イノベーション創出活動
研究戦略
当社では、先進技術の評価研究活動を通じて事業をスケールさせるための施策につなげたり、技術の本質をつかみ、投資判断に役立てたりしています。AIやクラウドなどについては専門組織により全社展開を進めているほか、メタバース※1、マイクロサービス※2、SXなどの分野に取り組んでいます。
メタバース分野ではアメリカに活動拠点を置き、大手からスタートアップまでさまざまな企業や、先進ユーザーを含むエコシステムの中で、最先端のメタバース技術を調査・研究しています。また、エンタープライズシステム(企業の情報システム全般)への導入検討、ユーザーへの提供価値を高めるためのコア機能などの検討を行っています。
マイクロサービスは、ITシステムのモダナイズ※3実現方式として近年注目を集めている技術で、アジリティ※4向上や運用効率化を進め、企業の競争優位性を継続的に実現するためのITシステムの頻繁な改修を可能とします。その活用にあたっては、導入戦略の策定や、各設計・構築技法群の要否の判断が重要となるため、費用対効果の高いモダナイズ目標の設定方法と導入方法をノウハウとして整備しています。
SX分野では環境価値、社会価値、経済価値の向上を実現するための技術開発活動が全世界で急速に高まっています。ITシステムによる脱炭素への貢献において、2022年度は以下の活動を行いました。
※1 : インターネット上に構築された3次元の仮想空間やそのサービス。
※2 : 複数の独立した小規模なサービスを組み合わせて、一つの大きなアプリケーションを構築する開発手法。
※3 : 古いシステムを現在のニーズに合った最新のシステムへと刷新すること。
※4 : 経営や組織運営における機敏性。
(1) コンソーシアムへ参加し、カーボンニュートラルの業界動向や技術動向を調査
CO2排出量削減の取り組みを行うには、排出量を可視化できていることが前提となります。その規格である国際的な枠組み(WBCSD PACTのPathfinder Network)でCO2排出量データ連携の実証実験がGreen x Digital コンソーシアムで行われており、当社も参画しています。
(2) ITを活用したCO2排出量可視化に関する技術調査
IT分野においては、AIやブロックチェーン※のように電力を大量に消費する技術もあります。当社はITシステムにおけるCO2排出量の可視化など、オープンソフトウェアツールの活用やGreen x Digital コンソーシアムの活動を通じて、ITの活用を通じたCO2排出量削減に向けた研究へ取り組んでいます。
※ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する仕組み。
知的財産
知的財産権の尊重
当社では知的財産(知財)活動を事業戦略の一部として重視しており、他者の知的財産権を尊重、および当社の知的財産権の保護と活用に努めています。また、日立グループの一員として、日立グループ企業倫理・行動規範にのっとり、知的財産権を侵害しないソリューション開発に努めています。
事業を支える知財活動
当社は、事業を支える知財活動に取り組んでいます。その一つが、当社の重要事業に対する特許群の形成です。特許群によって、当社の技術が競合他社に採用されるのを防止したり、当社の技術をお客さまにアピールするなど、当社事業の保護強化を行っています。
また、グローバル事業の展開も視野におき、各国での権利化を推進しています。
今後の取り組み
今後も効率的に特許群を形成しこれを維持するために、また、将来にわたる当社事業の自由度を確保するために、事業部門と知財部門が連携して事業に密着した知財活動および支援の充実を図ります。
発明者への報奨制度
当社は、充実した発明報奨制度により研究・開発の第一線で働く従業員の発明意欲の向上を図っています。具体的には、日立製作所の基準に準じて報奨金額の基準を設定し、従業員に公開しているほか、支払われた報奨金に関する問い合わせや意見聴取に応じるなど、公正で透明性のある制度運営を行っています。
DXラボ
専任のコンサルタントや技術者が伴走し、アイデア創出から仮説構築、価値検証、ビジネスモデル構築までの一連のプロセスを最短3カ月間で実現する場所をオンライン上に提供しています。当社の新規ビジネス創出事例やDX推進の知見と技術力をかけ合わせ、お客さまのDX推進を強力に支援します。
これまで、建設業や人財サービス業、マンガ業界などさまざまな業種の方々と協創し、DXを実現するサービスを立ち上げてきました。今後もさまざまな企業や地方自治体との連携を通じてDXを推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
横浜未来機構のアイデア創出ワークショップを開催
横浜未来機構では、産学公民連携によるイノベーション都市の基盤構築に取り組んでいます。今回のワークショップの目的は、2027年の「横浜」の事業アイデア創出。当社のDXラボが活用され、2023年11月から12月の1カ月をかけ、事業アイデア創出のためのワークショップをオンライン上で開催しました。
オンラインならではのツールを駆使し、パブリッククラウドの発想支援ツールを使ってイメージをふくらませるヒントや、ユーザー像と提供価値を絞り込むことで、事業の可能性を高めるクロージングセッションなど、誰もが気軽に楽しく学びながら、アイデアをブラッシュアップできる実践的なワークショップを運営しました。また、創出したアイデアを実際に動かして体験できるプロトタイプを作成することで、アイデアの価値を具体的に表現し、プロジェクトの成功に大きく貢献しました。
2024年2月には横浜市にて実地ヒアリングを実施。横浜市民の皆さまからご意見をいただき、アイデアの改善を行いました。
持続可能な未来都市「横浜」をめざし、オンラインとリアルのハイブリッドで検討を進め、多様な意見を取り入れています。
UX(ユーザー体験価値)デザイン支援
当社では、顧客体験価値の向上を目的として、システムやサービスの機能の使いやすさを向上させるだけではなく、ユーザーに喜ばれる価値の創造に取り組んでいます。
ユーザー視点でのニーズや課題の抽出
具体的な一例としては、まずペルソナやカスタマージャーニーマップなどの作成を通じてユーザーの理解を深め、潜在的なニーズや課題を明らかにします。
UX設計支援
ユーザーの課題を解決するアイデアを検討して、UXを構成する要素の一つであるUI(ユーザーインターフェース)のプロトタイプを作成します。作成したプロトタイプを用いたユーザビリティテストでアイデアを評価し、ユーザーのニーズに適合しているのか、課題を解決することができるのかを確認します。これらの活動は「ISO 9241-210 人間中心設計プロセス」に準拠しています。これらに加え、カラーユニバーサルデザインやアクセシビリティなどの知見も活かし、多様なユーザー特性に配慮した設計・開発を支援してきた経験豊富なUXデザイナーとUX専門家が、さまざまなプロジェクトをサポートしています。
グローバル成長戦略
当社は、北米を中心に、カナダ、ヨーロッパ、インド、APACの4地域が連携し、マイクロソフト社など、さまざまなパートナーとの協創によるイノベーションを創出しています。
海外事業を担う各拠点は、人種、文化的に多様な人財が活躍する職場です。さまざまなバックグラウンドを持つ人財が、事業活動やボランティア活動を通じて、持続可能な社会を実現するという価値観を共有し、従業員同士が協力することで、社会課題の解決に取り組んでいます。
2022年度、イギリスでは、ロンドンにおける地域社会の課題解決を推進するプログラムへ参画。Microsoft Azure上で、本プログラムを支えるIoTプラットフォーム※1をマイクロソフト社と協力して構築しました。社会的脆弱者の家に設置されたセンサーによる見守りサービスや、通学路に設置されたセンサーによる大気成分の監視などのIoTプラットフォームの活用により、地域社会の課題解決に向けて取り組んでいます。
また、アメリカでは、LGBTQ※2への理解を深め、オープンで公平な環境をつくるために従業員向けのコミュニティーを発足するなど、サステナブルな社会への取り組みをグローバルで展開しています。
※1 : 企業がIoTを活用するために必要なさまざまな機能やサービスを提供する基盤のこと。
※2 : Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender、Queer/Questioningの各語の頭文字をとった表現。
グローバルにおける人員構成
総数 約2,900名(2023年3月末 現在)
当社グループの製品・サービスを東南アジア(APAC)に展開
APACにあるBusiness Innovation Centerでは、当社の製品・サービスをベースに、新規事業の創出やマーケティングを行っています。また、インドのグローバルデリバリーセンターでは、高度な専門技術を持つクラウドやAI、Deep Learning※1技術者の育成を推進しています。
※1 : ディープラーニング。コンピューターが自動で大量のデータを解析し、データの特徴を抽出する機械学習のひとつ。
※2 : 会員・ポイント管理をはじめ、運営で収集した情報をもとに、AIによるレコメンドや効果測定など、お客さまのマーケティング活動をトータルに支援します。
カナダにおけるLifelabs社との協創を通じた医療分野への貢献
カナダでは、医療検査サービスを提供しているLifeLabs社との協創により、出入国者のPCR検査サービスや検査機関による訪問検査サービスの開発を通じて、医療分野へ貢献しています。
旅行者のPCR検査サポートにより感染症拡大を防止
当社の米国法人であるHitachi Solutions Canada, Ltd.(以下、Hitachi Solutions Canada)は、Microsoft Power Appを用いて、LifeLabs社が提供するオンラインPCR検査サービス「FlyClear」のエンハンスを行いました。専門の医師がリモートでサポートすることで旅行者自身によるPCR検査が可能となり、検査結果がリアルタイムで確認できるなど、旅行者の利便性の向上と検査の負担軽減を実現。カナダ出入国時において、毎月10万人以上の旅行者が利用しており、健康で安全な旅行の実現と感染症の拡大防止へ貢献しています。
多くの人たちの健康を守る訪問検査サービスの提供
Hitachi Solutions Canadaは、LifeLabs社との協創により、検査機関による訪問検査サービス「MyVisit」を開発しました。従来、検査のためには、患者が自ら検査機関へ行く必要がありましたが、「MyVisit」によりオンラインで予約を行えば、検査機関のスタッフが自宅へ訪問し、検査を受けることが可能になりました。妊婦や子育て中の世帯、疾病者、シニア世代など、検査機関へ行くためには負担が大きかった人たちにとっても、安全して検査サービスを受けることができます。「MyVisit」は、カナダのオンタリオ州からサービスを開始しており、1年間で10万件以上の検査を実施しています。今後はカナダ国内の他の州へのサービス展開も視野に入れるなど、多くの人たちの健康を守る取り組みへ貢献しています。