遠隔設備管理サービスの導入事例
株式会社村田製作所様建設現場の隠れた異変を発見! loTセンシングで安全管理
建設現場をはじめとする過酷な作業環境で働く作業者のために、得意とするセンシング技術と無線通信モジュールをベースとして、彼らの安全を管理するソリューションを作りたい――。このような思いから、株式会社村田製作所はヘルメットに後付け搭載可能なセンサーデバイスを開発しました。日立ソリューションズの「遠隔設備管理サービス」と組み合わせることによって、「作業者安全モニタリングシステム」を作り上げ、2019年6月から商用のクラウドサービスを開始しました。
Interviewee :
モジュール事業本部 IoT事業推進部 部長 佐藤 武史 氏
モジュール事業本部 IoT事業推進部 センシング機能開発課 マネージャー 山下 剛史 氏
この事例に関するソリューション・商品
背景と課題
建設業界の課題を解決できるIoTソリューションを企画
京都府長岡京市に本社を置く村田製作所は、電子デバイスや無線通信モジュールに強みを持つ総合電子部品メーカーです。製品のほとんどは企業向けですが、IoTとクラウドの波に乗って消費者向けのソリューション開発にも積極的に取り組んでいます。
そうしたソリューションの1つ「作業者安全モニタリングシステム」の企画が村田製作所でスタートしたのは、2016年10月のことでした。某大手建設会社から「建設現場で作業者の安全を管理できる仕組みが欲しい」と相談を受け、IoT関連の新規事業を担当する同社のIoT事業推進部が事業化の検討を始めたのです。
「もちろん採算が取れるかという検討はしましたが、それ以上に、当社の製品と技術で社会の課題に応えたいという思いがありました」(佐藤氏)
作業者の安全にもさまざまな分野があります。建設会社から特に求められたのは、建設現場で毎年のように発生している「熱中症に起因する労災事故」を防止することでした。当時、作業現場でそのような状況を検知するデバイスは村田製作所にありませんでしたが、長年の経験と知見に裏打ちされたセンシング技術と無線通信技術を組み合わせれば、課題を解決するソリューションがつくれるのではないかと判断しました。
センサーデバイスのハードウェアを開発するに当たって、「現場での使いやすさ」を重視しました。まずどのようなウェアラブルデバイスであれば受け入れてもらえるのか、建設会社へのヒアリングを基に、温度、湿度、脈拍、活動量の各センサーと無線通信モジュールの両方を組み込んだデバイスをヘルメットに装着する方式を選択しました。日々使用する個人のヘルメットに取り付けておけば、作業の前後において、その都度センサーを着脱しなくて済みます。
また、取り付けたセンサーデバイスから取得したデータを集めるゲートウェイと中継器には、村田製作所が以前から販売している特定小電力無線(920MHz帯)の製品を活用しました。そのため作業者ごとにセンサーデバイスから上位にデータを送信する通信用のスマートフォンを持つ必要がありません。
あとは、ゲートウェイからインターネットを介しデータをクラウドに集めて分析する仕組みが開発されれば実現のめどが立つと考えました。
選定と導入
ゲートウェイから先の部分に「遠隔設備管理サービス」を活用
ただ、電子デバイスの製造をビジネスの主軸に置いている村田製作所にとって、インターネットやクラウドはあまり経験がない領域でした。ゼロからの開発では「早く現場での検証作業に入りたい」という建設会社の要望に応えられないのは明らかでした。
そこでIoT事業推進部は、かねて交流があった日立ソリューションズに、インターネットからクラウドまでの共同開発を打診。日立ソリューションズはデバイスやセンサーのデータ収集・活用システムで多くの実績を持つ「遠隔設備管理サービス」(『M2M遠隔施設管理システム M2M Remote Factory Manager』のクラウドサービス名称)をカスタマイズして組み込むシステム構成を、2017年3月に村田製作所に提案しました。
この「遠隔設備管理サービス」は、産業用PCやゲートウェイ内に組み込むソフトウェアからインターネットを通じて、クラウド側にセンサーデータを自動送信し、そのデータを基に、クラウド側のビッグデータソリューションが監視、分析、可視化などの機能を提供する仕組みになっています。
カスタマイズの主な対象となったのは、クラウド側のUIと分析機能でした。分析機能部分は取り外し可能なモジュラー設計になっていたので、村田製作所が独自に開発した熱ストレス*を分析することができるパラメータのモジュールを組み込みました。これにより、現場のセンサーから送られてきた温度、湿度、脈拍、活動量の各データを基に「熱ストレスが高まっているかどうか」を判定して、現場管理者などにアラートを送り出せるようにしました。
PoC(概念実証)用の環境が完成したのは、2017年6月。その後は、「作業者安全モニタリングシステム」のプロトタイプ版を建設会社の現場で試してもらい、機能や使い勝手についてのフィードバックを得て、改良を繰り返していきました。検証に費やされた期間は、およそ1年2カ月。2回の猛暑シーズンを経て、建設会社が満足するレベルに到達したものが2018年8月に完成しました。
さらに、2018年10月からは、「作業者安全モニタリングシステム」を汎用的な商品に仕上げるための設計作業が始まります。さまざまな業種・企業に利用してもらえるクラウドサービスとして世に出すには、特定の業種・企業での使用を前提とした仕様のままでは適しません。「どのようにして作業者をシステムに登録するか」「どの時点でヘルメットのセンサーをインターネットに接続するか」「アラート通知先のメールアドレスが間違っていた場合はどう対処するか」といったさまざまなユースケースを洗い出し、本格的なクラウドサービスへと脱皮させていきました。
日立ソリューションズは、自社が運用しているサービス事業での経験と知見を基に、2019年6月に予定されていたサービス開始に向けて、この商品化の作業にも実績のある製品とサービス向け基盤を活用し、専門エンジニアによる支援および実践的なノウハウを提供しました。作業現場で熱ストレスが問題になるのは猛暑シーズンだけなので、少し遅れただけでも、「作業者安全モニタリングシステム」のサービスインが1年遅れてしまうのです。
「日立ソリューションズのエンジニアは、顧客のニーズをシステム仕様に翻訳する“通訳”として活躍してくれました。そのおかげもあり、2019年6月のサービスインは死守することができました」(山下氏)
*熱ストレス:周囲の環境、脈拍、活動量を計測して、総合的に判断する独自のパラメータ。疾病の診断や予防、予知を行うものではありません。
成果と今後
すでに11社で本稼働・試用中。対応センサーの種類も増加へ
こうして完成した「作業者安全モニタリングシステム」は、予定通り2019年6月に商用サービスを開始。まず、企画スタート時からの共創パートナーである大手建設会社では、4カ所の現場で働く約300人規模が日々の作業において使用し始めました。このほか、建設業以外の約10社からも引き合いがあり、トライアルユースが続けられています。
大手建設会社およびトライアルユーザーからの反応は、ほぼ良好です。使い勝手についての満足度も高く、過酷な作業環境を持つ企業に「ヘルメットとゲートウェイだけで使えるユニークなデバイス」として認められるようになりました。
また、村田製作所の社内でも、「作業者安全モニタリングシステム」は新規ビジネスの種となるソリューションとして評価され始めています。すでに、IoT事業推進部では熱ストレス以外のデータを測るためのセンサーを組み込む機能拡張を企画中です。センサーごとに新しい分析モジュールや可視化モジュールをそろえることによって、ユースケースの拡大や、それに伴うビジネスの拡大をめざしています。
さらに、「作業者安全モニタリングシステム」を海外市場に投入するという構想もスタートしています。建設現場などの厳しい作業環境における作業者安全管理に対するニーズは、国や地域を問わず共通のはずです。最近は海外案件を抱える建設会社も増えていますから、このシステムが世界の現場で使われるようになる可能性は十分にあります。
「早く形にしたいという思いが当社にあり、日立ソリューションズには開発期間についてかなり無理なお願いをしました。そのような状況にもかかわらず、当社のリクエストに真摯に対応してくれたおかげで『作業者安全モニタリングシステム』はスタートを切ることができました」(佐藤氏)
すでに次世代バージョンの企画を進めている村田製作所を、日立ソリューションズは現行バージョンのサービス運用と併せて支援していきます。
*村田製作所が開発した作業者安全モニタリングシステムに含まれるセンサーデバイスは、医療機器ではございません。
株式会社村田製作所
セラミックスをベースとした電子部品の開発・生産・販売を行なっている世界的な総合電子部品メーカー。独自に開発、蓄積している材料開発、プロセス開発、商品設計、生産技術、それらをサポートするソフトウェアや分析・評価などの技術基盤で独創的な製品を創出し、エレクトロニクス社会の発展に貢献している。通信市場と自動車市場のほか、エネルギーやメディカル・ヘルスケアなどの領域に進出している。さらに、IoTを活用した消費者向けビジネスにも取り組み中。事業者サービスに強い企業との連携を通じて、「工場エネルギー見える化」「振動モニタリング」「屋内位置検知」「バイタルセンシング」などのソリューションを社会に提供している。
作業者安全モニタリングシステム:https://go.murata.com/jp_wms_hs
本社所在地 | 京都府長岡京市東神足1-10-1 | |
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設立 | 1950年12月23日(創業:1944年10月) | |
従業員数 | 連結 77,571人(2019年3月31日現在)/個別 8,783人(2019年3月31日現在) | |
事業内容 | ファンクショナルセラミックスをベースとした電子デバイスの研究開発・生産・販売 | |
URL | https://www.murata.com/ |
この事例に関するソリューション・商品
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本事例の内容は2020年1月24日公開当時のものです。
最終更新日:2020年1月24日