GISを活用した企業の事業継続・災害対策の取り組み

空間情報活用コラム第6回

毎年のように災害が日本を襲うようになりました。たとえ大きな被害は受けなくとも、停電や断水、通勤トラブル、物流の遅延といった事態に遭遇した人は少なくないでしょう。空間情報をどのように利活用すれば、災害の被害を抑え、事業の継続・復旧スピードを速めることができるのでしょうか? さまざまな企業の実践をご紹介します。

高い災害リスクと共存していくために

日本は非常に災害リスクの高い国です。2019年を振り返っても、平成31年熊本地震、山形県沖地震、令和元年九州豪雨、台風15号、台風19号と、大きな災害が多数発生しました。

英保険組織のロイズがケンブリッジ大学と共同で発表した「Lloyd's City Risk Index(ロイズ都市リスク指標)」によれば、紛争や災害などの脅威リスクに対して、経済損失額の推計値が最も高い都市は、東京でした。世界279都市のうち東京がワースト1位、大阪が6位となっています。

日本は経済規模に比して災害リスクが非常に高い地域なのです。持続的な事業活動を行っていくうえで、災害への備えは欠かすことができません。

災害などの重大な事件が発生した場合でも、企業活動を継続させ、サービス提供の欠落を防ぎ、組織のブランドを保護するためのマネジメントプロセスがBCM(事業継続マネジメント)です。また、こうした事業を継続させるための計画をBCP(事業継続計画)と呼びます。

BCMやBCPへの取り組みは、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに注目が集まり、2011年3月11日に発生した東日本大震災を機に加速しています。

いつ、何が起きるのか、明確な予測ができないのが災害です。適切な判断を下すためには、発災からできるだけ早く正しい情報を掴み、それがもたらす影響を予測しなければなりません。被災状況を素早く、確実に把握するために活用されているのが、GIS (地理情報システム)です。

「地図情報」によりサプライチェーンを強靱化

製造業といっても、一社ですべての部品を作っている会社はありません。自動車であれば、ネジやナット、バネといった小さなものから、カメラやオーディオといった電子機器、ブレーキシステムやエンジンといった動力系まで、さまざまな部品が日本全国で製造され、最終的に組み立てられています。

このため、災害によって自社に直接的な被害はなくとも「被災エリアの工場から部品が届かないために、自動車を完成させることができない」という状況があり得るわけです。大規模災害が起きても、どうすれば生産ラインを止めずに事業を継続できるのでしょう。その方策のひとつは、サプライチェーンを「地図情報」により可視化することです。

取引先の部品工場や組立工場などを地図にマッピングしておけば、災害が発生した場合に、被災エリアの情報と重ねることによって、即座にリスクの高い地域がどこなのか、把握することができます。さらに、受発注システムと連動することによって「いま何の部品をどれだけ発注しているのか」「その部品がないと止まってしまう生産ラインは何か」といった納入進捗確認と欠品予測がスピーディーに行えます。

クリティカルな工程がわかれば、たとえ被害を受けた場所があっても、ほかの場所で代替することによって、事業を止めずに継続することが可能になるのです。

災害発生時のラインの欠品時間予測

土地勘がない地域においては、取引先一覧だけではどこが震源地の近くか、被害を受ける可能性があるか、など瞬間的に把握するのは難しいものです。災害情報や拠点情報、調達先の関係性を地図上に可視化し、さらに受発注システムと連動することによって、素早い判断を下せるようになりました。こうした「納入部品危機管理システム」によって、従来の5分の1の時間で欠品予測までの調査を完了させることができたという地震災害における実例もあがっています。

非常時に重要情報を素早く取得する

製造業だけでなく、物流業や流通業にとっても、災害時における位置情報の利活用は重要です。「どの道路を通れるのか」というデータが不明瞭であれば、荷物を目的地にまでスムーズに届けることができず、事業に支障を生じさせ、また、被災地の復興を遅らせてしまうのです。

こうした事態を防ぐために、東日本大震災の際、自動車メーカーや電機メーカーが連携し「自動車・通行実績情報マップ」を公開しました。カーナビなどから取得している車速や自動車の走行位置をプローブ情報といいますが、このデータをもとに「発災後に通過実績のある道路」を色分けで表示することで、目的地までの道筋がわかる地図となるのです。

同様のマップは2018年に起きた西日本集中豪雨でも利用されており、有事の際の迅速な公開に向けた整備が進められています。

※出典:国土交通省「災害時における通行可否の情報(通れるマップ)平成30年7月豪雨関係 7月10日12:00時点」

※出典:国土交通省「災害時における通行可否の情報(通れるマップ)平成30年7月豪雨関係 7月10日12:00時点」

会社のリソースは自動車部品や荷物のような「モノ」だけに限りません。「ヒト」もまた事業を継続するうえで必要不可欠な資源です。特に、大規模災害が起きた際は、重要な決断を下す経営層がどれだけ素早く集まれるかどうかが、企業のレジリエンス(復元力)を左右します。

経営層の安否確認に役立てられているのが、スマートフォンを用いた位置情報システムです。あらかじめスマホに専用アプリを入れておき、災害が起きたときに遠隔から起動することによって、端末のGPS情報を取得し、役員がいまどこにいるかを一覧し、会社に集まれるかどうかを即座に確認することができます。

こうした災害時の位置情報システムは、電気・水道・ガス・通信といった社会インフラを担う企業においても、保守員の連絡網として導入が試みられています。

復旧・復興に貢献するGIS

大規模災害が起きた際は、生命を確保する「緊急対策期」、生活を安定させる「応急対策期」、住まいや事業を再建する「復旧・復興対策期」と、時間経過とともにフェーズが変化していきます。

このうち、復旧・復興対策期において、事業再建に欠かせないものが補助金や保険です。資金のあてがなければ、施設を修理することも、新たな機械を調達することもできません。政府による補助金や損害保険会社による保険金など、事業再建を支援する制度は数多くありますが、意外に時間がかかってしまうものが「被害認定」です。

被害箇所を担当者がチェックし、家屋であれば「全壊・大規模半壊・半壊・一部損壊」といった区分をするのですが、被災地の規模が広くなればそれだけ認定が遅れてしまいます。過去には数カ月以上かかってしまうこともありました。

被害認定の迅速化のために導入が始まっているのが、衛星写真や航空写真、そしてドローンでの空撮です。空からの写真やLIDARによる3D点群データと位置情報を組み合わせることによって、一般の建物や社会インフラにかかわる構造物などの被害状況を正確に取得して、システム上で素早く判定することが期待されています。

またスマートフォンを活用して建設現場の土量を計測するシステムを用いて、災害で発生した廃棄物の量を計測し、廃棄物処理に対する見積もり支援をする実証実験も行われています。

まとめ

ITの進歩によって、たとえ災害が起きた混乱期であっても、台風の進路や各地の震度といった情報から、通行可能な道路、建物の損壊程度といった状況まで、さまざまなデータを取得することが可能になってきています。こうしたデータを位置情報と連動させたGISとAIとの組み合わせによって、事業への被害を抑え、復旧・復興までを迅速化することができるのです。

ときに災害は企業に深刻な被害をもたらしますが、GISを活用した事業継続性の強化によって、その被害を最小限に抑える取り組みが進んでいます。日本は災害が多発する国ですが、それだけ対策も先進的です。そしてもちろん、災害が起きるのは日本だけではありません。日本発のシステムは世界中の国と地域においても貢献していくことでしょう。

掲載日:2020年03月13日

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