センシング技術を用いた現場改革(前編)

空間情報活用コラム第7回

近年、著しい進化を遂げているセンシング技術。その目となり耳となるセンサーも小型・軽量化、そして多様化が進み、さまざまな分野のデータ収集に活用されています。運輸・運送業、製造業をはじめ、特に土木建築といった業界では、高精度な位置センシング技術とデータ解析技術を活用した、先進的な取り組みが進められています。本コラムではそうした業界の現場で利用されている技術や活用例について紹介していきましょう。

働き方改革にもつながる、位置センシング

業務の効率化や安全性の観点から、企業にとってヒト・モノの位置を把握することは、ますます重要になっています。たとえばタクシーや宅配便などの運輸・運送業では、各地に散らばっている車両の位置をGPSで把握し、効率的な配車を行ったり、輸送ルートの最適化を行ったりすることで、競争力強化につなげている企業が少なくありません。また災害発生時、社員に持たせたデバイスから位置情報を取得し、安全確認に役立てるシステムも登場しています。

製造業では、工場内で働く従業員の動きをデータ化することで、非効率な動きや危険な動線を抽出できるようになります。従業員の位置情報データから移動履歴を割り出し、それをもとに製造ラインのレイアウトや担当者の配置を見直せば、生産性や安全性の向上、ひいては働き方改革にもつなげられるでしょう。
建設業においても、働き方改革や安全衛生の観点から現場の作業員や重機の位置情報を取得・監視する動きがあります。しかし現場ではGPSが使えないケースも多々あり、専用のネットワークや無線設備を入れるとなれば、大きな手間とコストがかかってしまいます。

こうした課題に対し、手軽に位置情報を取得するためのICT技術が注目されています。代表的なものだと移動する対象に小型化されたIoTタグを取り付け、そのIoTタグが発する電波を屋内の複数箇所に設置したセンサー(IoTルーター)で受信、その電波の強度から位置を判定するといったものが挙げられます。収集された位置情報は手元のPCの管理画面から確認できるので、現場に行って状況をチェックするといった手間も削減できるというわけです。

電波の強度によって、人や物の動きを検知できる

当社の事例では、IoT技術を用いたトンネル工事における入坑管理やGPS電波を遮蔽する障害物の多い工事現場での作業員管理で実績があります。屋内における位置情報取得技術の発展は見覚ましく、より高精度な新しい技術・デバイスが次から次へと生まれていますので、この分野での導入と拡大は今後も続いていくと思われます。

さまざまな分野で活用が進む、3Dセンシング

このようなセンシングデバイスの小型化が、3D空間計測においても進んでいることをご存じでしょうか。レーザー光の反射を利用して対象物との距離を測定するLiDAR(ライダー:Light Detection And Ranging)という技術は、いまや市販のタブレットに搭載できるほど小型化されています。

カメラで捉えた被写体や背景の壁などとの距離を、これまでより正確かつ素早く計測できるようになっており、すでにARでの利用も開始されています。たとえばタブレットカメラで映した部屋の中に、ダウンロードしてきた家具の3Dデータを配置して模様替えをシミュレートしたり、アバターをまるでその場にいるかのようにリアルに動かしたりするといった使われ方は、どこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。

この3Dセンサーのほか、全方位カメラやジャイロなどを搭載した車両で、走行中に集めたデータから立体的な地図を作成するMMS(Mobile Mapping System)も実用化されており、たとえば人手不足が深刻な点検・検査業務において、この技術は特に注目したいところです。

MMSの特徴的な使われ方としては、社会インフラの点検作業の効率化が挙げられます。従来、電力・通信・交通といったインフラ設備の点検は、担当作業員が行うのが一般的でした。電線が規定より垂れ下がってないか、街路樹が伸びすぎていないかなどを、作業員が一箇所ずつ現地を巡回して、目視で確認していくのです。しかし目視ですぐに異変を見つけられるようなベテラン作業員の数は、次第に減りつつあります。一方で、年々進む設備の老朽化に対応するために、点検にはこれまで以上の慎重さが求められるようになってきました。

MMSは立体的な地図を作るだけでなく、取得した3Dデータから点検対象となる設備を自動抽出することができます。2Dの画像データからは判別しにくかった架線や樹木も、距離情報を使った3D計測で高精度に捉えられるようになったのが大きな特長です。さらに、伐採すべき枝やメンテナンスが必要な架線などはシステムが自動で判断し、画面上に表示するといったこともできるようになりました。

MMSを使った社会インフラの点検技術

建設業では、完成した建設物の点検・検査業務において、同様の課題を抱えています。特に道路の維持管理における橋梁やトンネルのメンテナンスに関しては、2012年に中央自動車道 笹子トンネルで起きた崩落事故以降、定期点検の重要性が注目され、点検に関する法令の整備が行われました。一方で、点検対象となる橋梁やトンネルが膨大な数になることやベテラン保守員の減少といった問題があり、適正で効率的な点検・検査システムの導入が求められてきました。最近では、MMS技術を用いたトンネル点検やドローンを用いた橋梁点検といった試みが行われています。

こうしたシステムを利用すれば、点検にかかる人手と時間の削減が可能となるうえ、これまでベテランに頼っていた業務を属人化から解放することができるでしょう。さらに人が計測を行うことで生じていたなんらかの誤差もなくすことができ、点検品質の向上につながるというメリットもあります。

まとめ

世の中では多彩なセンシングデータが取得され、さまざまな領域で活用できるようになってきました

特にいま注目されている分野が、土木・建設業界です。建設業界は他業界に比べて高い成長率を示しているにも関わらず、現場では深刻な人手不足や長時間労働が課題となっているのです。さらに高齢化によるベテラン作業員の減少や困難な技術継承など、問題は山積しています。これらの問題を解決するには、ICTの力が欠かせません。国土交通省も「i-Construction」と銘打って、ICTの活用による生産性向上と、魅力ある建設現場をめざす取り組みを推進しています。

そうした状況を受けて、現在ではAI、IoT、ドローンといったさまざまな技術が駆使され、建設業の課題を解消するさまざまな取り組みが進んでいます。次回のコラムでは、代表的なものをピックアップして紹介します。

掲載日:2020年08月05日

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