コラム
建設業向けソリューション
本コラムは一般社団法人日本建設機械施工協会が発行する機関誌「建設機械施工」2022年5月号に掲載された記事をベースに加筆・修正されたもので、3回に分けて掲載します。
【連載】ICTを活用した労働安全衛生の最新動向
~情報をつなげば「安全」と「生産性向上」は両立できる~
第1回 センサーデバイスを活用した作業員の安全見守り
厚生労働省が公表した労働災害発生状況速報値 a)によれば令和3年の労働災害者数は13万人を超えており、増加傾向にあります。建設業においても例外ではなく令和2年と比較して増加しています。建設業の死亡災害の型は墜落・転落、建設機械・クレーン災害、倒壊・崩壊災害が3大災害であり、この傾向はこの半世紀の間でまったく変わっていません。対策としてフルハーネス安全帯の着用義務化などの法改正はあるものの基本的な対策が大きく変わるものではありません。そもそも労働災害は「不安全な状態」に「不安全な行動」が重なったときに発生するため、「不安全な行動」をなくす、もしくはいち早く「不安全な状態」を見つけて是正することができれば災害は減少するのです。それをIoT・AIなどのICTを活用して実現することがより現実的になってきています。ICTを活用した対策としては「センサーやカメラによる危険検知」と「労働安全衛生マネジメントのデジタル化」の大きく2つに分かれると考えており、この2つの対策の歯車がきちんと組み合った対応が重要となります。本連載では前者から2つ、後者から1つのソリューションに関して3回に分けてご紹介します。第1回目となる今回は、暑くなるこれからの季節に効果を発揮する「センサーデバイスを活用した作業員の安全見守り」です。
厚生労働省が公表した令和3年の職場における熱中症による死傷災害の発生状況(令和4年1月14日時点速報値) b)は死傷者数547名、死亡者数20名となっており、過去3年間の状況と比較すると最も少ない人数でした。しかしながら死亡者数を業種別でみると建設業が11名で最も多く、全体の半数以上を占めている状況です。月別では5月から増加し始めて8月が最も多いことから、今年の夏も「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」が実施されますが、その実施要項 c)には下記3点の対策を徹底することが重要と記されています。
- ①初期症状の把握から緊急時の対応までの体制整備を図ること
- ②暑熱順化が不足していると考えられる者をあらかじめ把握し、きめ細やかな対応をすること
- ③WBGT 値を把握してそれに応じた適切な対策を講じること
これらの対策についてはセンサーデバイスを活用することで対策支援ができると考えているのでご紹介します。これは、既存のヘルメットに装着可能なセンサーデバイスを用いて、作業員の状況を可視化し、健康や安全を見守るサービスです。センサーデバイスから脈拍やヘルメット内の温度、活動量などの生体情報と、温度や湿度などの環境情報を収集してクラウド上へデータを送信・解析し、アラートが発生している際には、事務所の管理者や現場監督に、通知するという流れになります(図―1)。
図―1 センサーデバイスを活用した安全管理のイメージ
熱中症の場合には気がつかないうちに発症してしまうことがありますが、熱ストレスを数値化して基準値を超えた場合には休憩や水分補給することで熱中症は未然に防止できます。通知するアラートとしては、熱ストレスアラート以外にも、転倒、落下、緊急通報などがあります。センサーデバイスで取得したデータをクラウドに送信する方法はセンサーデバイスにSIMカードを挿入し、LPWA回線を利用してクラウドへデータをアップロードする方式です。世の中 にはセンサーデバイスを活用した熱中症対策製品が存在しますが、スマートフォンとBluetoothで接続するタイプが多く、スマートフォンが必須となってしまうのです。現場の作業員にとってこれらのデバイスはできるだけ少なく軽い方が好まれます。
作業員に継続的に使っていただくためには2つのポイントがあると考えています。それは「邪魔にならない」と「使うメリット」です。「邪魔にならない」について、重さは105gと軽く、一般的なヘルメット向けヘッドライトの電池ボックスと同等のサイズです。建設現場の作業員が必ず身に着けるヘルメットに装着するので付け忘れも少なくなります。「使うメリット」については熱中症対策であることはもちろんですが、人やモノの位置を把握することも可能です。現場に設置した位置タグと資材タグのビーコンをヘルメットデバイスで感知することで、資材と作業員の位置を検出することができるのです。例えば電動ドリルや高所作業車に資材タグを取り付けておけば、作業員が歩くことで、WEB管理画面でそれらのモノの位置を確認することが可能となります。これによりヒト・モノを探す手間が軽減されます。作業員の体調をリアルタイムに検知することも重要ですが、労働安全衛生のPDCAサイクルを回すためには、センサーデバイスのデータを可視化・分析し、再発防止策を検討することも必要です。例えば、蓄積したデータから作業員の体調を継続的にモニタリングしたり、現場ごとのアラート発生時の状況を把握し傾向を分析するなどです。一般的に、センサー側ではデータを大量に保持することが難しいですが、クラウド上のサーバーで長期に渡り保持し、傾向分析した結果は再発防止策の検討で大いに役立ちます。建設業における熱中症による死傷災害の防止に向けてお客さまと一緒に取り組んでいきたいと考えています。
今回はセンサーデバイスを活用した作業員の安全見守りや、位置情報を活用した作業効率向上についてご紹介しました。次回はカメラ画像を活用した「安全装備チェック」や「不安全行動監視」など、安全パトロールの自動化・効率化についてご紹介します。
[出典]
a)
令和3年における労働災害発生状況について(厚生労働省資料)
b)
令和3年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況
(令和4年1月14日時点速報値) (厚生労働省資料)
c)
令和4年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
(厚生労働省資料)
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