GeoMation 屋内位置把握ソリューションの導入事例
トヨタ自動車株式会社様IoTタグで無人搬送車の運行状況を把握し在庫低減に道を開く
世界トップクラスの自動車メーカーであるトヨタ自動車は、工場内での部品運搬に無人搬送車(以下、AGV)を利用しています。AGVが経路上で“立ち往生”した場合の復旧時間を短縮するため、同社元町工場の機械部は「GeoMation 屋内位置把握ソリューション」を導入。AGVの位置を把握できるようにしました。
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従来からの課題
無人搬送車(AGV)が停止すると復旧に時間と手間がかかる
小高 光昭 氏
製造や流通の現場では、物を無人で搬送できる無人搬送車(AGV)が広く使われています。トヨタ自動車の元町工場機械部は、車軸ユニットの部品を製造。AGVを台車下に配置し、約100台を工程内・工程間運搬で運用しています。車両の組立ラインに比べ、規模の小さなラインが多く、並列・直列に数多く配置され、AGVの運搬を考えると分岐・合流が多い複雑な物流経路となります。
AGVの活用が進むにつれて、運用面での課題も目立つようになりました。
「エリアからエリアへと長い距離を運ぶと、人が介在しないエリアにいるAGVの位置を把握しにくくなりました」(小高氏)
「故障などによりAGVが止まってしまった場合、人が介在するエリアの近くであれば、障害発生箇所を作業員が目視で認識でき、AGVを復旧処置できます。しかし、人が介在しないエリアでAGVが止まると、発見が遅れて復旧に時間がかかっていました」(矢野氏)
AGVの障害をすぐに把握できないと損失も生じます。例えば作業工数は、「積み上げると、平均で1日当たり1人工(作業員の仕事量に換算すると約8時間に相当)のムダな作業」というのが技術員室による分析です。この数値には、「人が探しに行って状況を確認し、復旧するまでの時間」だけでなく、「復旧までに時間がかかる場合に、リフトなどに部品を乗せて人が代わりに補充する作業時間」も含まれます。
「異常が頻繁に発生すると、製造現場では部品が届かないリスクに備えて、在庫を増やしがちになり、完成までの製品リードタイムが長くなります。AGVについても、余分の台数を確保しておかなければなりません」(小高氏)
導入の経緯
低コストのIoTタグ方式を選択、逆転の発想でさらにコスト低減
矢野 佑一郎 氏
これらの課題をITで解決しようと技術員室が考え始めたのは、2016年夏です。
「分岐・合流の多い複雑な経路を走る、数多くのAGVを効率的に運用していきたいというニーズのもと、まずはAGVがどこにいるかを把握することを短期的な目標にしました。位置把握方式はGPSシステムをはじめ多くありますが、屋内では道中に“道標”となる機器を置き、AGVにリーダーを持たせてどの“道標”の近くを走行しているか判断するのが一般的です。しかし各社特徴があり、その調査や簡易的に位置検出アプリを使った実験を行う中で、ニーズに合った処理方式を絞り込んでいきました」(矢野氏)
この時点で、“道標”に「(1)無線ICタグと呼ばれる、電子マネーや交通系ICカードのように電源を不要とする方式」か、「(2)IoTルータと呼ばれる、USBスティックのような電源を必要とする方式」に処理方式を絞り込み、位置把握ソリューションを販売しているITベンダー数社と、処理方式について目線合わせを行い、ベンダーを絞り込んでいきました。
「無線I Cタグ方式は“道標”に電源が不要で、単価も数百円と安価ですが、リーダーの価格が数十万円と高く、管理対象のAGVが増えると投資が高くなります。それに対し、日立ソリューションズ様のIoTタグ方式はタグもルータも数千円で済み、機器の投資額を最小限に抑えることができます」(矢野氏)
最終的に日立ソリューションズの「GeoMation 屋内位置把握ソリューション」を採用する決め手となったのは、カスタマイズ性の高さと困りごとに真摯に対応する企業風土でした。
「IoTルータ方式の課題は、“道標”への電源にあり、移動経路上に電源を引く費用がかさみます。一方、AGVに使うリーダー(IoTタグ)にも電力は必要ですが、より省電力で電池などでの代用が可能で、AGVには駆動用バッテリーも搭載しています。そこで当初リーダーの使用を考えていた省電力のIoTタグを“道標”として、“道標”として考えていたIoTルータにはAGV駆動用バッテリーを使用することで課題を解決していきました。このように早いタイミングから私たちと同じ目線で考え、困りごとに真摯に対応していただいたのが印象的でした」(矢野氏)
逆転の発想で電源設置コストを低減させ、さらにIoTタグの電源をボタン電池から単一電池に替えるカスタマイズによって、電池交換の頻度も数カ月単位から数年単位へと減らしました。
導入時の取り組み
26台のAGVの運行状況を一目で把握、異常時は大型モニターに警告表示
システム構築の前段階となる検証作業が始まったのは、2016年9月です。検証のポイントは、IoTタグとIoTルータをどこに取り付ければ最大の検知能力が得られるかを突き止めることにありました。
「IoTタグを取り付ける柱の間隔を空けるとAGVをうまく検知できません。近すぎても、AGVがどちらの柱の近くにいるかが分からなくなります」(矢野氏)
床面からの高さも重要で、低すぎては検知できず、高すぎると検知範囲が広くなってしまいます。AGVへのIoTルータの取り付け位置についても、進行方向の前面と側面、上面と、ポジションによって精度がかなり異なることが確認できました。
検証から構築までのプロセスで技術員室が心がけたのは、自分たちでできることはなるべく自分たちでやることでした。
「導入後、自分たちで運用するには、機能の柔軟さが必要でした。ただ、できるだけコストはかけたくない。日立ソリューションズ様には正直ベースで相談に乗っていただけて助かりました」(矢野氏)
その結果、機能のモジュール化や、障害検出条件をユーザー側で変更できる仕様も実現。本稼働後のレイアウト変更には現場で対応可能になっています。
こうして完成した元町工場のAGV位置把握システムは、2017年4月に稼働を開始しました。対象は、AGV全体の約1/4に当たる26台です。IoTルータはAGVの側面に取り付けられており、プラスチックケースに収めて柱などに取り付けられたIoTタグの位置を2.4GHz帯の近距離無線(IEEE 802.15.4)で読み取る仕組みです。管理用のツールとしては、大型モニターを設置。画面には、AGVの状況に応じて黄色(予報)や赤色(異常)の警告表示が出ます。
導入の効果
障害対応の作業工数は約半分に、IoT技術のノウハウも習得
「導入効果ですが、立ち往生したAGVを復旧させる作業の工数は半分になり、部品の補充作業はゼロになりました。さらに作業者がAGVの動作を監視しながら作業するという気遣いから解放されるという付随効果も生まれました。現場の評判は上々で、大型モニターを別の場所にも設置してほしいという要望も上がっています」(矢野氏)
「導入して終わりではなく、うまく使いこなして次につなげることを期待しています。異常が発生しやすい場所を特定して対策を打てば、AGVの台数を減らしたり、在庫を低減したりといった具体的な効果を出せるはず。そのためにも、モニターの設置場所を増やすなどの手を積極的に打っていきたいです」(小高氏)
こうした直接的な効果とは別に、技術員室ではIoT技術やノウハウを学べたことも高く評価しています。
「ちょっとしたシステム変更であれば、外部にお願いすることなく、自分たちでできるようになりました」(小高氏)
次のシステム構築時、その知見によって費用を抑えられると見込んでいます。
今後の展望
ログ解析による効率化を検討、勉強会を開いて社内普及も狙う
立ち往生したAGVの場所を突き止めるという第1の段階をクリアできた今、元町工場機械部の技術員室は、次をめざしてすでに歩み始めています。
「将来的には他システムと連携させた自動運搬なども考えています。ただ、その前にまずは、『GeoMation 屋内位置把握ソリューション』のログファイルを解析して、効率の良い搬送ルートを求めようと考えています」(矢野氏)
さらに、今回導入したIoTタグ方式をトヨタグループ内で情報共有するために、技術員室で勉強会を随時開催しています。
「勉強会にはトヨタ自動車の海外工場や国内の関係会社からも技術者が参加し、現地で現物を見ながら情報共有をし、多様な物流事情をデータベース化することで、さらなる進化をめざしています」(矢野氏)
日立ソリューションズも「GeoMation屋内位置把握ソリューション」の真価を一人でも多くのエンジニアに知っていただくことをめざして、技術情報をお客さまに積極的に開示していきます。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車は「すべての人が、安全、スムース、自由に移動できる社会」、「環境負荷ゼロにとどまらないプラスの世界」、そして「もっといいクルマづくり」を追求しつつ、AIやビッグデータを生かした「新しい驚きと感動のある社会」の実現をめざし、さまざまなチャレンジを続けています。
本社所在地 | 愛知県豊田市トヨタ町1番地 | |
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設立 | 1937年8月28日 | |
従業員数 | 364,445人(連結、2017年3月末時点) | |
事業内容 | 自動車の生産と販売に従事。国内・海外に製造事業体を置く。1959年に完成した元町工場(豊田市元町1番地)ではクラウン、マークX、GS、MIRAIの4車種計で年間約71,000台を生産 | |
URL | http://www.toyota.co.jp/ |
この事例に関するソリューション・商品
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本事例の内容は2017年9月20日公開当時のものです。
最終更新日:2017年9月20日