スマートマニファクチャリングソリューション
なぜほとんどのIoTプロジェクトは途中で止まってしまうのか
連載『“失敗しない、止まらない”IoTプロジェクトの処方箋』#01
IoT技術導入に成功して、
IoTビジネス目標設定に失敗したA社
機械部品メーカーA社は、IoT技術導入には成功していると言えます。
IoTプロジェクトと言っても、A社が取り組んだのは、先行事例を参考にしてIoT技術を自社に取り込むというPoC(実証実験)ベースのプロジェクトです。トップ主導プロジェクトですから、失敗リスクを極力回避するという意識で取り組んでいるため失敗する可能性は低いと考えられます。3年前のデフレ経済下ならば、この成果は高く評価されていたと思われますが、景気が回復している現状では、本業による業績回復効果が顕著で業績に直接貢献していないコスト削減、生産性向上といった取り組みがこれ以上評価されることは無いと思われます。
IoTプロジェクトとしては成功していますが、大成功と呼べるインパクトのある成果が出ていないのが悩ましいところです。こうした企業が国内外に溢れているのが現状のIoTプロジェクトに関わる人達が置かれている状況です。
IoT関連で起業したベンチャー起業やシステムベンダなどは、こうしたIoTプロジェクトへ資材やサービスを売って儲けていますが、最近その売上が伸び悩んでいると口を揃えて言うようになりました。IoT関連の製品やサービスが乱立して、価格競争が激しくなり出荷数量は増えていますがそれ以上に単価が下落しています。IoTプロジェクトの大半が、先行事例を真似した取り組みを後追いしているだけなので、その効果が限定的なのです。
競合他社に圧倒的な差を付けるような、IoTプロジェクトはごくわずかです。
お金を稼ぐごとに成功しているIoTプロジェクトは、実際まだほとんどありません。
GE社は、航空機エンジン、電力用タービンエンジン、医療機器などでお金を稼ぐIoTに成功している企業ですが、IoT市場規模も成長力もまだ小さいため株主からの理解を得ることができませんでした。
建設機械メーカー大手のコマツでは、20年近い取り組みを経て本業と補完関係となるIoTサービスを事業化したICT建機によるサービス提供がようやく実を結びつつあります。
「コマツレンタル PC200i 3Days Challenge <法面整形完全攻略>」という動画がYoutubeで公開されていますが、これは建設機械の免許を取得したばかりの女性事務職社員がICT建機を使って初めての作業を行うというものです。従来の建機だと、5年以上の経験者でなければできない作業が、未経験者免許取り立て女性事務職でもできてしまうという内容です。
これは、コマツレンタルという建機レンタル部門が制作したものですが、そのインパクトは大きく新人や女性でもここまで作業ができるなら多少高くてもICT建機をレンタルするという現場の声が大きかったと聞いています。
(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=dq_qW12IPjs)
さらに、「ドローンによる高精度な3次元測量」という動画も公開されていて、これは建設現場における測量作業が、ドローン技術で短時間、省人化できることを比較しています。
(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=vZ8--kkbdPc)
このコマツのIoTは、ICT対応した新型のICT建機の売上に貢献するとともにこれを補完するIoTサービスとして株価にもよい影響を与えています。つまり、建機というモノ売りにくわえて同業他社がやっていない“コト売り”(IoTサービスの提供)に取り組んだ結果がこうした評価につながっています。
前述で紹介したA社との違いは、IoTビジネス目標設定の有無です。他社の先行事例を参考にしたA社の社内向けIoTプロジェクトの効果は短期で限定的ですが、コマツのお客さま向けIoTプロジェクトは業界初のサービスとして取り組んでいるためリターンも大きいと思われます。A社とコマツでは、IoTプロジェクトのゴール設定が大きく違っているのがポイントです。
まとめ
さて今回はIoTプロジェクトの状況について、先行する企業と後追いする企業の違いについてご紹介しました。このコラムのテーマは「“失敗しない、止まらない”IoTプロジェクトの処方箋」ですが、実際には途中で止まっているのではなく正しいゴール設定ができていないことによる足踏みだと思います。
山登りに例えると、とりあえず高尾山に登ったところだと言えます。この先、富士山、マッターホルン、キリマンジャロ、エベレストなどチャレンジしていく訳ですが、誰でもできることではなく誰もがやらないことを見つけて挑戦することが次のステップとなります。
大切なのは、ビジネス目標設定にあるのです。次回は、IoTプロジェクトのゴール設定についてご紹介したいと思います。
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