【ソニー×メルカリ×日立ソリューションズ】先輩事例に学ぶ!OSSの専門組織(OSPO)の作り方 セミナーレポート(1/2)
イベント概要
あらゆる産業において欠かすことのできない存在となっている「オープンソース・ソフトウェア(OSS)」。無償で利用でき、プログラムのソースコードが公開されていることが特徴で、オペレーティングシステムであるLinuxやデータベース管理システムのMySQL、プログラミング言語のJava、Perl、PHP、Pythonなどが知られています。企業のOSSマネジメントの重要度が増す中で、株式会社日立ソリューションズはOSS管理を支援するソリューションを提供しており、2021年12月にOSSマネジメントフォーラム2021を開催しました。本記事では、当該イベント内で行われた「先輩事例に学ぶ!OSSの専門組織(OSPO)の作り方」と題したパネルディスカッションの模様をお届けします。OSPO立上げ時の苦労や課題などの経験談、社内外からの反応・効果について、具体的事例が語られました。
パネリスト
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福地 弘行 氏
ソニーグループ株式会社
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佐藤 和美 氏
ソニーグループ株式会社
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上野 英和 氏
株式会社メルカリ
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渡邊 歩(モデレーター)
株式会社日立ソリューションズ
セミナー内容
- ※セミナー当日は、パネリスト様からプレゼンテーション資料の投影がありましたが、本セミナーレポートでは掲載しておりません。
メルカリのOSPOとは
渡邊歩(以下、渡邊):それではOSSマネジメントフォーラム2021 Day2のパネルディスカッションを始めてまいります。まずパネルディスカッションのテーマ①ということで、パネリストの皆様からの自己紹介を兼ねてそれぞれの会社さんのOSPO(オスポ、オーエスピーオー)のご紹介をしていただきたいと思います。
渡邊:まずパネリストの1人目、株式会社メルカリの上野様、メルカリさんのOSPOについてご紹介いただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
上野英和氏(以下、上野):よろしくお願いいたします。株式会社メルカリで知財をやっております上野と申します。最初に自己紹介ですが、私は新卒からずっと企業知財でして、大体は特許の係争に関する仕事をやってきました。2018年の8月にメルカリに移りまして、知財の立ち上げ期から知財全般を担当している状況です。その中の1つとしてオープンソースを担当しています。今日はそのオープンソースの組織「OSPO」とメルカリでも呼んでいますが、その立上げについてお話したいと思います。
上野:最初にメルカリOSPOの紹介ということで、こちらが概要になります(資料投影)。位置付けとしては、メルカリグループにおけるOSSに関する活動をサポートするようなプロジェクトになっており、専任の組織ではありません。そのためエンジニアや、セキュリティ、私のような知財など各チームからメンバーが参加しているプロジェクトになります。
担当範囲としては、株式会社メルカリだけではなくて、例えばフィンテックの子会社であるメルペイやアメリカの現地法人など、グループ全体をカバーしています。ここに写真を載せているのがメルカリのオウンドメディア「メルカン」上のOSPO紹介記事内のOSPOメンバーの集合写真です。2人は外国人のため、基本的にOSPO内のコミュニケーションは英語になっています。
原点は「コミュニティへの恩返し」
上野:次に、会社全体の話に少し触れたいと思います。先ほど外国人2人というのがありますが、基本的にメルカリの東京オフィスであっても、例えばエンジニアは外国籍の方が約半数になっていて、かなりダイバーシティが進んでいます。プラットフォームビジネスということで、ありとあらゆる人たちに使っていただくために開かれているということがビジネスの本質となっていて、そういう意味でメルカリのビジネスにおいてもやはりダイバーシティは重要だと考えています。
なぜダイバーシティの話をしたかというと、ダイバーシティの元となっているメルカリのカルチャーというのがあり、それが「Trust & Openness」と社内で呼ばれています。この「Trust」というのは、基本的には会社が社員を信用して広い裁量を与えることを意味しています。そしてこの「Trust」の前提となるのが「Openness」ということで、会社が社員に情報を公開して透明性を保つカルチャーです。
ここで「Open」という言葉が出てきます。情報の公開というものが会社のカルチャーの中に組み込まれているという感じですね。メルカリ自体はかなりカルチャー、ミッション、バリューを重視している会社で、これが社員に浸透しているので、オープンソースの活動にも馴染みやすいというのがあると思います。
そのようなカルチャーの会社ですので、当時OSPOを立ち上げる時に、CTOに相談したんですけれども、もうその時点で是非やろうということになりました。そのCTOの考えを文章化してもらったものが「オープンソースの考え方」という文書で、メルカリのエンジニア向け情報発信サイトに掲載しております。
「オープンソースのコミュニティがなければメルカリのようなサービスを作ることはできなかったでしょう。ある程度メルカリが大きくなって公開や貢献ができるようになった今、OSPOのような活動を行うことで、オープンソースのコミュニティに恩返ししていくというのが必要なことだと考えています。」といった内容の言葉をCTOからもらいました。これがメルカリのオープンソース活動を始める本当の意味での原点なのではないかと考えています。
仕事外でもソフトウェアを作るような人たちが本当にイノベーティブなプロダクトを作れる
上野:このようなCTOなどとのやりとりを通じて、メルカリOSPOを立ち上げる際にミッション・ビジョンを作りました。このスライドは今日のお話の中で特に重要かなと私としては思っています。
最初にミッションですが「Employee Engagementの向上」としています。Employee Engagementとは何かと言うと、社員の満足度とか、会社との一体感・やる気とか、そういうものですね。これらの向上を目標にしています。
ビジョンというのは、そのミッションを達成するためにありたい姿ということで、「コミュニティの良き一員」としています。なぜコミュニティの良き一員であることがEmployee Engagementの向上につながるかというと、これはCTOなどとのやり取りで聞いた話ですが、「メルカリのソフトウェアエンジニアというのはオープンソースに関してちゃんとやっているような会社じゃないと働きたくないような人たち」ということでした。
オープンソースをやっているような人たちは、仕事でも仕事外でもソフトウェアを作るのが好きな人たちで、そういう人たちが本当にイノベーティブなプロダクトを作れるんだと。そういう人たちが一体感とやる気を持って働けるような会社にしたいというお話を伺って。であれば、そこに貢献することがOSPOを通じてできるのでは?と考え、このようなビジョンとミッションを設定しました。そしてコミュニティの良き一員になるための具体的な活動として、「オープンソースの公開や貢献をちゃんとやる」「オープンソースの利用におけるコンプライアンスをちゃんとやる」というのを掲げました。
次の、情報発信というところが少し特徴かなと思うんですけれども、こういう(いまお話しているような)情報を、社内には当然教育とか啓蒙として発信していくんですけど、同時に、社外に情報発信することで社内のエンジニアに届けるということも考えていました。冒頭のオウンドメディアの記事もそうで、結構社内の人が読んでいるので、社外と社内で情報が流通するものとしてオウンドメディアという情報発信方法がとられています。この3つをOSPOのメインの活動三本柱というふうに位置づけ、普段の業務を行っているということになります。以上です。
ソニーのOSPOとは
渡邊:上野さん、どうもありがとうございます。たくさんのエッセンスが詰まったビジョンやミッションがある中で作られた組織だというところが印象的でした。やはりCTOがコメントを出されているところとか、それが会社全体の、例えばエンジニアの獲得みたいなところにも影響してくるような、そういうことまで考えていらっしゃって。組織作りとして、まずこのOSPOがあるというはすごいなと、感銘を受けました。ありがとうございます。ちょうど聞いていらっしゃるパネリストの佐藤さんや福地さん、何か「ここに関してうちと同じだよ」とか、逆に聞いてみたいところとか、ございますか?
福地弘行氏(以下、福地):そうですね。ありがとうございます。素晴らしい内容だなと思いました。弊社でもトップマネジメントの言葉や「良きオープンソースコミュニティの一市民であること」というような説明をトレーニングの中で書いていたりとか、あるいはポリシーの中で、「コミュニティと信頼関係を築く」みたいなことを謳ったりしているので、目指してるところは似ているなぁという感想です。
渡邊:同じようなキーワードがまた違う会社さんから出てくるというのが、なんというかこれが答えのような感じがしました。ありがとうございます。
ではすごく参考になったところを踏まえまして、パネリストとしてご参加いただいておりますソニーグループ、福地さん、佐藤さんの方から、ソニーさんのOSPOのご紹介もお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
福地:はい。本日はこのような講演の機会をいただきまして、ありがとうございます。ソニーグループ株式会社の福地と申します。
佐藤和美氏(以下、佐藤):佐藤です。よろしくお願いします。
福地:じゃあまず佐藤さんから自己紹介いいですか?
佐藤:はい。ソニーグループ株式会社の佐藤と申します。2002年くらいからソニー製品のLinuxベースのシステムソフトウェアの開発をずっとしてきております。多分、日本だとLinuxを使った商品を出したのはソニーが初めてなんじゃないかなって思ってたりするんですけど、もう2000年くらいからずっと活動しています。開発部門であったり、今はR&Dの中にいたりするんですけれども、LinuxベースのシステムソフトウェアをOSSベースで開発しています。
その傍ら、OSSのコンプライアンスとか、OSSのコミュニティ活動に関しての社内調整とか、委員会もやっています。ソニーの中には技術的な戦略コミッティというのがあるんですけど、その中のソフトウェアのコミッティメンバーもやっております。よろしくお願いします。
福地:はい、ありがとうございます。次に福地の方から自己紹介させていただきます。私はソニーの中でコーポレートテクノロジー戦略部門というところに属しています。全社の技術戦略を見るような部門ですね。そこに所属しています。
今は社内のOSSのコンプライアンスですとか、あるいはコミュニティへのコントリビューション(貢献)ですとか、コミュニティとの関係作りとか、そういうところを担当しながら、社内のポリシーとか、教育とか、あるいはルールとかを作るような、そういうこともやっています。コミュニティ活動もちょっとやらせていただいていて、OpenChainという、ある意味OSPOの仕組みの部分集合だと思うんですけど、OSSのコンプライアンスを扱うプロジェクトがあって、その中でJapan Work Groupというのを立ち上げて活動をさせていただいています。それからOSSに関係するようなドキュメントの翻訳などもしています。
ソニーのOSPOですが、まずリアルな組織が戦略部門のところ、先ほど私が所属していると言いましたコーポレートテクノロジー戦略部門ですね。この下にリアルなメンバーが居まして、専属でOSSの推進に関することをやっています。それはコンプライアンスだったりとか、コントリビューションとか、教育だったりとか、いろいろなことを全部受け持つような形です。さすがにそんなに大勢の人がいるわけではないので、これで大きな企業を全部賄うというのは無理です。
どうしているかというと、技術戦略コミッティというバーチャルな組織がありまして、ここにマネージメントクラスの方々がいて、技術の方向性について議論しています。その中の一つにソフトウェア戦略コミッティというのがあります。R&Dとかテレビとかセミコンとか、いろいろなビジネスユニットにおけるソフトウェア関係のトップがこのソフトウェア戦略コミッティに参加して形成されています。
その下にOSSに関するバーチャルな組織をいくつか設けて全社展開するということをやっていて、主にコンプライアンスを見る「OSSライセンス委員会」というものと、主にコントリビューションの相談を受ける「OSSボード」というものがあります。OSSライセンス委員会の場合、百数十名いろいろな部門から人が入るような形になっています。これらが受け持つ範囲としては、コンプライアンスも教育も、それからコントリビューションも、みたいな形になっています。
あと、世界にいろいろと拠点がありますので、それを受け持つ形で3拠点、まず日本とEUとUSで、6人・2人・2人、という形で人を置いて、そこの各部署に各開発サイトをサポートしてネットワークを持つという態勢でやっています。非常に簡単ですが、こんな形です。
渡邊:福地さん、佐藤さん、ありがとうございます。先ほどメルカリさんから伺ったところとリンクするんですけど、やはりきちんとCTOさんや上の方がオーサライズしてそういった組織ができてるというところは、かなり完成された組織があるようなイメージです。あとは専任の方もいらっしゃいますけど、非専任の方が結構多いとか、そういったところも共通点なのかなという気がいたします。どうもありがとうございます。