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コラム「製造業におけるカーボンニュートラル対応への取り組み ~CN成功の秘けつは経営層と実務層の連携によるGXグリーントランスフォーメーション~」
はじめに
本コラムでは、製造業のカーボンニュートラル対応などをテーマとした内容について、その最新トレンドや先行事例などをご紹介していきます。
製造業を中心に、カーボンニュートラル対応の取り組みが日本でも動き出しています。2019年12月にEU欧州委員会は、新しい成長戦略「欧州グリーンディール」を掲げました。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、「欧州グリーンディールは、EUの新しい成長戦略です。雇用を創出しながら、排出量の削減を促進します」と宣言し、2050年のカーボンニュートラル実現、2030年に50から55%CO2削減に取り組んでいます。この取り組みは、2021年の気候変動サミットやCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)よりほぼ全世界が取り組むテーマとなっています。EUの取り組みはさらに加速して、2035年にガソリン車やディーゼル車など内燃機関搭載車の販売が実質禁止となりました。自動車産業が、ガソリン車からEV車へのシフトを急いでいる背景にはこうした動きがあります。しかし、脱炭素への取り組みが遅れている日本では、高いエネルギーコストがさらに高騰し、脱炭素技術開発の遅れから製造業の競争力が欧米・中国より相対的に低下する懸念があります。つまり、カーボンニュートラル対応だけを目的とすると、これに伴うコスト負担や競争力の低下をまねくリスクが考えられます。本コラムでご紹介する旭鉄工株式会社や三井屋工業株式会社のカーボンニュートラル対応プロジェクト事例では、カーボンニュートラルを技術開発やビジネス創出のチャンスと捉えた積極的な取り組みを進めていることがわかります。こうした取り組みは、脱炭素経営(カーボンニュートラル対応)からさらに進んでサステナビリティ経営と呼ばれています。サステナビリティ経営には、“CO2排出ゼロ”(カーボンニュートラル)、“廃棄物ゼロ”(サーキュラー・エコノミー)、“不平等ゼロ”(ソーシャル・レスポンシビリティ)の3つのゼロがあります。こうしたサステナビリティ経営への取り組みを、「GX:グリーン・トランスフォーメーション」と呼んでDXと同様に戦略的に取り組む企業が増えています。(SX:サステナビリティ・トランスフォーメーションと呼ぶ企業もあります)
省エネ「CO2排出量の見える化」と再エネ「実質CO2排出ゼロのオフセット」
改正された「地球温暖化対策の推進に関する法律(改正温対法)」にもとづき、令和4年4月より温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられました(罰則規定あり)。また、国は報告された情報を集計し、公表することとされています。すでに待ったなしの段階であることが明白です。地球温暖化対策、カーボンニュートラルという考え方は、欧米からはじまった気候変動への取り組みなので、日本の経営者にはまだピンとこない人も多いようです。しかし、昨今の異常気象や気象災害が増えている原因が、人類の産業活動によるものであることは幅広い年齢層で認知されつつあります。企業において、カーボンニュートラル対策に取り組むうえで最も重要なのは言うまでもなく経営トップである社長や経営層の理解を得て、その経営方針にサステナビリティ戦略をしっかりと組み込むことです。経営層がカーボンニュートラルを十分理解せずに取り組むと、環境部や経営企画部などにトップダウンで「わが社もカーボンニュートラル対応を他社に遅れることなく対応しなさい」となります。担当部署は、社内を駆けずり回ってデータ収集して「CO2排出量の見える化」を行いますが、問題はその後です。カーボンニュートラルの内容は、状況やトレンドによって変わります。はじめは企業全体のCO2排出量を収集・開示するレベルでしたが、自動車産業や機械産業などでは製品当たりのカーボンフットプリント(以下CFP、製品当たりCO2排出量を重量/容積などで案分など)が求められるようになり、今後は金額ベースの排出原単位換算CO2排出量ではなく実測ベースCO2排出量が求められるとともにカーボントレーサビリティの説明を求められることになりそうです。こうしたトレンドは、環境に対する意識が高い欧州の動向に大きく左右されています。カーボンニュートラル対応は、求められるレベルが次第に高くなっているため、場当たり的な対応をしているといずれ対応できなくなるかもしれません。例えば、スコープ1、スコープ2のCO2排出量を実測ベースで収集するためには、生産部門や事業部門の担当者が協力してくれないと難しいでしょう。また、スコープ3のCO2排出量については、カテゴリー1は調達部門、カテゴリー4と9は物流部門など、カテゴリー11は完成品メーカー(発注元など)、カテゴリー12は廃棄業者やリサイクル会社などの情報が必要となります。したがって、経営層は実務層と相談してカーボンニュートラル対応組織を作ることが推奨されます。先行事例でご紹介する旭鉄工株式会社や三井屋工業株式会社も、カーボンニュートラル対応チームを作って対応しています。
おそらく多くの企業では、「CO2排出量の見える化」からの省エネ対策と、その結果を踏まえた「実質CO2排出ゼロのオフセット」の再エネ導入(再生可能エネルギーの選定・導入)といった取り組みプロセスをそれぞれ考えていると思います。再エネ導入の選択肢は、太陽光発電/風力発電/水力発電/水素発電/CO2回収・貯留技術(以下CCS)など今後増えると思われますが、その導入コストは状況による変動が予想されます。現時点の情報で判断を急ぐと失敗する可能性が高いと思います。一とおり出そろってから、2つ以上の選択肢を残しつつ、その都度見直すような柔軟性が必要です。いずれにしても、省エネ対策で可能なかぎり電力使用量を減らして、購入しなければならない再エネ導入を最小限に抑えるという考え方が望ましいでしょう。先走って、再エネ導入を決めるとコストアップにつながり、売り上げ収益に影響が出てしまうことになります。コストアップを抑えるために、「実質CO2排出ゼロのオフセット」を先送りすると他社より脱炭素への取り組みが遅い企業と見られてしまう懸念があります。経営層は、トレンドや業界動向など情報収集を怠ることなくサステナビリティ戦略策定します。その目的に沿って、GXを進める具体的かつ他社をリードするGHG削減目標の設定を行います。
経営層と実務層が相互連携するカーボンニュートラル対策チーム編成
経営層がサステナビリティ戦略で策定したGHG削減目標を達成するために、CO2削減に直接関わる各実務部門より管理者と担当者のメンバーを選定してカーボンニュートラル対応プロジェクトチーム(CNチーム)を編成します。まず、スコープ1とスコープ2については、事業部門の営業本部の担当と生産管理本部の担当が中心となります。これらの部門は、顧客別製品別の生産計画や顧客の要望などに直接関わるためスコープ1とスコープ2のCO2排出量をコントロールできるポジションとなります。スコープ3については、企業ごとにCO2排出量の大きいカテゴリーごとに影響を持つ部門よりメンバーを募ります。
【スコープ3各カテゴリーに影響を持つ部門の例】
・カテゴリー1→調達部
・カテゴリー2→経理部
・カテゴリー4→調達部または物流部
・カテゴリー9→営業部または物流部
・カテゴリー11→開発設計部
・カテゴリー12→開発設計部または営業部
CNプロジェクトのリーダーは、実務層メンバーの幅広い業務に明るく経営層との連携にたけた人材が望ましいと思われます。また、カーボンニュートラル対応はマイルストーンの中間が2030年、最終ゴールは2050年となる予定なのでできれば長期間プロジェクトに携われる人が望ましいでしょう。中堅クラスの人材で、忍耐力と柔軟性が求められる人材が対象となります。欧州のトレンドより、CN対応は今後さらに加速すると予想されるため、バランス感覚と柔軟な発想があればなおさらよいと思われます。CNチームとして最初に取り組むべき仕事は、経営層が設定したGHG削減目標を実現するための非財務指標KPIを見つけることです。例えば、スコープ1とスコープ2のCO2排出削減は工場の製造工程見直しや業務オペレーションのカイゼンにより達成されます。定量化して、コントロールできるCN関連KPIは、製造ラインごとのCO2排出量に相関性があるオペレーションを見いだして、その見直しや定点観測しながら、CNの計画/実績/進捗(しんちょく)を見定める仕組みの構築がポイントです。したがって、カーボンニュートラル対応のベンダやコンサルタントを使ってCNツール導入やCO2排出量の見える化までは外部支援が有効ですが、その先の「実質CO2排出ゼロのオフセット」の再エネ導入(再生可能エネルギーの選定・導入)は成長戦略や中長期の事業計画(中計)などに合わせてCNチームが中心に進めていくことになります。
サステナビリティ経営の取り組みは、2030年のマイルストーンや2050年のゴールといった中長期にわたるものとなります。したがって拙速な対応ではなく、腰を据えた対応や状況に合わせて随時見直す考え方が重要です。そのためには、経営層と実務層が互いに連携して取り組む体制づくりが成功の秘けつではないかと思います。まず支援を要請するベンダやコンサルタントは、長期にわたるパートナーとして信頼できる企業や人を選んで末永いおつきあいができる相手が望ましいと思います。CN対応ツールの機能は当然重要ですが、ツールよりもどういう企業がどのようなCN対応活動を行っているのかがより重要です。自社に似た製品、同様の製造工程など先行事例やノウハウから学べることが大切です。もし可能ならば、CN対応に成功している企業や工場に直接話を聞いて意見をもらうなどできると理想的だと思います。
地球温暖化対策として、実質CO2排出量ゼロとなるカーボンニュートラルのゴールは2050年達成をめざしていますので、あと28年ほどは継続すると考えられます。また、日本のマイルストーンは2030年にCO2排出量46%削減を公約しています。具体的には、2013年のCO2排出量14億800万トンを100%としたマイナス46%ということで、2030年のCO2排出量7億9000万トンへ削減となります。これから約30年間にも及ぶCNプロジェクトですから、CNチームのメンバー選定も社内/グループから幅広く募る方がよいと考えます。さらに、こうしたCN対応は世界中で同様の活動が行われるため次回以降でご紹介する旭鉄工株式会社や三井屋工業株式会社のように、どの企業でも独自技術の開発からビジネスチャンスをめざすことが可能だと思います。すでに多くの製造業で、製造業DXとしてスマートマニュファクチャリング(あるいはスマート工場)や製造業のサービス化に取り組んでいます。この製造業DXと並行して、GXに取り組むことが、これからの製造業として当たり前となるでしょう。GXは、DXと違って他社と差別化することが目的ではありません。地球温暖化/気候変動や環境問題などに、国や企業の垣根を越えた協力から互いの共創が可能です。まずは経営層と実務層の協力、社内CNチームの協力、CN対応を支援するベンダやコンサルタントの協力など人と人の信頼と共創から始めればそれほど難しいことではないと信じています。
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