スマートマニファクチャリングソリューション
コラム「製造業におけるカーボンニュートラル対応への取り組み ~ サプライチェーン排出削減を原料資材リサイクルで取り組んだ部品メーカーの事例 ~」
はじめに
本コラムでは、製造業のカーボンニュートラル対応などをテーマとした内容について、その最新トレンドや先行事例などをご紹介しています。
第3回は、先行事例となるトヨタ自動車株式会社の樹脂系部品メーカー 三井屋工業株式会社の取り組みです。
製造業のCO2排出量は、サプライチェーン排出量という考え方がポイントとなります。サプライチェーン排出量は、資源採取・資源生産、原材料生産・原材料調達・製品製造・物流・販売・製品使用・廃棄など、製品のライフサイクル全体を考える必要があります。このサプライチェーン全体におけるCO2排出量など、環境負荷を定量的にデータ収集・評価する手法をライフサイクルアセスメント(LCA)と呼びます。製造業におけるカーボンニュートラル対応では、工場の生産活動によって排出されるCO2排出量はスコープ1:直接排出(主に燃料使用)、スコープ2:間接排出(主に電力使用)よりも、スコープ3:スコープ1・スコープ2以外の間接排出(15カテゴリーに区分:原材料調達とその輸送などの上流、製品輸送から販売・製品使用・廃棄などの下流)の占める割合が8割以上となります。本コラムの第3回は、このスコープ3にフォーカスしてみたいと思います。
サプライチェーン排出量スコープ3にフォーカスして脱炭素に取り組む
製造業のサプライチェーン排出量の8割以上をスコープ3が占めています。その大半は、カテゴリー12:販売製品の使用による排出です。製造業のなかでも自動車産業はスコープ3の比率が高く、化石燃料のガソリンや軽油など車両走行によって生じるCO2排出が大きく、さらに車両を製造した金属・アルミ・樹脂などによるCO2排出の削減が大きなテーマとなります。欧州では、2035年からガソリン車の販売が禁止されてEV車やFCV車など、車両使用によってCO2排出ゼロとなる車両のみ販売することになりました。その背景には、地球温暖化による気候変動・気候危機がCOP26で議論されたとおり、これまで以上に厳しい状況であるとの認識によるものです。環境省によると、国内の自動車が2019年度に排出したCO2は約1億8千万トンと、国全体の16%(約2割程度)に達したと公表されています。自動車は、車両生産によって生じるCO2排出と、車両の使用によって生じるCO2排出の2つの領域にまたがっています。全体の約2割のCO2排出量という現状より、自動車メーカーの脱炭素への取り組みが注目され、今後の取り組みがさらに加速すると予想されます。
製造業のカーボンニュートラル対応には、サプライチェーン排出の大半を占めているスコープ3の削減が大きなテーマとなっている背景がここにあります。サプライチェーン全体にまたがるCO2排出量を「見える化」する取り組みは、自社の上流と下流からデータを取得するのに時間と手間がかかります。さらに、脱炭素に向けたCO2排出量削減の取り組みは、企業ごとに自社の状況を踏まえた判断が求められます。製造業におけるスコープ3の削減ポイントは、カテゴリー1:購入した製品・サービス、カテゴリー4:輸送・配送(上流)、カテゴリー9:輸送・配送(下流)、カテゴリー12:販売した製品の廃棄などです。大手自動車メーカー(OEM)のトヨタ自動車株式会社や本田技研工業株式会社は、その主要サプライヤーにCO2の排出削減を要請しています。総量削減を行うとともに、製品ごとのカーボンフットプリント(以下CFP)に取り組む必要があります。
製品当たりのCO2排出量算出(プロダクト・カーボン・フットプリント、以下製品当たりPCF)と、サプライチェーン排出スコープ3のCO2削減対策の2つが製造業におけるカーボンニュートラル対応のポイントとなります。製品当たりCFP算出は、旭鉄工株式会社の事例でご紹介したとおり製造ライン、製造工程、生産数量などCO2排出量の実測データから算出することができます。しかし、完成品メーカーと部品メーカーではスコープ3の取り扱いが違っています。部品メーカーは、スコープ3のカテゴリー11:製品の使用に伴う排出は、設計仕様を完成品メーカーにしたがうことになります。自動車産業では、このカテゴリー11からの排出量がガソリン車では8割以上を占めているため、部品メーカーが削減対策の対象を絞り込む必要があります。部品メーカーとして有効なスコープ3のCO2排出削減対策は、例えばCO2排出量のより少ない仕入れ先から原料素材・部品などを購入するのも有効な手段です。また、製品(部品)製造の製造工程を見直して、原材素材のロスを減らして不良を減らし廃棄物ロスを減らすことを積み重ねることでCO2排出削減につながります。つまり、仮説検証しながらCO2排出目標を立てて、意識して取り組むことで着実に成果を出すことが可能です。ポイントは、何をすればCO2削減に効果があるのかを現場担当者が理解して行動することです。トップダウンで、経営企画や環境部門などが取り組むだけではなく、全社員自らが担当する範囲でできることをやって効果を出すことが重要なのです。
リサイクル技術開発でCO2排出量の約38%削減した三井屋工業株式会社の事例
三井屋工業株式会社は、トヨタ自動車株式会社の樹脂系部品メーカーです。自動車の内外装部品を製造しています。取り扱い製品は、タイヤホイール内に取り付けられる配線保護や防音を目的としたフェンダーライナーや、トランクの内装を生産しています。生産拠点は、愛知県豊田市に2か所(本社工場と篠原工場)、東北工場(山形県米沢市)、九州工場(福岡県宮若市)の4か所です。その製造工程は、熱可塑性樹脂を使った素材を加熱して軟化させて、製品形状の金型で上下から挟み込んで冷却、型から取り外して余計な部分をカットして製品を加工するというものです。
三井屋工業株式会社の2019年におけるCO2排出量は、スコープ1の直接排出量(主に燃料)とスコープ2の間接排出量(主に電力)の合計は約3,000トンと試算されました。これに対して、スコープ3のカテゴリー1にあたる資材(主に樹脂素材、ポリプロピレンなどによる不織布素材)からのCO2排出量は約9,000トンでした。また、製造過程で生じる樹脂端材などは、これまで廃棄物としてリサイクル業者へ出してRFP固形燃料としてリサイクルされています。自動車については、金属やアルミ、樹脂などの素材から生産される部品のCO2排出量が大きく、かつ削減が難しいと考えられています。こうした状況を踏まえて、三井屋工業株式会社ではカーボンニュートラル対応の取り組みを5つのテーマに絞りました。
1. リサイクル
2. 材料置換(脱石化由来原料の活用)
3. 部品軽量化による車両燃費向上
4. 工程短縮による電力消費削減
5. 省エネ(足元の土台活動)
この中で最も高い効果が期待できるとともに、課題の解決が独自の強みとして生かせる可能性があるという点に着目して、「リサイクル」にフォーカスして取り組みました。学術機関などの協力を得て、三井屋工業株式会社では樹脂のリサイクル処理技術MPS(Mitsuiya material Pelletize System)を開発し、第1段階としてフェンダーライナー製造過程などで生じる樹脂端材をMPS技術でトランクの内装部材として再生することに成功しました。これによって、原材料の樹脂ポリプロピレン生成で生じるCO2排出量をリサイクル効果で減らすことで約38%削減を実現しています(数値は三井屋工業株式会社算出より)。
MPS技術は、樹脂端材や廃プラスチックから原料素材をリサイクル資材として再生する技術です。第1段階として、フェンダーライナーなどの生産過程で出る樹脂端材を集めて、これを原料素材として混ぜたトランクの内装部材として利用することに成功しました。これによって、製品当たりのCO2排出量を約38%削減できると試算しています(三井屋工業株式会社の試算)。これからの第2段階では、ほか部品メーカーなどから樹脂端材を幅広く回収して、このリサイクル資材の品質をより高め軽量化と剛性を高めたトランクの内装部品の資材として長く利用できる品質レベルをめざしています。
三井屋工業株式会社のMPS技術によるカーボンニュートラルを深化する今後の展開
STEP1:技術開発→リサイクル材の品質向上(添加剤・混練技術)、産学連携、助成金など
STEP2:原料調達→自動車産業へ展開、国内企業全般に展開、自治体との連携など
STEP3:クレジット化→Jクレジット、トヨタ圏への展開、グローバル展開など
(現在、三井屋工業株式会社は、セレンディップ・ホールディングス株式会社の傘下にある。クレジット化は、セレンディップグループとしての活動)
おわりに
最後に、製造業でサプライチェーン排出削減の対象をスコープ3のカテゴリー1:購入した製品・サービス(原料素材・部品の調達)にフォーカスした場合のポイントについて、削減の考え方を整理したいと思います。自動車産業や機械産業など組み立て加工系製造業で、CO2排出量が大きくかつ削減が難しい原料素材と製造工程を考える必要があります。原料素材については、「鉄」・「アルミ」・「樹脂」などがこれに該当します。「鉄」は加工や成形に高熱など大きいエネルギーが必要となります。そのエネルギーは、スコープ1の燃料やスコープ2の電力であり、現時点では大量のCO2排出が生じると考えられるため、削減に成功すれば大きな効果が期待できます。また、生産工程でCO2排出量が多いのは「鋳造」・「鍛造」・「熱処理」・「塗装」・「エンジン製造」・「シャシー製造」などです。これらの製造工程は、大量の熱や電力を必要とする製造工程であるため、削減することでCO2削減効果が期待できます。闇雲にすべてに対して削減するのではなく、このように原料素材や製造工程を見極めたうえで削減活動を行うことで、独自の強みや技術開発によるビジネスチャンスを見いだすことが可能となります。今回ご紹介した三井屋工業株式会社の事例は、「樹脂」という原料素材と「熱処理」という製造工程からリサイクル技術開発を導き出したところに注目すべきだと思います。カーボンニュートラル対応を受け身で対応するのではなく、新しい技術開発やビジネスチャンスを広げる機会として取り組むことで、製造業のサービス化やDXにつながる取り組みへ発展する可能性が期待できます。
グローバルSCMの成功事例を紹介付き
【ホワイトペーパー】想定外の変化にも柔軟に対応できる
グローバルSCMを構築するには資料ダウンロード
コロナ禍、米中経済摩擦などの環境変化に対応できているでしょうか。環境が変化すれば、サプライチェーンの最適解も変化します。詳細な可視化ができていない企業も多く、サプライチェーンに変更を加えた場合の影響・効果の評価はさらに難易度が高くなります。
おすすめコンテンツ
製造業のカーボンニュートラル対応などをテーマとした内容について、その最新トレンドをご紹介します。
中堅自動車部品メーカー 旭鉄工株式会社のカーボンニュートラル対応の取り組みについてご紹介します。
不確実性の高まりに伴うサプライチェーンの強靭化の必要性についてご説明します。