーストフードチェーンを持つ会社と契約しています。全米に展開している店舗を足がかりに営業展開を拡充していく予定です。

スタートアップの本場アメリカで、市場を席巻することも夢ではないと思っています。

上田さん
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恐れぬ一歩から成長がはじまる 挑戦しないことが最大のリスク

スタートアップはなぜ必要だと思いますか。

上田:日本にいたときと比べ、時間が経過するスピードが3倍ほど速いと感じていました。アメリカの国力の大きさが、そう思わせていたのかもしれません。予測困難な社会にスピード感を持って立ち向かうことを使命とする、スタートアップは社会の成長を促す十分条件だと思います。

井上:リスクの少ないスモールビジネスではなく、あえてスタートアップに挑戦していくことに意味があると思っています。当社では、トップ自らが陣頭指揮をとって挑戦の気概を持ったグローバル人財の育成をめざしています。

日本人は、リスクを回避する傾向が強いですよね。恐れ過ぎずに、リスクのとらえ方を少し変えてみて欲しい。そして、チャンスをつかんで欲しいです。

上田:当社にとってスタートアップは、社会課題を解決する事業をスピード感を持って創出するという意味を持っています。「時代の先を見つめ、変化を先駆ける。

確かな技術と先進のソリューションで、地球社会の未来をみんなと切り拓いていく。」企業理念とも一致するものです。

SXの進展に「スタートアップ創出制度」はどのような意義を持つと思われますか。

上田:この制度には誰でもトライすることができます。できそうにもないことに挑むのがチャレンジだとすれば、トライを通して、チャレンジしていく精神を育むという効果をもたらしていると思います。またスタートアップ創出をサスティナビリティな方法論として確立する可能性もあります。社外からの反響も大きく、視察に訪れる企業もたくさんありました。

経済産業省でも、日本をスタートアップ大国にするための取り組みを加速していますが、いち早く実行してきた当社の存在は、先駆者的な立場にあります。この制度が持つ意義はとても大きいと感じています。

井上:日本社会におけるスタートアップの機運を、確実に高めたと思います。自分自身にとっては、チャンスを与えてもらったことに幸せを感じています。

こうした制度を設け、会社として奨励しているところがすごいですよね。それを継続していくことで文化として根付くことに期待しています。

たとえ失敗したとして、学べることはたくさんあります。企業にとっても、個人にとっても、何もやらないことが最大のリスクだと思います。

日本選手のメジャーリーグでの活躍が注目を集めていますが、日本人初のメジャーリーガーが誕生したのは今から約30年前のことです。スポーツ選手でも、人気動画サイトのメガインフルエンサーでも、必ず最初に道を拓いた人がいて、憧れたり共感したり、フォロワーになる人もいれば、自ら挑戦する人が現れてきているんだと思います。

これまでの会社人生において、そのような憧れや共感、感動や挑戦に心躍らせて過ごす機会や経験はなかなかありませんでした。寧ろそこから目を背け、日々の仕事を効率良くこなすことに終始してきた自分がいました。会社員だからできない、なんて理由はなくて、それぞれの立場で挑戦できることは必ずあるはずで、その方がやりがいや成長を実感でき、そして何よりも楽しいはずです。もちろん苦痛や困難が伴いますが、そこから逃げずに向き合っていく姿を見せていきたいと思います。身近な私たちの活動に刺激を受け、おもしろそうと感じ、後に続く人が次々と誕生することを願っています。スタートアップに挑戦する流れが途絶えることなく続く姿そのものが、SXといえるのかもしれませんね。

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