建設分野におけるGISの最新事情
空間情報活用コラム第5回
「GIS」とは、場所にまつわる情報を統合して、新たな価値をつくる仕組みのことです。一方、「建設」は、場所を見きわめて、新たな構造物を作り上げることです。これらはとても親和性が高く、両者を融合させるさまざまな取り組みが行われています。今回は、ICTを活用し、建設現場の生産性向上をめざす取り組み「i-Construction※」の数々をご紹介しましょう。
- ※i-Constructionは国土交通省が推進する、ICTを活用して建設現場の生産性向上をめざす取り組みです。
国を挙げて建設プロセスのすべてにICTを導入
国連の「国民経済計算データベース」によれば、日本の建設市場規模は2,576億ドル。これは中国・アメリカにつぐ世界第3位であり、きわめて大きな市場を有しています。さらに、民間工事に公共工事をふくめた年間の建設投資額は60兆円以上。規模で言えば、日本は間違いなく「建設大国」です。
建設投資額(名目値)の推移
出典:国土交通省「令和元年度 建設投資見通し 概要」
しかし日本の建設業界は今、いくつもの課題に直面しています。
1997年には685万人が働いていた建設業は、2016年には492万人と、200万人近く減少しました。「29歳以下の就業者割合」は全産業で見ると16.4%ですが、建設業では11.4%にまで落ち込みます。こうした数値を見ると、建設業から若い働き手が減っていることがわかります。
人手が足りなくなる一方で、新たなテクノロジーによる建設技術の進化にも未着手の分野がありました。新たな工法によってトンネル工事の生産性は10倍になりましたが、土を掘り、運び、盛り固める「土工」や、コンクリートを施工する「コンクリート工」の生産性はここ30年で横ばいのままです。
建設業就業者の推移/建設業就業者の高齢化の進行
出典:国土交通省「建設産業の現状」
こうした状況を受け、国土交通省は「i-Construction」の推進を2016年から本格的にスタートしました。i-Constructionとは、ICTの全面的な活用や規格の標準化などによって、建設システムの生産性向上を図る施策のことです。
工場の中で生産できる製造業に比べると、工事現場は一件一件の状況が異なるため、旧来のICTでは活用が困難でした。しかし、テクノロジーの発展にともなうデバイスの高度化・小型化によって、現場でも大いにICTやGISが活用できるようになったのです。
空き地に建物を作ろうとした場合、まずは正確に「測量」し、どんな建物にするか「設計」し、それから実際に「施工」して、最後に「検査」をして完成です。建物は作りっぱなしではなく「維持管理」することも欠かせません。
こうした建設プロセスのすべてにICTを導入し、「建設現場の生産性を2025年までに20%向上させる」ことを日本政府は目標に掲げています。
i-Constructionのさまざまな事例
それでは現在、どのようなi-Constructionの取り組みがなされているのでしょうか。よく知られているのは、ドローンによる測量です。
ドローンに搭載したGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)によって位置情報を取得しながら地上を複数方向から撮影することにより、工事現場の精確な三次元地形モデルを作成することができます。
2ヘクタールの土地すべてを、人力で機材を持ち運びながら測量するには2~3日かかりますが、ドローンならば数十分程度飛行させれば完了できます。歩けないような険しい地形であっても、ドローンならば容易に入っていくことができ、ヘリやセスナに比べても格段に低コストで済みます。
また、施工段階では「ICT建機」の導入が進められています。ICT建機とは、乗用車でいうカーナビや自動運転機能が付いた建機です。ブルドーザーやショベルカーに3Dの設計情報をインプットすることによって、複雑な操作をせずとも正確な工事が可能となりました。
事前に正確な3Dデータを測量しておけば、たとえ雪が積もったり、濃霧が発生したりと、肉眼では地形が把握できない状況になっても、ICT建機のセンサーによって施工することができます。屋外で作業する建設業において、天候由来の中断が減ることは、生産性を大きく向上させることに繋がるのです。
身近なテクノロジーで進捗管理を効率化
大きなプロジェクトになればなるほど、進捗管理の重要性は増していきます。特に何ヘクタールもの敷地の工事となると、どの段階まで進んだのか、それぞれの場所を確認するだけでもひと苦労です。
起工前の測量や施工後の検査段階ならば、ドローンやレーザースキャナが用いられるようになってきましたが、こうした装置を扱うには専門の技術者が必要であり、日々の進捗管理で活用するまでには至っていません。
そこで考え出されたのが、身近な「スマホ」を使った計測システムです。GNSSのアンテナをスマホに取り付け、全貌を動画撮影するだけで、対象物が3Dデータに変換され、体積や距離を計測することができます。
この計測システムには、複数の写真から対象の形状を復元するSfM(Structure from Motion)という技術が使われています。歩いた軌道や撮影方向をもとに計算されるため、事前に基準点を設定する必要がありません。
工事の完成までにトラック何台分の土があと必要なのか、目測だけで判断することは困難です。足りなければ土を買い足さねばならず、かといって多ければどこかに引き取ってもらわなければなりません。スマホによって安価に、そして誰でも計測できるようになったことで、進捗管理の大幅な効率化が可能となったのです。
ちなみにこのシステムは、工事現場だけでなく、災害復旧でも活躍できます。台風や地震はときに何百カ所もの土砂崩れを起こしますが、スマートフォンとGNSSを用いた3次元計測によって、被害状況の査定が倍以上の速さで行えるようになったのです。被災認定までの時間が短縮されれば、それだけ早く復旧することができます。
i-Construction はARやVR技術とも融合
i-Constructionを推進するうえで、3Dデータの活用は欠かせません。それは測量や施工段階だけでなく、設計や検査段階においても同様です。
現実空間に3Dデータを投影するAR(Augmented Reality:拡張現実)のテクノロジーを使うと、まだ何もない空き地の段階から実際の完成形がどのようになるのか、バーチャルな建物を目で見て確認できるようになります。
これによって、周りの環境との影響を事前に把握したり、クライアントへの説明が実感をともなって可能となりました。また、施工やメンテナンスの手順確認にも、ARやVR(Virtual Reality)技術が用いられています。平面図だけではなかなか気付けないことでも、実物大のバーチャルな構造物を目視することによって察知できるわけです。
まとめ
「測量→設計→施工→検査→維持管理」という建設プロセスのすべてにICTを導入することで、生産性を大きく向上させるための取り組みが「i-Construction」です。
建設業界では、最新のICTと建設技術を組み合わせた「建設テクノロジー(Construction Technology)」の略語である「建設テック(Con-Tech)」といった用語が注目され始めています。
巨大なICT建機から手のひらサイズのスマホまで、さまざまなデバイスが用いられていますが、そのいずれにも欠かせないのがGISです。3次元データと位置情報を連携し活用することによって、これまでにない高度な工事が実現するようになっているのです。
掲載日:2020年01月29日
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