不可避になる「IT運用のDX」とは?

複数のAIツールの組み合わせで「NoOps」をめざす!
実践の勘所とその効果

更新日:2023年5月12日

IT運用を「人手でどうにかする」発想は捨てるべき

IT部門の業務負荷が増え続けている。大きな要因が、DXの推進に伴うシステム環境の多様化だ。新たなビジネスやサービスを創出するためには、データ駆動型の迅速な意思決定と施策の推進が不可欠である。多種多様なアプリケーションを適材適所で活用することが求められるが、社内ヘルプデスク業務も含めたそれらの運用管理負荷が、日増しに増大しているのである。

加えて、現場の定型業務をこれまで通り支えることも大切だ。実際、既存システムの運用管理や更新、セキュリティー対策など、目の前の業務で手一杯というIT部門は少なくないだろう。経営トップからは「年30%のコストダウンを」といった厳命が下っており、徹底的な業務効率化も並行して進める必要がある。このように、“絞り切った雑巾”の状態にあるIT部門が、新たな価値を生むためのデジタル活用にリソースを割くのは、ほぼ不可能といっていいだろう。

とはいえ、これからの企業経営のカギを握るのもIT部門である。この状況を脱却し、IT部門の力を組織の強みに変えるには、IT運用の在り方を抜本的に見直す必要がある。ポイントは「人手でどうにかする」発想を捨てることだ。IT運用の自動化によってオペレーションレスの世界を実現する「NoOps」が、重要なキーワードとして浮上している。

今回は、その実現方法と具体的なステップについて考えてみよう。

NoOpsに導くAI活用、成功へのステップは?

NoOpsへの道について、日立ソリューションズの疋田 哉氏は次のように説明する。

「押さえるべきポイントは『標準化』『自動化』『継続的な改善』の3つです。これにより、業務効率を高め、人的負荷を最小化しながらIT部門のミッションを遂行できるようにします。いわば『IT運用のDX』を推進することがカギになるといえるでしょう」

もっとも、標準化と継続的な改善には既に取り組んでいるIT部門も多いだろう。そのため、注目すべきは自動化だ。レガシーな基幹系システム、クラウドネイティブなオープンシステムなどの管理およびそこに付帯する業務について、何を、どこまで、どのように自動化するかがIT運用のDXの成否を分けるのである。

「現在はIT運用の自動化のとらえ方も進化しています。はじめはExcelベースの管理業務や人手によるオペレーションを機械化することを自動化と呼んでいましたが、このようなシンプルなアナログ/デジタル変換はステップ1に過ぎません。オペレーションレスの世界を実現するNoOpsを推進するには、AI活用を軸としたステップアップが肝心です」と疋田氏は強調する(図1)。

図1 高度な運用自動化に向けたステップ
業務の単純なデジタル化では多様化するシステムや業務の変化に追従できない。AI活用を軸としたステップアップを図ることが、IT運用のDXのカギを握る

これまでの自動化は、定型化できる業務や監視作業などをルールベースで機械化するものが中心だった。しかし、システムがオンプレミスからクラウドに移行し、さらにコンテナ化するなど、IT運用の前提が頻繁に変化する現在は、変化の度にルールの定義から人がやり直さなければならない。「AIは、大量のデータに基づく予測によって、それらの変化にも自動で追従して業務を遂行することが可能です。これが、高度な自動化を実現するAIの強みといえるでしょう」と疋田氏は述べる。

事前アセスメントやシステム構築も含めた支援を展開

それでは、現状のIT運用をどのように変えていくべきか。どんな高機能なAIツールも、導入するだけで課題は解決できない。現行のIT運用プロセスの洗い出しやドキュメントの確認など、十分な現状把握とフィット&ギャップ分析を行ってからAIを導入することが肝心だ。

「現場には、どうしても変えられない業務の手順やプロセスが存在するものです。そこで当社は、どのようにすれば最新のAIツールやメソッドをお客様の業務プロセスにフィットさせられるかを、豊富なノウハウと経験に基づいてご提案します。またAI特有の導入時の設定や導入後の学習やモデルの修正についても、技術的な観点でご支援することが可能です」と疋田氏は言う。日立ソリューションズは長年、多くの企業・組織のシステム運用を支援してきた実績を持っている。それに基づき、事前のアセスメントから運用設計、ツール/サービスの選定、開発・構築、運用サポートまで、IT運用のDXに向けたトータルなソリューションを提供するという。

それが「システム運用管理ソリューション」だ(図2)。

図2 「システム運用管理ソリューション」の全体イメージ
上流のコンサルティングからAI活用を含めた技術支援までトータルにカバーし、企業ごとのフィット&ギャップに対応する

事前アセスメントで明らかにした顧客ごとの自動化ポイントに従って、AIを搭載した複数のツールを組み合わせて適用する。Webパフォーマンスを監視・分析する「AppDynamics」や、ネットワーク、クラウドサービスの稼働を監視する「ThousandEyes」、インフラの監視・分析を担う「Splunk」、インシデントの分類と要員のアサインを行う「ServiceNow」、クラウド上のコンテナ環境のプロビジョニングとコスト最適化を支援する「CAST AI」などがその一例である。

IT運用のDXによって大きく広がる可能性

システム運用管理ソリューションを利用することで、IT運用プロセスを大幅に自動化し、IT部門の負担を軽減できる。ここでは典型的な活用例をいくつか紹介しよう。1つはAppDynamics、ThousandEyes、ServiceNowのユースケースだ。

DXのコアになるサービスの稼働状況の監視を、AppDynamicsとThousandEyesで行う。これによりサービス視点でネットワークを含むインフラからアプリケーションまでをリアルタイムに監視できる。

ビジネスインパクトとなるパフォーマンス低下をとらえるにはしきい値の調整がポイントになるが、AppDynamicsはピーク時/オフピーク時の性能傾向をAIが学習し、しきい値を動的にコントロールする。さらに平常時から乖離した状態を検知した際にはアラートの発報と、原因分析までを自動で行う。

次に、発報されたアラートは、ServiceNowがインシデントとして管理する。インシデントは、内容によって分類することや対応者のアサインが必要だが、ServiceNowでは蓄積された過去データをAIが学習し、分類やアサインを自動で行う。

状況の変化に対応した適切な監視から、障害発生時の原因分析、加えて発生事象に応じた初動の開始まで、AIを活用して自動化することで、サービス品質の維持と障害復旧の迅速化を人手によらず実現することが可能になる(図3)。

図3 AIを活用したサービス運用のユースケース
多種多様なサービスの構成要素を状況変化に対応しながら監視し、障害発生時には原因分析とインシデント管理から対応プロセスの開始をAIで自動化

「監視すべきアプリケーションやサービスが増えた現在は、『毎日大量のアラートメールを受け取るが、とても見きれない。見逃しや対応の遅れがないか、常に不安だ』というお客様の声をよく耳にします。AIツールによって、このようなアラート疲れを解消します」と疋田氏は話す。

もう1つはCAST AIの活用例だ。現在の企業では無数のクラウドサービスが活用されている。増加傾向にあるクラウド利用料をどう適正化するかも、IT部門の重要な検討事項だが、CAST AIはこれを解決する。パブリッククラウドに構築されたkubernetesクラスタに接続し、サービスのワークロードと必要なリソースの分析・予測、オートスケールをAIが24時間継続してリアルタイムに行う。クラウド利用料の削減と、サービスの安定稼働に必要なリソースの管理を同時に実現してくれるのである。

「IT運用におけるAIの適用範囲は今後もどんどん増えていくと考えています。たとえば、現在注目されているのがオブザーバビリティ(可観測性)という考え方です。単に状態を監視(モニタリング)するだけでなく、監視対象から収集した複数の情報を関連付けて可視化することで複雑なシステムの状態を把握しやすくし、未知のものを含め問題発生時の原因究明を迅速化する。Splunkはこれを実現するツールの代表例ですが、このような領域も含めたAIの活用が広がっていけば、NoOpsはさらに進み、IT部門はより多くの効果を得ることができるでしょう」と疋田氏は言う。

システムやIT運用の効率化は省エネルギー化となり、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)やSX(サステナビリティトランスフォーメーション)への活動へとつながる。IT部門の負荷を減らしつつ、社会課題の解決に向けて貢献できるようになるだろう。

もはや、人の手だけでIT運用を回していける時代は過ぎ去った。AIツールによってIT運用のDXを推進することは、企業・組織がその価値を高めていく上で不可欠な取り組みといえるだろう。日立ソリューションズは、そのためのソリューション強化と支援をこれからも行っていく。

interviewee

疋田 哉氏

株式会社 日立ソリューションズ ITプラットフォーム事業部
運用管理システム本部 クラウド運用管理ソリューション部 部長

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