ITSMとは?DX推進にも有効となる導入のポイントを解説
更新日:2024年12月13日
デジタル変革の時代において、ITサービスの質や効率性は企業の成長に不可欠です。しかし、多くの企業では、システムのサイロ化や手作業による非効率性が課題となっています。そうした状況のなか、重要性が高まっているのが「ITSM(ITサービスマネジメント)」です。
本記事では、ITSMの基本概念やメリット、導入におけるポイント、具体的なサービス・製品についてわかりやすく解説します。
1. ITSM(ITサービスマネジメント)とは
ITSMとは「Information Technology Service Management(ITサービスマネジメント)」の略で、ITサービスの提供と改善を行うための一連のプロセスやマネジメント活動のことです。ITSMの目的は、ITサービスが企業のビジネス目標や要求に適合するように整えることです。組織がITを活用して価値を創出し、効率的な経営を実現するうえで重要な役割を果たします。
ビジネス環境のデジタル化が進むなか、ITSMは組織のIT運用をより効果的かつ効率的に管理するためのキーツールとして注目を集めています。また、組織内の情報技術関連のプロセスやポリシーを標準化し、ITサービスの質を一貫して高めることも可能です。
ITSMツールの主な役割
ITSMツールは、ITSMのプロセスをサポートし、自動化するために開発されたソフトウェアやサービスです。
主な役割として、サービス要求管理、インシデント管理、問題管理、変更管理、そしてIT資産管理などが挙げられます。これらの機能によって、運用チームと開発チーム間のコラボレーションが促進され、効率的な業務推進が可能となります。
ITSMツールを導入してIT運用の品質と速度を改善すれば、ビジネスの成長と変化に素早く対応できるでしょう。例えば、インシデントが発生した際には、迅速な対応と解決によってビジネスへの影響を最小限に抑えることが可能です。さらに、変更管理機能を通じて、新しい技術やプロセスの導入がスムーズに行われ、ビジネスのイノベーションを支援します。
このように、ITSMツールは単にIT運用を支援するだけではなく、組織全体の競争力やパフォーマンスを高めるための重要なツールです。
ITSM市場動向
近年、ITSM市場は顕著な成長を遂げています。その背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、ITサービスの管理と効率化の重要性が高まっていることがあります。
国内市場に目を向けると、ITSMは多くの企業や組織に注目されており、特に大規模企業や金融業界、製造業界での需要増加が顕著です。これらの業界では、ITサービスの品質向上や効率化を図るため、ITSMの導入が積極的に検討されています。
また、グローバル市場においても、ITサービスのグローバル化とデジタル化の進展に伴い、ITSMへのニーズが拡大しています。先進国ではITSMの導入が進み、成熟した市場となっている一方で、新興国や途上国ではまだ導入が進んでいない地域も多く、今後の市場成長が見込まれます。
これらの動向は、ITSMが単なるIT管理ツールにとどまらず、ビジネスの効率化や競争力強化に不可欠な要素として認識されていることを示しています。今後も、テクノロジーの進化とともにITSMの役割はさらに拡大し、多様な業界での導入が進むと予想されます。
2. ITSMと関連する用語について
本章では、ITSMと同じ文脈で語られることの多いDX、ITIL、DevOpsの意味やITSMとの違いについて解説します。
DXとの関係性
DXとは、デジタル技術の活用によってビジネスプロセスを変革し、企業の競争力を高める取り組みです。
ITSMは、DXの推進において重要な役割を担い、ITサービスの効率化と最適化を通じてデジタル化を促進します。ITSMではテクノロジーを単なるツールではなく、ビジネスプロセスを支援するサービスとして捉え、顧客志向のアプローチを行う点が特徴です。
そのため、ITSMを採用して企業変革を進めることは、DXの推進に大きく寄与します。
ITILとの違い
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)は、ITサービス管理のためのフレームワークです。ITSMの実践におけるベストプラクティスや手法、効果的なITサービス管理を実現するための指針を提供します。
一方で、ITSMはこれらのプラクティスを実際に適用し、管理する実践的な活動です。つまり、ITILは理論的な枠組みであり、ITSMはその枠組みを実践するプロセスといえます。
DevOpsとの違い
DevOpsとは、開発(Dev)と運用(Ops)の連携を重視し、ソフトウェア開発とIT運用の高速化をめざすアプローチです。
DevOpsとITSMとは異なる視点をもちます。ITSMはサービス管理に焦点を当てるのに対し、DevOpsの目的はより迅速な開発と運用の統合です。
ただし、相互に補完する関係にあり、両方の実践は組織のIT管理において重要な役割を果たします。
3. DX推進における課題
本章では、DXの推進をめざす企業に多く見られる課題を4つご紹介します。
社内問い合わせ・申請が非効率的
DXの進展に伴い、企業内の情報管理と処理の効率化が求められるようになります。しかし、依然として問い合わせや申請のプロセスが非効率であり、業務の停滞を引き起こしているケースは少なくありません。
従来の手動による作業プロセスでは時間がかかるうえに、エラーが発生しやすい状況が生じます。その結果、業務の遅延や誤りが生じ、組織全体の生産性に影響を及ぼすことがあります。特に、繰り返し行われるルーチンワークや複雑な承認プロセスにおいて、非効率性は大きな問題となりえます。
こうした課題の解決には、プロセスの見直しやシステムの改善が必要です。
システムのサイロ化
システムのサイロ化は、情報共有の妨げとなる要因です。各部門やチームが独立してシステムを運用することで、情報が孤立し、組織全体の意思決定や業務の透明性が損なわれます。
また、サイロ化されたシステムは、データの重複や矛盾を引き起こし、業務の効率性を低下させるおそれがあります。組織内でのシームレスな情報共有と効率的な業務運営を実現するためには、システムの統合と一元化が不可欠です。
手作業による人的ミス
手作業による業務プロセスは、人的ミスを引き起こす大きな要因となります。特に、繰り返し行われる作業や、細部に注意を要する作業では、人的ミスが発生しやすくなるでしょう。
このようなミスは、業務の遅延や誤った情報の伝達を招き、顧客へのサービス品質の低下につながります。そのため、作業の効率化と精度向上をめざし、手作業を最小限に抑えることが重要です。
作業の属人化
作業の属人化とは、ある業務が特定の個人に依存している状態です。属人化すると、業務の継続性や柔軟性が損なわれるおそれがあります。例えば、担当者が不在の際に業務が停滞したり、業務の引き継ぎが困難となったりするリスクがあります。また、知識や情報が特定の個人に集中することで、組織内での情報共有が妨げられ、組織全体の成長を阻害する要因となりえます。
属人化の解消と業務プロセスの標準化を図ることで、DXの推進につながり、業務効率化につながるでしょう。また、標準化されたプロセスは、新たなメンバーの教育や業務の引き継ぎを容易にし、組織全体の柔軟性と適応力を高めることにも寄与します。
4. ITSM導入のメリット
前述した課題を解決するために有効なのがITSMです。本章では、ITSMを導入するメリットを3つ解説します。
業務品質の改善
ITSMを導入する最大のメリットは、業務品質の改善です。ITSMの枠組みを活用することで、IT関連の業務プロセスが標準化され、一貫性と透明性が向上します。
例えば、インシデント管理や問題解決のプロセスが統一されることで、迅速かつ効果的な対応が可能となり、業務の中断時間が減少します。また、ITSMはサービスの品質管理に重点を置いているため、顧客からの要望やフィードバックを効率的に処理し、サービスの質を継続的に向上させることが可能です。
さらに、ITSMは業務の属人化の解消にも貢献します。標準化されたプロセスと明確なガイドラインにより、特定の個人に依存することなく業務を遂行できます。IT部門とビジネス部門間のスムーズなコミュニケーションにもつながるでしょう。
業務効率化・コスト削減
ITSMツールを利用することで、日常のIT関連業務が自動化され、手動で行う作業量が大幅に減少します。
例えば、よくある問い合わせや既知の問題に対して、ユーザーが自分で検索して問題を解決できるように管理すれば、問い合わせの数が減って業務の効率化を図れます。IT管理者は繰り返し行う定型業務から解放されるため、より付加価値の高い業務に集中できるでしょう。
また、ITSMは組織内の異なるシステム間の情報共有と統合を促進し、サイロ化されたシステムの問題を解消します。この統合は、ITサービスの提供だけではなく、ビジネスプロセス全体の効率化にも寄与します。
さらに、IT資産の管理を効率化し、無駄なコストを削減できる点もITSMを導入するメリットです。IT資産管理の自動化により、不要なハードウェアやソフトウェアのライセンスの削減、または適切な更新が可能となり、全体を把握したうえでITコストを最適化できます。
統一されたプロセスと明確なポリシーにより、IT関連の作業ミスが減少すれば、それに伴う追加コストの削減にもつながるでしょう。
顧客満足度の向上
ITSMによる効率的かつ迅速なITサービス提供は、顧客からの問い合わせや要望への対応速度を向上させます。
また、顧客とのインターフェースであるサポートやヘルプデスクの機能向上も可能です。結果として、顧客への対応品質が向上し、顧客満足度の高いサービス提供が実現されます。
さらに、ITSMを導入すれば、サービスの品質管理を強化でき、顧客の声を反映したサービス改善が容易となります。顧客のフィードバックを定期的に収集し、それをサービス改善に生かすことで、顧客の期待に応えられるでしょう。このプロセスは、顧客との長期的な関係構築にも寄与し、顧客ロイヤルティの強化につながります。
5. ITSMツール導入におけるポイント
本章では、ITSMツールを導入する際に意識すべきポイントを6つに分けて解説していきます。
明確なビジョン・目標の設定、適切な計画の策定
ITSMツールを導入する際、最も重要なのは、明確なビジョンと目標の設定です。組織がめざすITサービスの未来像を明確にしたうえで、実現可能な目標を設定する必要があります。
さらに、目標に向けた具体的な計画を策定することが重要です。計画には期限、責任者、必要なリソース、大計画などを含めるとよいでしょう。適切な計画の策定により、スムーズかつ効果的にITSMツールを導入できます。
めざすべきプロセスの明確化
ITSMツールの導入を成功させるためには、めざすべきプロセスの明確化が不可欠です。まず、組織内の現行プロセスを詳細に分析し、改善すべき点を特定しましょう。次に、ITSMツールに適合するよう、これらのプロセスを再設計して標準化します。
適切なプロセス明確化のステップを踏むことで、より効率的かつ効果的なITサービスの提供と運用が可能となり、サービス品質の向上が期待できます。
自社に適したツールの選定・導入
企業のニーズと目標に合わせて、ITSMツールの選定と導入を行います。市場には多数のITSMツールが存在し、それぞれに独自の機能と特徴があります。自社の業務プロセス、ITインフラ、そして将来的な拡張計画を考慮して、最適なツールを選定することが重要です。
ツール選定時には使いやすさ、柔軟性、拡張性、サポート体制なども評価基準に含めるとよいでしょう。適切なツールの選定により、ITSMの導入効果を最大化できます。
カバー領域の明確化、カスタマイズの検討
ITSMツール導入時には、組織の具体的なニーズに合わせてカバー領域を明確にし、必要に応じてカスタマイズを検討することが重要です。
ITSMツールの機能は多岐にわたり、すべての機能が各組織にとって必要とは限りません。自社のIT環境、業務プロセス、およびめざすサービスレベルにもとづいて、最も重要な機能やプロセスを特定し、それに焦点を当てることが効果的です。
また、状況に応じてツールのカスタマイズを行うことで、より効率的な業務運営が可能となり、組織の特定の要求に対応できます。
関係者の教育
ITSMツールの導入において、関係者の教育は極めて重要です。新しいツールやプロセスを効果的に活用するためには、従業員がそれらの機能と利点を理解し、適切に使用する必要があります。
教育プログラムは、ツールの基本的な使い方から、特定の業務プロセスでの応用方法まで幅広くカバーしましょう。また、定期的なトレーニングとサポートを提供することで、従業員のスキルアップとツールの効果的な活用を促進します。
改善サイクルの構築
ITSMツールの導入後も、継続的な改善サイクルの構築が不可欠です。これは、ツールの効果を最大限に引き出し、組織にとっての価値を継続的に高めるために必要なプロセスです。
改善サイクルでは、定期的なパフォーマンスの評価やフィードバックの収集、アクションプランの策定が行われます。これらのアプローチにより、ITSMツールの使用を最適化し、組織の変化や成長に合わせてシステムやプロセスを進化させることが可能です。
6. ITSMを実現するサービス・製品
ITSMを実現するサービス・製品の一例として、ServiceNowとJira Service Managementをご紹介します。
日立ソリューションズの強み
当社には、ITSM製品の取り扱い実績が多数あり、ServiceNowやJira Service Management などの主要な製品を取り扱っています。ServiceNowとJira Service Managementは、市場シェアの約半分を占め、導入のしやすさと優れたカスタマイズ性で高い人気を誇ります。
当社の強みは、これらの製品を効果的に活用するための豊富な経験と知識を持つ専門スタッフ・SEが在籍している点です。導入時のコンサルティングから設計、運用まで、お客さまのニーズに合わせて一貫したサポートを提供します。お客さまにとって最適なITSMソリューションを効率的に導入・実現し、DX推進における目標達成に貢献することが可能です。
ServiceNowのご紹介
特長・強み
ServiceNowは、ITSM領域において長年多数のシェアを獲得している、エンタープライズ向けの先進的なSaaS(Software as a Service)です。多機能性と拡張性により、幅広いビジネスニーズに対応できます。
Gartnerは、9年連続でServiceNow をITSM Magic Quadrant部門においてリーダーに選出しました。この高い評価の背景には、お客さまがServiceNowの単一クラウドプラットフォームを通じてレジリエンスの高いITサービスを提供できること、AIを活用して迅速に問題を解決しITの生産性を向上させていること、そして場所に関わらず常時接続できるITサービスを提供していることがあります。
さらに、ServiceNowを提供するServiceNow Japanは、日本政府のセキュリティ評価制度であるISMAP(イスマップ)のクラウドサービスリストに登録されたことを発表しています。この制度に登録されたことは、ServiceNowが提供するSaaSおよびPaaSが、日本政府の求めるセキュリティ水準を確保していることを示しています。
日立ソリューションズとの関係性
日立ソリューションズは、2012年に日本で最初のServiceNowのリセラーとして販売を開始しました。現在では、最高ランクのパートナー称号「Elite Partner」を獲得しています。この称号は、顧客満足度、資格取得者数、導入実績数などの基準にもとづいて決定され、日立ソリューションズは国内トップクラスの実績(導入実績130社以上)を誇ります。
Jira Service Managementのご紹介
特長・強み
Jira Service Managementは、市場シェア上位のITSMツールで、SaaSおよびオンプレミス版が提供されています。グローバルで45,000社に導入されており、その信頼性と効果が高く評価されています。
日立ソリューションズとの関係性
日立ソリューションズは、Jira Service Managementをはじめとするアトラシアン社製品のゴールドソリューションパートナーです。特にプロジェクト管理、アジャイル開発、DevOpsの領域での支援が強みであり、ITSM分野におけるアトラシアン製品の導入にも注力しています。日立ソリューションズは「ITSM Specialization」にも認定されており、導入から運用、カスタマイズまで幅広い支援を提供しています。
7. まとめ
本記事では、ITSMの概要からDX推進におけるITSMの重要性、効果的な導入のためのポイントまでを解説しました。ITSMは、現代のビジネス環境において、ITサービスの品質を向上させて組織の効率化を図るために不可欠な要素です。特に、ServiceNowやJira Service Managementのようなツールは、ITSMの実践を効果的かつ効率的に支援します。
これらのツールを選定し、適切に導入することで、ビジネスの成長を支える強固なIT基盤を構築できます。ITSMの導入と運用は、DX推進の重要なステップであり、企業の競争力を高めるための鍵となるでしょう。
ホワイトペーパー第5弾
「ITサービスマネジメント(ITSM)の領域に付加価値を与えるための秘訣」
ITSM市場の成長が予測される昨今、DX推進のカギとなるITSM製品の活用ポイントと、より付加価値を与えるための秘訣を自動化に焦点を当てて解説します。