スマートマニファクチャリングソリューション

サプライチェーンの脱炭素 CO2排出量可視化のその先へ カーボンニュートラルに向けて取り組むべき課題

脱炭素達成と企業の利益確保をいかに両立するか。この難題に対し日立ソリューションズは、デジタルツイン技術をもとに供給網上のCO2排出量を予測し、販売生産戦略の最適化を支援する手段を提供する。

執筆者情報

小沢 康弘(おざわ やすひろ)
  • 日立ソリューションズ産業イノベーション事業部エンジニアリングチェーン本部第3部部長
  • サプライチェーンDXエバンジェリスト

■略歴

⚫1998年 (現)株式会社日立ソリューションズに入社。
SAPR/3におけるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)コンサルタントとして、ERPシステム構築に従事。

⚫2014年 大手電子部品・電気機器メーカーの販売・出荷システム構築プロジェクトにPMとして従事。

⚫2018年 ダイキン工業化学事業部との協創による数理解析技術を用いたサプライチェーンシミュレーションシステムにおいてPoV(価値実証)の責任者として従事。

⚫2020年 ダイキン工業との協創成果を「グローバルSCMシミュレーションサービス」として販売開始。

⚫2022年 「グローバルSCMシミュレーションサービス」へのCO2排出量シミュレーション機能の追加を発表。

■主な社外での活動

⚫一般社団法人日本エシカル推進協議会会員

⚫日本サプライマネジメント協会会員日本工業出版月刊「クリーンエネルギー」2022年9月号寄稿(予定)

⚫日本電気協会新聞部月刊「省エネルギー」2022年10月号寄稿(予定)

■主な取材・講演実績

⚫Monoist製造マネジメントインタビュー
頼るべき“ルール”見えぬ脱炭素、国内製造業は立ち止まらずに進めるのか:
製造マネジメントインタビュー(1/3ページ)-MONOist(itmedia.co.jp)

⚫EnterpriseZinePressインタビュー
日立ソリューションズが挑むサプライチェーン危機克服とカーボンニュートラルの実現

⚫公益財団法人関西生産性本部社外講演(2022年11月予定)
「2030年に向けたサプライチェーンレジリエンス強化およびSDGs/ESGへの対応

はじめに

地球温暖化防止を念頭に置いた気候変動対策は、世界共通の喫緊の課題となっている。日本政府も2020年、当時の首相の菅義偉氏が2050年に向けてカーボンニュートラルの実現を宣言した。それ以来、CO2排出量の削減は多くの企業にとって急務となった。削減策の実施に先立ち、まず求められるのが現状におけるCO2排出量の可視化だ。市場には多くの可視化ソリューションがすでに存在する。産業界での関心も強く、こうしたソリューションをベースとした仕組みづくりに乗り出す企業も少なくない。ただし当然のことながら、CO2排出量を単に“見るだけ”では課題は解決しない。カーボンニュートラルを実現するためには、CO2削減のための具体的施策が必要だ。

なおかつ、その施策は利益も確保できるようバランスのとれたものでなければならない。「ESG(環境、社会、ガバナンス)施策の実現」と「利益確保」は場合によっては相反しかねないからだ。2つのミッションを両立させた取り組みを推進しなければ、今後の企業の持続的成長はあり得ない。カーボンニュートラルを実現するためには、目の前の課題を解決するだけでなく、長期的な対応を見据えた戦略を今のうちから描いておく必要がある。

そこで取りあげたいのが、日立ソリューションズの取り組みだ。CO2排出量の可視化だけでなく、その先でより具体性をもったカーボンニュートラルの目標策定や施策実行につなげるためのシミュレーションサービスを提供している。

数理解析技術で利益が最大となる販売/生産戦略を立案

日立ソリューションズが提供する「グローバルSCMシミュレーションサービス」には、CO2排出量予測に基づく販売/生産戦略の最適解を提案する機能がある。現在、GHG(温室効果ガス)プロトコルにおいてサプライチェーン上のCO2排出量を含めるとしたスコープ3への対応に悩む企業も多いが、こうした課題に対応する。

同社産業イノベーション事業部エンジニアリングチェーン本部第3部部長サプライチェーンDXエバンジェリストの小沢康弘氏は、「サイバー空間上にサプライチェーンを再現し、CO2排出量をシミュレーションします。これに基づき売上と利益のバランスを見ながら生販計画を立案し、さらには製品単位のカーボンフットプリントまで可視化し、CO2削減の実行を支援します」と説明する。

グローバルSCMシミュレーションサービス自体はもともと2020年にリリースされた。現実のサプライチェーンのデータに基づいたモデルをデジタルツインとして展開し、数理解析技術を用いてシミュレーションを行う。これによって、利益が最大となる販売/生産戦略の立案を支援するソリューションとして提供してきた。

最大のポイントは、What-Ifシナリオに基づき販売量や生産量、アロケーション(生産地)、購買量、さらには売上、利益、生産余力などのシミュレーションを行えることにある。複数のシナリオから得られた結果を比較することで、不確実性の高い未来に備えた複数の施策プランをあらかじめ立案することが可能だ。

「例えば原材料の高騰や為替相場の変動といった外部環境の変化をパラメーターとしてWhat-Ifシナリオに組み込んでシミュレーションを行うことで、さまざまな未来を予測できます。これにより、いざ問題に直面してから慌てるのではなく、あるケースが起こった際に売上や利益がどのように変化するのかをあらかじめ把握し、変化の発生に備えた販売計画や生産計画などを見直せます。こうした備えを事前に何パターンも用意しておくことで、企業は困難やリスクに対するレジリエンス(回復力、弾性力)を高めることが可能になるのです」(小沢氏)

このソリューションをベースとして、2022年4月に新たにCO2排出量シミュレーション機能を搭載したのが、現在のグローバルSCMシミュレーションサービスというわけだ。これによりサプライチェーンでつながる取引先からの調達品や輸送経路、自社や協力工場の製造工程などで発生するCO2排出量をマスタとして設定し、What-Ifシナリオに組み込んで全体としての排出量を算出することが可能となった。

新たに搭載されたCO2排出量シミュレーション機能の特徴

CO2排出量シミュレーション機能の特徴をさらに掘り下げてみよう。同機能では、過去のCO2排出量の実績値に基づき、単位あたりCO2排出量や工場での案分対象CO2排出量総量(工場電力量など)を求め、マスタとして設定することができる。

具体的には各サプライヤーから調達した原料や部品などの生産時のCO2排出量、調達における輸送時のCO2排出量にくわえて、炭素税や各工場における製造時のCO2排出量、企業・工場単位のCO2排出量上限などをパラメーターとして組み込める。これによって企業活動全般に伴い発生するCO2排出量をシミュレーションすることで、「『カネ』『モノ』『CO2』の未来を可視化することができます」(小沢氏)。

そのうえで特徴は大きく分けて2つある。1つは「販売生産計画や施策に対するCO2排出量のシミュレーション」が行えることだ。当年度の販売計画などの未来の計画に対して、排出されるCO2量をあらかじめシミュレーションできる。これにより「CO2排出量の削減に向けた取り組みの進捗の確認や、設備やサプライヤー変更によるCO2排出量削減の効果が評価可能です」(小沢氏)という。

もう1つは「工場排出量実績をもとにした製品あたりのCO2排出量の計算」ができることだ。サプライチェーンのシミュレーションモデルに定義したBOM(部品表)や設備情報に基づき、工場単位のCO2排出量を製品単位に分解して算出するのである。「ここから得られた結果を、販売先からの製品単位の排出量情報要請に対する回答や、消費者向けの情報として活用できます」(小沢氏)。2030年の将来を見通したシミュレーションを行うこともできるという。

さらにグローバルSCMシミュレーションサービスは、すでにCO2排出量取引をはじめとするカーボンプライシングへの対応も可能である点にも注目したい。CO2排出量取引は欧州を中心に世界的に導入が進められているもので、企業ごとにあらかじめ定められたCO2排出量の上限(キャップ)を超過した企業と、下回った企業との間で排出権(排出枠)を売買する仕組みである。グローバルSCMシミュレーションサービスを利用すれば、企業のCO2排出量上限を制約条件として設定することで、排出枠の範囲内で利益が最大となる販売/生産計画の立案が可能となるのだ。

「まだ法的な制約が薄い国内では、製品の利益率を向上させるため、よりコストの安いサプライヤーから原材料や部品を調達するという手段が取れます。しかし排出量上限が定められた際には、仮にコストが高くてもCO2排出量の低い原材料や部品を調達することで自社の排出枠に余力を生み出し、より多くの製品を生産、販売することで売上、利益を増やすことが可能になります。そうした場合の全体最適の計算を行うことができます」(小沢氏)

図1 温室効果ガス排出量シミュレーション機能
図1 CO2 排出量のシミュレーション機能(提供:日立ソリューションズ)
図2 グローバルSCMシミュレーションサービス概要
図2 グローバルSCMシミュレーションサービス概要(提供:日立ソリューションズ)

MotionBoardを活用してCO2排出量を可視化

また、ここまで紹介してきたさまざまなシミュレーション結果は、ウイングアーク1stが提供しているBIツール「MotionBoard」を活用して可視化することも可能である。たとえば販売量の変動に対して売上、利益、CO2排出量がどのくらい増えるかをダッシュボード上にグラフで表示し、直感的に把握しやすくできる。

前述のとおり、BOMベースでカーボンフットプリントをシミュレーションできる機能は大きな特徴の1つだ。ただ、1つの製品ができ上がるまでには、原材料からさまざまな中間部品を作り、それらを組みあげることで最終製品が完成するといった複雑な流れがある。

この一連の流れに対してグローバルSCMシミュレーションサービスは、デジタルツイン上でCO2排出量を各プロセスに対して割り当てることができる。さらにその方法もさまざまなパターンをとることが可能だ。

「割り当ての基準としては、調達量や生産量などの『重量』と、生産に費やした『時間』の2つがあります。グローバルSCMシミュレーションサービスはこのどちらにも対応できます」と小沢氏は語る。企業の多様な業務、生産形態に合わせて柔軟性なカーボンニュートラルの取り組みを支援するできる仕組みだと言えるだろう。

図3 MotionBoardのダッシュボード デモ画面
図3 MotionBoardを活用してCO2排出量を可視化(提供:日立ソリューションズ)
図4 MotionBoardデモ画面 CO2情報
図4 MotionBoardを活用してプロセス別のCO2排出量を可視化(提供:日立ソリューションズ)

ESGを“稼ぐ力”とする企業に転換を

地政学上の問題や感染症のパンデミックなどによって引き起こされる経済危機、原材料やエネルギーの不足/高騰、サプライチェーンの寸断、不安定な需要、生産年齢人口の減少に伴う慢性的な労働者不足と賃金上昇、そして気候変動問題など、企業を脅かす外部環境要因はますます不確実性を高め、複雑化している。

グローバルSCMシミュレーションサービスは、まさにそうした課題への対応を先取りしたソリューションであり、企業が社会的責任を果たすと同時に成長の持続性を得ることを支援する。この点こそが、現状でのCO2排出量の算定と可視化といったベーシックな機能で立ち止まっている一般的なサービスと一線を画した、日立ソリューションズ独自の強みとなっているのである。こうしたグローバルSCMシミュレーションサービス導入のメリットに着目し、現在CO2排出量シミュレーション機能の実証試験を進めている企業もすでにあるという。

さらに日立ソリューションズでは現在、欧州を中心としたグローバルなカーボンニュートラル関連の情報を収集し、顧客サポートに役立てるチームを準備している。「お客さまと同等もしくはそれ以上の課題認識と知識獲得に努め、最新動向に基づいたサポートを提供していきます」(小沢氏)。

単に情報開示や報告といった企業の責務を果たすことだけにとどまらず、ESGを強みとして“稼ぐ力”を導き出していく。日立ソリューションズはSX(サステナビリティトランスフォーメーション)時代に向けて企業にめざすべき姿を提示し、その実現に貢献していく考えを持っている。

おすすめコンテンツ

製造業におけるカーボンニュートラル対応への取り組み ~CN成功の秘けつは経営層と実務層の連携によるGXグリーントランスフォーメーション~

製造業のカーボンニュートラル対応などをテーマとした内容について、その最新トレンドをご紹介します。

製造業におけるカーボンニュートラル対応への取り組み ~「CO2排出量の見える化・見せる化」に取り組む自動車部品メーカーの事例 ~

中堅自動車部品メーカー 旭鉄工株式会社のカーボンニュートラル対応の取り組みについてご紹介します。

アフターコロナでのサプライチェーンの新たな打ち手

不確実性の高まりに伴うサプライチェーンの強靭化の必要性についてご説明します。

スマートマニュファクチャリングソリューション コンテンツ一覧

関連商品・キーワード