電子契約法とは?
関係する法律と抑えるべきポイント、
トラブルにあった時の対処法を解説!
ネットショッピングなど、オンライン上で商取引を行うことが今では当たり前になっていますが、簡単に契約ができるがゆえにトラブルも多く発生しています。ここでは、電子契約法の存在意義やトラブル時の対応について解説します。
この記事の目次
そもそも電子契約法とは?
「電子契約法」と呼ばれる法律の正式名称は、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」です。「電子消費者契約法」と呼ばれることもあります。電子取引における消費者保護の観点から制定された法律で、その趣旨は下記のように条文化されています。
この法律は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について特定の錯誤があった場合に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるものとする。
電子契約法第1条
契約の基本ルールを規定している「民法」の特例として位置付けられていることが分かりますが、民法では「錯誤」に関して、以下のような基本ルールを定めています。
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
民法第95条第1項
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
民法第95条第3項
具体的にどのような場合に、この電子契約法が影響するのかについては後述するとして、次に電子契約に関わる法律として、他にどんなものがあるかを確認しておきましょう。
電子契約に関係する主な法律
民法
民法は、売買、賃貸借、贈与、雇用など、日常生活のおける私人間の法律関係について規律する基本法と言われています。契約に関わる基本ルールなので、当然電子契約にも関連しており、その一例を紹介します。
1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
民法第522条
民法では、例外を除いて、書面のあるなしにかかわらず、当事者間での合意があれば契約は成立すると定めています。紙文書への押印も、電子契約における電子署名も、契約の成立自体には関係がありません。電子契約における電子文書は、あくまで契約した内容を確認するためのものであり、契約内容の証拠になるものということです。
民事訴訟法
民事訴訟法とは、民事訴訟(私人間での法的な争いに対して、裁判所が判断を下す手続き)に関する法律ですので、電子契約にも当然関係があります。民法では、原則として書面がなくても契約は成立すると定めていますが、契約トラブルが発生した際の民事訴訟においては、証拠となる書面の存在が重要になります。
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
民事訴訟法第228条第1項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
民事訴訟法第228条第4項
民事訴訟法228条では「文書を証拠とするためには、真正に成立したことを証明する必要がある」「署名や押印があれば、真正に成立したと推定される」ということを定めています。
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。
民事訴訟法第331条
そして331条から電子契約における電子文書についても、文書に準ずるものとして扱われるということが分かります。
税法
税法とは、所得税法、法人税法、消費税法など、税に関する法律のことです。電子契約に関係する部分としては、電子契約を行った企業や個人事業主の税務に関わる規定が挙げられます。
普通法人等は、前条第一項に規定する帳簿及び前項各号に掲げる書類を整理し、第五十九条第二項(帳簿書類の整理保存)に規定する起算日から七年間、これを納税地(前項第一号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
法人税法施行規則第67条2項
上記のとおり、法人税法では、電子契約を含めた商取引の中で作成した契約書や請求書、注文書、領収書などの国税関係帳簿書類を7年間保存することを求めています。これと同様に所得税法では、個人事業主には国税関係帳簿書類を5年間保存することを求めています。
なお、国税関係帳簿書類を電子データとして保存することになる電子契約においては、税法が基本ルールなのですが、後述する電子帳簿保存法が大きく関わってきます。
会社法
会社法は、会社の設立や解散、組織運営、組織再編など、会社を運営していくうえでのルールを定めた法律です。税法と同様に、帳簿書類の保存期間を定めている条文があり、帳簿書類は、電子契約とも関わってきます。
1 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
会社法第432条
この「会計帳簿」が具体的に何を指しているのかについては、会社法の中では具体的に示されていないものの、帳簿書類を10年間保存することが求められています。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法の正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。
1 保存義務者は、国税関係帳簿(財務省令で定めるものを除く。以下この項、次条第一項及び第三項並びに第八条第一項及び第四項において同じ。)の全部又は一部について、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をもって当該国税関係帳簿の備付け及び保存に代えることができる。
2 保存義務者は、国税関係書類の全部又は一部について、自己が一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。
3 前項に規定するもののほか、保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。この場合において、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存が当該財務省令で定めるところに従って行われていないとき(当該国税関係書類の保存が行われている場合を除く。)は、当該保存義務者は、当該電磁的記録を保存すべき期間その他の財務省令で定める要件を満たして当該電磁的記録を保存しなければならない。
電子帳簿保存法第4条
法第四条第三項に規定する財務省令で定める装置は、スキャナとする。
電子帳簿保存法施行規則第2条第5項
これまで述べてきたように、会社法や税法では帳簿書類の保存が義務づけられていますが、基本は紙での保存です。それに対して、電子帳簿保存法は、その名前のとおり、国税関係帳簿書類の電子保存や国税関係帳簿書類のスキャナによる電子保存について規定しています。電子契約による契約書や請求書などをデータで保存することが、法的に認められているのです。
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電子署名法
電子署名法の正式名称は、「電子署名及び認証業務に関する法律」です。電子契約で重要な電子署名の要件や法的な効力を規定しています。
この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
電子署名法第2条第1項
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
電子署名法第3条
電子契約に基づいた電子文書に、第2条第1項の要件を満たした「電子署名」が付与されていれば、真正に成立したとみなされる、つまり、法的な効力が認められています。
IT書面一括法
IT書面一括法の正式名称は、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」です。この法律は、電子商取引を促すために、書面の交付や書面による手続きを義務付けている法律に関して、送付される側の承諾があれば、電子メールやFAX、電子ファイルなどを利用した送付も認めるように、一括で改正するものです。
このIT書面一括法により、保険業法や旅行業法、証券取引法など、書面の交付を義務付けていた50の法律が一括で改正されました。ただし、公正証書を要求しているものなどは対象外となり、書面での交付が必要なものも残っているため、電子契約を導入する際には、法律でどこまで電子契約が認められているか、最新の情報を確認する必要があります。
電子契約法を理解するために抑えるべきポイント
電子契約に関連するさまざまな法律を紹介しましたが、ここからは改めて、電子契約法に絞って、その注意点などを解説します。
消費者の操作ミスの救済
インターネットなどを使った電子契約の中でも、個人の消費者と事業者が契約をするもの(B to C)に関しては、消費者がパソコンやスマホの操作を誤って、意図しない申し込みをしてしまうということがよくあります。たとえば、ネットショッピングをしていて、商品を1個買うはずが、11個と入力してしまったというような事例です。こういった場合、上述した民法第95条に則って、消費者は事業者に対して、契約の無効を主張することができます。しかし、「操作ミスに関して、消費者側に重大な過失があるので、契約は成立している」と、事業者からは反論されてしまう可能性があります。
そこで、電子契約法では、民法よりも手厚く消費者を保護しています。具体的には、消費者が注文内容を最終的に確認できる画面を設けるようにするなど、操作ミスを防止するための措置を事業者側が講じていないときには、消費者が操作ミスで注文してしまった場合にも契約を無効にできる、としたのです。
事業者側としては、この法律を理解し、注文内容を確認できるような画面を表示するなどして、操作ミスを防ぎ、訴訟になるようなトラブルを回避するようにしておく必要があります。
契約の成立時期の転換
民法は平成29年に大きく改正されたのですが、電子契約法が施行された平成13年当時の民法(旧民法)では、隔地者間の契約は、申し込みに対する承諾の意思表示を発した時に成立するものと定められていました(旧民法526条1項)。
この規定に則ると、商品の注文を受けた後に、事業者が承諾の電子メールを「発信」した時点で契約が成立したことになります。しかし、通信障害などが原因で、そのメールが消費者に届かなかった場合には、いつ契約が成立したのかが消費者には分かりません。メールが届かないことから生じるリスクを消費者が負担することになってしまいます。
そこで、電子契約法では、通知が「到達」した時点で契約が成立するとしたのです。つまり、注文に対する承諾のメールが届いた時点で契約が成立することになり、通信障害などでメールが消費者に届いていなかった場合のリスクは事業者側が負担することになりました。
電子契約で万が一トラブルにあった時の対処法
電子契約も企業間で取り交わした契約であることに変わりはありません。トラブルについては、自社の法務部門に相談しましょう。
ただし、電子契約に関するトラブルの判例はまだ少ないうえ、今後電子契約が普及するにつれて、新たなトラブル、新たな法解釈が生まれることが予想されます。電子契約の導入段階から自社の法務部門にも関わってもらうことが大事であり、導入ベンダーなどからもノウハウを収集しておきましょう。
まとめ
電子契約法は、主に消費者を保護することを意図して制定されたものですが、事業者にとっても重要な道しるべとなる法律です。その内容には十分留意し、できる限りトラブルを回避しながら、電子契約を活用したビジネスを展開していくことをおすすめします。
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さまざまな法律の要件に沿った電子契約の導入に向けて、是非ご検討ください。
- ※本記事は、2022年2月時点の情報を元に作成しています。
- ※本記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。記事内の法律に関する情報については、短期間に法改正が行われる場合もあるため、当社は情報が最新のものであること、また、正確であることを保証することはできません。当社は本情報を使用したことにより生じる責任、損害を補償する義務を負いません。
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