【講演レポート】
ビジネスの未来を変えるITとは?最新動向を解説
荒川 啓之 Arakawa Hiroyuki
荒川 啓之 Arakawa Hiroyuki
ITプラットフォーム事業部 デジタルプラットフォーム本部
シニアITアーキテクト
ミドルウェア製品開発を経験したのち、2008年よりITアーキテクトとして、SOA、Java/.NET、クラウド、ビッグデータ、AI、データガバナンスなど、常に最新技術を活用したソリューションを立ち上げ、さまざまな業種のお客様の基幹システム構築、データ基盤導入をはじめ多数のプロジェクトを成功に導く。現在は、データ利活用基盤分野を中心に、新ソリューション開発や協業推進、セミナー講演など、社内外にて幅広く活動中。
渡邊 歩 Watanabe Ayumi
渡邊 歩 Watanabe Ayumi
ITプラットフォーム事業部 デジタルシフト開発支援本部 プロセス改善ソリューション部
シニアOSSスペシャリスト
SBOM(Software Bill of Materials、ソフトウェア部品表)および OSS(オープンソースソフトウェア)管理のエバンジェリストとして企業におけるOSS利活用を支援するコンサルティングを提供する傍ら、講演や寄稿、論文執筆などを通して日本におけるSBOMの普及促進に力を入れている。OpenChain公式認定パートナー。
俊敏性と柔軟性を備えたITシステム
DXを推進する企業が増えていますが、“最終段階であるデジタルトランスフォーメーションに向けた取り組みはこれから”という企業が50%以上という事実もあります。DXで成果を出していくためには、経営戦略やDX戦略に基づいて「データ戦略」や「IT戦略」を策定することが重要です。しかし、データ戦略策定にまで踏み込めていない、IT戦略がAs-Isの課題解決にとどまり、DXによるビジネス変革に合わせた戦略になっていないといった声も聞かれます。「データ基盤の構築やIT基盤の刷新そのものがゴールとなってしまって、うまくそれが活用されていかない。本来の目的であるDX活用まで進まない。その結果、データ戦略やIT戦略がビジネスに貢献せず、DXがスローガンというか“掛け声だけ”になってしまっているというケースも少なくありません」と荒川は指摘します。
DX時代のITシステムの要件として、競争力を強化するコア領域やビジネスの変化が速い領域に対しては俊敏性や柔軟性が重要です。また、非競争領域を含めたすべてのデータを活用するためのデータ管理基盤とデータ利活用基盤についても、同様に俊敏性や柔軟性が必要です。
変化の速い、予測の難しい状況では、ITシステムに対して、ビジネス部門(サービス事業部門や業務部門)の側から「こんなことをやりたい」といったあいまいな要件が頻繁に発生します。アプリケーション開発の面では、そのあいまいな変更要求に対して迅速に対応するため、開発の高速化と変更への柔軟性が求められてきます。アプリケーションが頻繁にリリースされる結果、「システムの構成や運用の変更に関して従来のやり方ではIT部門の負担が大きくなるため、システム運用の自動化と効率化が求められてきます。ここが大きなポイントになります」と荒川は話します。
荒川はデータ利活用におけるアプリケーション開発の取り組みと活用技術の例として、DataOps(データオプス)とデータファブリックについて説明しました。DataOpsというのはデータ管理者とデータ利用者が協調して継続的に拡張していくためのデータマネジメント手法です。DX時代のアジャイル的なビジネス推進に適しています。データファブリックはデータ基盤を構成するための技術です。ファブリックという言葉が意味するように、さまざまなサイロ化したデータを組み合わせて、効率よく必要なデータにアクセスするための手段を提供する技術になります。
これらの手法と技術により、「データ利用者の側もデータ管理者の側も負担を軽減できます。さまざまなデータを効率よく活用し、段階的に進化させることもできます。データファブリックにより構築したデータ基盤を活用して成果を出していくには、DataOpsの取り組みをあわせて推進することが重要です」(荒川)。
IT支援パートナーを活用してDXを推進
続いて荒川は、今回のメインとなる「DXを掛け声だけで終わらせないための方法」について解説しました。第1のポイントは、ビジネス視点でのデータ戦略とIT戦略を立案と、DXに合わせた段階的な推進です。データ戦略の立案では、データ利活用の目的と期待される効果を明確にしたうえで、特定業務から少しずつ始めて現場に効果を実感してもらいながら、全社に取り組みを拡大していきます。また、組織や体制、データを活用する企業文化の醸成や人財育成などの取り組みも必要になります。
IT戦略の立案では、データ戦略なども考慮しつつ、ビジネスの未来に向けた「あるべき姿」を描きます。そして、「ビジネス変化の速い競争領域から段階的に変革していきます。新技術を使いこなすためのプロセス変革の取り組みも必要です」と荒川は続けます。
第2のポイントは、IT変革を支援するパートナー選びです。データ戦略、IT戦略を立案・推進するうえで、経営ビジョン、組織・人財、ITといった三位一体での活動や取り組みが必要になってきます。ITについては、特に技術の進歩が速い状況にあります。ITスキルを備えた人財が不足しているといった課題も聞かれます。
ITスキル人財の不足など自社での解決が難しい部分は、外部のIT支援パートナーをうまく活用していくことが必要になってきます。日立ソリューションズでは、データ利活用ソリューションやモダンアプリケーション開発支援ソリューション、システム運用管理ソリューションなど、ITの変革を支援するさまざまソリューションを提供しています。ビッグデータやデータガバナンス、アジャイル開発、OSS管理、クラウドサービスなど、多様な分野の専門技術者がサポートします。「DXの推進状況やお客様の課題に最適なIT技術を提案し、活用するための取り組みを支援しています。“ITのチカラ”で、皆様のビジネスの未来に伴走します」と荒川は話します。
DX推進とともに企業の対応が迫られるSBOM
DXを推進する企業の内部においては、取り扱うデータ量の増加や複数のシステムの相互連携、システムの高機能化・大規模化にともなうOSSやパッケージ製品の活用の本格化など、さまざまな変化が発生しています。このようにDX推進の取り組みが進む中、特にセキュリティの観点で、さまざまな技術的課題が指摘されています。
こうした課題に対応するソリューションの一つとして注目されているのが、ソフトウェア部品表 SBOM(エスボム)です。例えば、パッケージ製品や委託開発によるシステムでは、その構成情報が明示されず、コードやライブラリー、ソフトウェアの内容が分からないため、ユーザーがシステムに内在する脆弱性などに関するセキュリティ対応を行うのが難しいという課題があります。
それに対し、「SBOMにより、システムの構成情報が可視化されることによって、ユーザーによる脆弱性対応などのメンテナンスが可能になり、IT資産を保護することができます。そのため、開発委託品の納入時やパッケージ製品の購入時に、システム開発側へSBOMを要求する動きが広がっています」と渡邊は説明します。
SBOMはこの1年で飛躍的に普及しました。米国政府調達ソフトウェアにおいて、SBOMの作成・提供が要求されたことを契機に、推奨フォーマットやコンテンツに関するガイドラインが発行され、SBOMの適用と標準化に向けた議論が全世界的に一気に進みました。国内の事例では、自動車業界がSBOMを活用したサプライチェーン・マネジメント(SCM)を進めるなど、SBOMの作成と活用は業種・業界を問わず普及しています。制度化も進んでいることから、企業のSBOM対応が迫られているのです。
とはいえ、SBOMの導入をどこから始めればいいのか分からないという懸念もあるでしょう。日立ソリューションズでは、豊富なSBOMツール群のラインアップに加え、SBOMの導入や活用において豊富な経験と実績があります。渡邊は、「コミュニティーや世界中のリーダー人財とのネットワークを通じて得られた最新情報やベストプラクティスを、コンサルティングサービスやOSS管理ブログを通じてお伝えしています。SBOMの導入や活用は日立ソリューションズにお任せください」と強調しました。