IoTとGISが変える世界
空間情報活用コラム第2回
IoTの発展によって、さまざまなモノの情報をインターネット経由で収集できるようになりました。いまやヒトや車のほかにも昆虫のような小動物でさえ、その位置や状態を把握することができます。第1回のコラムで紹介した「地理情報システム(GIS)」ではどのような応用が進められているのでしょうか。各分野におけるIoT×GISの活用について紹介します。
IoTによってさまざまなモノが繋がる
あちこちで目にするようになった「IoT」という言葉ですが、正確な意味はご存じですか? これは、"Internet of Things"の略で、モノがインターネットに繋がり、ネットワークを通じて相互に情報交換する仕組みのことを指します。
インターネットと繋がるモノといえばパソコンやスマホがすぐに思い浮かびます。しかし、今はそれだけでなく、テレビやスピーカー、エアコン、冷蔵庫、玄関、観葉植物など、「ありとあらゆるモノ」がインターネットに接続する時代となりました。
家のドアが「いま鍵が閉まってるよ」、ゴミ箱が「もう満杯だよ」、サッカーボールが「こう蹴られて飛んだよ」というように、さまざまなモノが自らの情報をインターネットに発信しています。人間はそのデータを見ることで、戸締まりを確認したり、ゴミ出しに行ったり、サッカー上達のヒントを得ることができるのです。
状態確認や機器管理、データ分析などに使われるIoTは「電子デバイスの小型化」と「無線技術の発達」によって大きな発展を遂げました。現在では、驚くようなモノにまでIoT化は進んでいます。
動き回るモノもIoTによって情報収集できる
2018年末、ミツバチに取り付け可能な超小型センサーが話題となりました。ワシントン大学が開発したこのデバイスは、重さがわずか0.1gであるにもかかわらず、位置情報や温度・湿度・光度などハチの周りにある環境を計測し、巣箱でデータをアップロードします。この試みを通じて、ミツバチのさらなる生態調査や、周辺植物の生育確認に応用するための研究が進められています。
ミツバチのように飛び回る小さな昆虫ですら、位置情報を含むさまざまなデータを発信し、それを活用することが可能となったのです。もちろん昆虫だけでなく、ヒトやクルマ、動物、荷物のように動き回るモノも、IoTによってデータを集めることができます。
「地理情報システム(GIS)」とは、地上に存在するさまざまな情報を地図上で関連づけ、応用していく仕組みのことでした。GISにIoTを組み合わせることによって、屋外や屋内の「移動」を通じたさまざまなサービスが誕生しています。
移動体の情報を活用したサービスの提供
屋外で移動する相手の居場所を正確に把握するためには、人工衛星との通信が欠かせません。最も有名なのは「GPS」でしょう。複数の衛星から電波が発信されており、受け取った時間の違いを計算することで地球上の現在位置がわかる仕組みとなっています。スマホや自動車には、衛星電波を受信するためのセンサーが搭載されています。
基本的に日本のGPSはアメリカの衛星を利用していますが、2018年11月からは人工衛星「みちびき」による高精度な位置測位サービスも始まりました。みちびきを利用することにより、例えば車が道路のどの車線を走っているのか、数センチレベルで位置を測位することができます。車体下部に取り付けたカメラと組み合わせることによって、道路の老朽化度合いを自動的にモニタリングする実証実験などが行われています。
また、GPSによる位置情報と加速度センサーなどを組み合わせることによって、運転速度やブレーキ・アクセル・ハンドリングなどの運転技術を測定することが可能となりました。ドライバーごとの運転リスクに応じて保険料を算出するような自動車保険もすでに販売されており、これを「テレマティクス保険」といいます。
場所への出入りを検知するジオフェンシング
移動体へのサービス提供に役立つ技術として「ジオフェンシング」があります。これは、特定のエリアに仮想的な「柵(フェンス)」を張ることで、人やモノの出入りを自動で検知する仕組みです。この仕組みを利用することでフェンスへの出入りを自動で記録したり、あるいはフェンスの中に入った際にメッセージを送ることができます。
たとえば、Googleマップ上で自宅の敷地にジオフェンスを設定したとしましょう。そうすると、「子どもが自宅の敷地を出ると、親のスマホに通知がいく」といった使い方ができるようになります。
ジオフェンシングは、スマホアプリによるマーケティングにも幅広く活用されています。専用のアプリを入れておくと、お店の近くを歩いたときに「今なら10%割引中!」と限定クーポンがもらえたり、ライブ会場の前を通ったときに「来月は○○のコンサート!」とイベント情報が届いたりします。
また、「郵便局に近づいたとき『手紙を出す』と通知する」「家を出るときに『財布は持った?』と通知する」など、自分のためのジオフェンスを設置して、リマインダーとして使うこともできます。
業務用途では、出退勤管理もジオフェンシングを使えば簡単に自動化することができます。事業所エリア内に最初に入った時刻を出社、最後に出た時刻を退社として自動で記録すればいいのです。駐車場などで車両を出し入れした時刻や、セキュリティエリアにおいて人が出入りした時刻の統制なども同様です。
屋内や地下でも位置を把握する技術
屋外の位置はGPSによって測ることができます。では、衛星からの電波が届かない屋内の位置はどのように見つけだすのでしょうか。地下街やオフィスビルの中で位置を測位するために開発されているのが「屋内測位技術」です。
BLE(Bluetooth Low Energy)を用いた位置測位は代表的な屋内測位技術です。BLEは近距離無線通信技術Bluetoothの拡張仕様の一つで、数m程度の至近距離にある端末間で省電力通信できる仕組みです。固定された発信機(ビーコン)が自身の識別子を発信し続け、BLEに対応したスマホなどの端末がその識別子を受信することによって位置を測位する仕組みとなっています。
BLE以外にも、Wi-Fiのアクセスポイントから受信した電波強度の違いによって現在位置を推定する「Wi-Fi測位」や、スマホのジャイロセンサーや加速度センサーから移動を推測する「歩行者自律航法測位」などは、比較的なじみのある測位技術でしょう。ほかには、建物内の地磁気パターンをあらかじめ測定して「磁気MAP」をつくっておき、現在地の磁気データと比較することで場所を割り出す「地磁気測位」、3〜40m間隔でセンサーを設置し、センサーから発信された超広帯域の電波を拾うことによって位置を高精度に測定する「UWB測位」といった測位技術が生み出されています。
それぞれの方法は正確性や準備の手間、コストなどの面で一長一短があるため、測位の用途に応じて使い分けられています。
屋内測位技術の産業への応用
屋内測位技術とIoTを組み合わせると、さまざまな新しいことができるようになります。
倉庫業の場合を考えてみましょう。広い倉庫の中で、ヒトやモノがいまどこにいて、何の作業をしているのか、把握することは簡単ではありません。エレベーターでモノを運んでいるところなのか、検品を行っているのか、単にフロアを移動しているのか。無線で連絡したり、探し回ったりと、「状況の把握」にこれまで膨大な時間が費やされてきました。
しかし、これからは、「ヒトとモノの移動と状態」はすべてGISで可視化することができます。位置情報をリアルタイムで可視化することによって、所在確認がすぐにでき、作業時間を大幅に減らすことができます。ほかには、フォークリフトの動線を分析することによって、倉庫内のレイアウトの最適化や、人との接触事故を防ぐことなどもできるようになります。
現在もっともIoT×屋内測位技術が活躍している分野は、製造業です。あらゆる工作機械の稼働状況を把握し、部品や製品の状況・人の行動を可視化し、効率的な工場運営を実現する「スマートファクトリー」を実現するためには、これらの技術は欠かすことができません。
加工や組み立て・運搬・検査をする製造工程の中で、ヒトやモノがどう動いているのか、あるいはどこに滞留しているのか、その軌跡を分析することによって、作業性や安全性を向上させることができます。よりよい作業員の配置や作業手順、加工機械の設置方向、部品を運ぶルート、利き腕に応じた工具の最適な置き方など、さまざまなことが見えてくるでしょう。
また、製造現場によっては部品を製造ラインへ自動で運搬する無人搬送車(AGV)が数十台運用されています。AGVは地面に貼られた磁気テープの上を走るため、ときにはAGV同士の渋滞や、磁気テープから離れることで停止することもあります。無人エリアで止まってしまった場合は発見が遅れ、作業が滞ってしまう問題が起きていました。
このAGVにもIoTタグを取り付け、動作と位置を常に把握できるようにすれば、早急にAGVを運用に戻すことができます。さらに蓄積されたデータを分析し、磁気テープのルートを見直すことでAGVの稼働率を上げることができます。
まとめ
「地理情報システム(GIS)」と聞くと、街や大規模農場といった広い屋外での活用が思い浮かぶかもしれません。しかし、IoTと屋内測位技術の発展によって、たとえ人工衛星の電波が届かない場所であっても、その力を発揮できるようになりました
IoTの浸透により、誰が、いつ、どこで、何を行っているかが、見える化されるようになり、このようにして蓄積された各種データは、これまでにない課題解決の方法を私たちに示してくれます。さらに、IoT がGISと組み合わさることで得られるデータは、より幅広い分野で応用され、新たな知見を生み出し、今後も活用の場を広げていくに違いありません。
掲載日:2019年3月20日
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