2018年2月23日、Prowise Business Forum in TOKYO 第95回が開催され、多くの参加者にご来場いただき盛況のうちに終了しました。
基調講演では、ネットイヤーグループ株式会社の石黒氏を迎え、デジタルマーケティング時代に必要な施策やオムニチャネル戦略の企業事例、同社が取り組むデジタルトランスフォーメーションの成長戦略などを解説いただきました。また、特別講演として、SAS
Institute Japan株式会社の小宮氏から、AIを活用したカスタマーエクスペリエンスの先進事例とそれを実現するソリューションを紹介いただきました。
そして、日立ソリューションズセッションでは、マーケティングにAIはどう活用できるかをテーマに、当社がこれまで手掛けてきたデジタルマーケティング実現への取り組みと、マーケティング業務を効率化するためのソリューションを、AIを活用した豊富な社内外の実例を交えて紹介いたしました。
【特別講演】 顧客接点を最適化する“AI×デジタル”マーケティング
SAS Institute Japan株式会社
ビジネスソリューション統括部
Customer Intelligenceソリューショングループ
マネージャー 小宮 丈史 氏
特別講演では、SAS Institute Japanの小宮氏が登壇。AIを活用したカスタマーエクスペリエンス(CX)最適化の先進事例と、それを実現するSASソリューションが紹介された。
AIや機械学習を活用して効率的なOne to Oneマーケティングを実施
「リテールマーケティングのトレンドはCXの向上。商品やサービスがコモディティ化することで、消費者が企業を選ぶ判断基準としてCXのレベルが重要視されている」と小宮氏は語る。
マーケティングにおけるCXは、顧客接点での“おもてなし”に直結し、消費者のニーズに合った最適な商品をいかにレコメンドできるかが競争優位性を左右するという。しかし、「ソーシャルやスマホなど企業と顧客との接点が増え、それに応じてデジタル取引の主役交代が本格化しているため、CXの向上はそう簡単ではない」と小宮氏は注意を促す。
CXを高めるための手法としては、一般にオムニチャネルマーケティングが用いられるが、顧客に合った商品を適切なタイミングとチャネルで一貫したメッセージによって商品の良さを訴求し続けることが求められる。だが、顧客と商品が膨大に存在し、それをつなぐチャネルやコンテクスト(消費の目的)も数多く存在する中で、それらの中から最適な組み合わせを見つけ出すのは非常に困難だ。そのため、昨今はAIや機械学習を活用して効率的な顧客一人別対応(One
to Oneマーケティング)が再注目されているという。
その事例として、小宮氏は英国のテスコ銀行のケースを紹介した。同銀行では、リアルなペルソナ(架空の顧客プロファイル)を設定し、リアルな店舗やコールセンターのほか、スマホやWebなど多様なチャネルを織り交ぜながらさまざまな顧客接点を提供しているという。スマホのアプリが顧客の来店を検知すると、SAS側にあるAIとビジネスルールエンジンが顧客に対して優先すべきアクションを適切なタイミングとチャネルから瞬時に提示し続けることでリードナーチャリング(見込み顧客の育成)を行い、有人チャネルに送客することで囲い込みに成功しているという。
マーケティングにデジタルを積極的に活用する時代になると、消費行動がオムニチャネル化し、マーケティングのターゲートは“マス”(またはセグメント)から“個”(One to
Oneの復活)に移りつつあるという。
「オムニチャネルで行動する顧客一人ひとりにアプローチするために、自社・外部を問わずあらゆるチャネルを横断してデータを蓄積し、顧客との接点をデータで捉え、あらゆるタイミングで顧客とのコミュニケーションにアプローチするというPDCAを通じてマーケティングを最適化していくことが、デジタルマーケティングの本質」と内藤は解説する。
そのため、さまざまな施策と連動してデータを一元的に収集することで顧客の行動を可視化し、効果的な送客やマーケティングのPDCAにつなげていくことが重要だと内藤は指摘する。
提携クレジットカードへの切り替えキャンペーンをAIで支援。その結果は?
そこで、日立ソリューションズが手掛けた顧客事例がいくつか紹介された。あるアパレル企業では、a)新規会員の集客が今後困難になる、b)既存顧客をロイヤルカスタマーへ育成する仕組みがない、c)消費行動の変化に伴うマーケティング施策がない、という悩みがあった。同社は、会員情報の統合による各種プロモーション施策基盤の構築と、PointInfinity(会員・ポイント管理)の導入を行い、1)グループ企業各社の会員情報の一元管理、2)アンバサダー(口コミをしてくれるファン)を活性化するランクの制度設計、3)グループ共通ポイントの導入、4)顧客の行動の分析・予測可能なBI(ビジネスインテリジェンス)・MA(マーケティングオートメーション)ツールの導入といった施策を実践。現在もロイヤルティ向上とOne
to Oneマーケティング実現をめざしているという。
また、ある商業施設運営会社は、提携クレジットカードへの切り替えキャンペーンにおいて切り替え確率の高い会員にのみDMを送付したいと考えていた。そこで、切り替え確率の高い会員を「会員活性化支援AIソリューション」で予測し、会員属性情報・購買履歴・ポイント履歴などのデータの相関関係をAIが自動的にスコアリングすることで、高スコア会員にのみにDMを送付することとした。その結果、切り替え率(コンバージョン率:CVR)は従来の2倍に向上し、AIのスコアとCVRに相関が確認できたという。
最後に内藤は、「日立ソリューションズのデジタルマーケティングは、延べ2~3億人規模の会員管理やポイント管理を手掛けてきた豊富な導入実績を持ち、最適な商材の組み合わせによるトータルソリューションを展開できる。マーケティングから戦略検討、システム開発、保守・運用までワンストップのサポートが可能なので、ぜひお気軽にご相談いただきたい」と呼びかけ、セッションを終了した。
冒頭で、マーケティング環境の変化について説明した高木は、インターネットと常につながることによる情報の氾濫や、顧客が発信する口コミ情報の重要性、比較検討が必要な情報の増加によるニーズの多様化などを指摘し、「環境変化によって顧客の消費行動も変化し、それに合わせたマーケティングが求められている背景に、AIを活用した“優良顧客化”が今注目されている」と述べる。
マーケティングには1)会員一人ひとりに対しニーズや購買履歴に合わせて販促施策を実施するOne to
Oneマーケティングと、2)不特定多数の会員に対して販促キャンペーンを実施するマスマーケティングの2つの手法がある。One to
OneマーケティングではAIが購買の期待度を会員一人ひとりに対してスコアリングする。一方のマスマーケティングでは販促キャンペーンがどれだけ効果があるかをAIが定量的に予測するという違いがあるという。
日立ソリューションズが提供する会員活性化支援AIソリューションは、CRMから販促情報や来店・来場情報、会員情報などの各種データを取り込み、それを「会員活性化支援AI」がデータの相関関係を自動的に学習(パターンマッチング)し、スコアリングすることで、会員ごとに効果的な施策のレコメンドや、施策後の結果をAIに反映してさらに精度を向上させる。
「当社のAIのディープラーニングエンジンはオープンソースなどの標準技術を活用しているほか、ニューラルネットや学習管理・最適化、データ設計・加工などの周辺技術は独自に習得・開発している。また、業務システムで活用するために開発したプロファイリング(理由の推定)やスケジューリング機能は特許出願中」と高木は説明する。