コラム

建設業向けソリューション

本コラムは一般社団法人日本建設機械施工協会が発行する機関誌「建設機械施工」2022年5月号に掲載された記事をベースに加筆・修正されたもので、3回に分けて掲載します。

この記事をかいた人

日立ソリューションズ サステナブルシティビジネス事業部

浜村 憲
(はまむら けん)

2017年から「ICTを活用した労働安全衛生」をテーマとしたマーケティング活動を開始。
翌年に「労働安全衛生トータルソリューション」を立ち上げ、企業の安全衛生担当者向けの紹介やセミナー講演などのプロモーション活動を行いながら、全国の労働災害撲滅に向けて日々奮闘中。

浜村 憲(はまむら けん)

【連載】ICTを活用した労働安全衛生の最新動向
~情報をつなげば「安全」と「生産性向上」は両立できる~

第2回 カメラ画像を活用した作業員安全確保

連載第1回ではヘルメットに装着可能なセンサーデバイスを用いた作業員安全見守りについてご紹介しました。前回も書きましたが、そもそも労働災害は「不安全な状態」に「不安全な行動」が重なったときに発生するのです。バイタルセンサーは作業者の体調不良など「不安全な状態」を把握するには大きな効果を発揮します。一方で「不安全な行動」を把握するためにはカメラ画像を活用するのが有効と考えています。

自動車の安全運転支援ソフトウェアの開発で長年培った画像認識AI技術を活用し、人の目視作業を効率化・自動化するためのソリューションに関して当社へのお問い合わせが多数あります。その多くは製造業の検査工程において生産物に汚れや外観上の傷、異物を発見するためのものでしたが、ここ数年では作業員の不安全行動監視、安全装備の装着確認に適用できないかとお客さまからご相談いただき、実証実験の機会が増えています。画像認識AI技術を活用した安全対策のメリットはいくつかあります。1つ目は事故を未然に防止できるということです。監視カメラ映像を使って安全ルールが守られているかを自動的にチェックし、重大事故に繋がりかねない行動を検知した際はアラートをあげて注意すれば事故を未然に防ぐことが可能となります。2つ目は監督作業の省力化です。建設業においては慢性的な人材不足の背景もあり監視カメラ映像を常時監視するのは現実的に不可能と思います。監視カメラ映像のデータをリアルタイム転送して画像解析することで監視の自動化や遠隔監視が可能となります。監視業務を軽減すれば、現場監督者は本来の現場業務に集中できるので生産性向上にも繋がるうえに、昨今のウィズコロナ時代であることも鑑みると遠隔監視のメリットはさらに大きくなるでしょう。3つ目は教育コンテンツとしての活用です。不安全行動を検知した際のリアルタイムアラート発報がすべてではなく、不安全行動を検知したときの動画を切り出して確認するなどのドライブレコーダーのような活用方法で、管理者がより具体的な指導ができるうえに、作業員にとって理解しやすい教育コンテンツにも活用できます。

初めに画像認識AIを導入するメリットを述べましたが検討の際に注意すべき点が2つあります。1つ目はAIが万能ではないということです。Deep learning(深層学習)を活用したAIは汎用性が高く、人の感覚値に似た判定が可能となりますが、一方で人と同様に100%正解ではないということを理解する必要があります。そのため、最大限に効果を発揮する条件の検討や最終的には人が判断するなどの対処が必要となるのです。2つ目はAI学習には大量のデータが必要だということです。特定の現場、特定の検知対象の映像データを覚えさせたとしても、特定条件下でしか動作しないAIができてしまいます。学習データの大量収集やAIモデルをゼロから開発するとなると導入までの期間が長期化し、それに伴うお客さまの費用負担が大きくなってしまう傾向にあると感じます。そこで、当社では複数社との取り組みで得られた大量のデータを生かして幅広い現場に適用できる学習済みのAIモデルを提供しています。これによりテータ収集の手間やコストを大幅に短縮できるのです。ただし、先ほど申し上げたようにAIは万能でないので、ベースとなるAIモデルは「安全装備チェック」と「安全行動チェック」に限定しています。「安全装備チェック」においては、ヘルメット・フルハーネス型安全帯・防塵マスク・手袋・ゴーグルの5点は学習済みの状態であり、スムーズな導入ができます(図―1)。

安全装備チェックのイメージ

図―1 安全装備チェックのイメージ

ここで気になるのは検知率ですが、手袋の着用確認で現場検証した実績をご紹介すると製造業A社様では実施期間1カ月で90%程度、運輸業B社様では実施期間3か月で95%程度の正解率で検知できています。「作業員安全行動チェック」においては、ポケットに手を入れたままの歩行や、歩きスマホなど歩行中の不安全行動や危険エリアへの侵入を検知対象としています(図―2)。その他の安全装備や危険行動に関するお客さま固有のご要望に対してもAIモデル構築は可能なので是非ご相談ください。個別でご相談頂いている中でも建設業のお客さまからはフックの掛かり検知のご要望が非常に多くあります。フルハーネスは着用していてもフックを正しく使っていなければ災害防止にはならないとのご意見です。これを検知するためにはカメラの画角調整や解像度を上げるなども含めてハードルは高いですが、現在は複数社のお客さまと実証実験を進めておりまして、一定の成果を確認済みです。

安全行動チェックのイメージ

図―2 安全行動チェックのイメージ

今回はカメラ画像を活用した「安全装備チェック」や「不安全行動監視」など、安全パトロールの自動化・効率化についてご紹介しました。次回のテーマは労働安全衛生マネジメントのデジタル化です。作業安全指示書や安全日報などが手書きという現場も多いと聞いていますが、安全に関する大切な情報資産が埋もれてしまうのは“もったいない”と感じますので有効活用する方法についてご紹介します。

【連載】ICTを活用した労働安全衛生の最新動向 第2回

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