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アフターコロナでのサプライチェーンの新たな打ち手

アフターコロナでのサプライチェーンの新たな打ち手

執筆者情報

西津 高継
  • 株式会社日立ソリューションズ
  • 営業統括本部 営業企画本部
某電子部品製造業においてグローバルの需給調整業務に従事。
2007年に現日立ソリューションズに入社。
近年はグローバルSCM分野などのマーケティング活動や製造業向けのソリューションの新規立ち上げ活動に従事。
取得資格:中小企業診断士など

不確実性の高まりに伴うサプライチェーンの強靭化の必要性

 昨今、サプライチェーンがおかれている外部環境は激変しており、さまざまな想定外の対応に追われている。
新型コロナウイルスによる急激な変化で需要予測が難しく、需給バランスが大きく崩れ、急激な増減産や過剰在庫への対応のため、生産計画、販売計画や在庫計画(PSI)の見直しなどに負荷を感じることも多いだろう。部品調達が滞り、サプライチェーンの分断などの影響が長期化することで、供給計画などの見直しなどの日々の対策に、苦労や悩みを抱えられている方も多いのではないだろうか。サプライチェーン強靭化の取り組みは、コロナ以前から叫ばれていたことであるが、競合企業との激しい競争から効率性を重視せざるを得ない事情があり、万全の対策がとれている会社は少ないのではないだろうか。

 また、貿易摩擦の激化などの国際情勢も不確実で安全保障貿易のリスクや急な関税の引き上げなど、先の見通しづらい状況となっている。ただ昨年末にRCEP(地域的な包括的経済連携協定)に日本、中国、韓国を含む15か国が署名し、世界のGDP、貿易総額および人口の約3割、我が国の貿易総額の約5割を占める大型のFTA(自由貿易協定)が発足した。更なるグローバル化の流れを捉えることは、企業の競争力を維持するうえで必須であろう。

 そして、このような状況下において、デジタル技術の活用レベルが企業の競争力に大きな影響を与えることを再認識し、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを加速している会社、また本質的な取り組みに踏み込めずかけ声となっている会社との間で、今後さらなる二極化が加速していくものと考える。

 本コラムでは、さらなるデジタルトランスフォーメーションを実現し企業競争力の強化に向けて、特にサプライチェーンに関し、企業が抱える課題と解決に向けた取り組みついて触れたいと考える。

 図1. 世界の不確実性の高まり
図1. 世界の不確実性の高まり

激変する環境下、企業として必要な取り組み

 従来から日本企業は、取引先と強固な関係を構築し入念な摺り合わせを行い、VE活動、製造方法の変更やQC活動などの改善を行い、長期にわたって生産活動を行ってきた。結果、顧客ニーズに迅速・柔軟に対応することで強みを築いてきた。ただ、新興国企業との競争激化や新興国での生産のコスト増など、製造業の置かれる環境は日々厳しさを増している。また、FTAの締結国の広がりに伴い、新たなサプライチェーン構築にいかに対応できるかが今後の競争力を高める重要な要因となるだろう。このような激変する環境に対応するためには、今まで強みとしてきた日々の現場改善だけでは立ち行かないのも事実であろう。

 これまで、日本企業は顧客ニーズを捉えた高品質な製品を低コストで生産することをめざし、サプライチェーンを戦略的に構築してきた。ただグローバル化が進み、また製品点数が増えるにつれて、サプライヤー、製造拠点、倉庫・物流拠点や輸配送ルートなどがさらに複雑になり、変化に迅速に対応するために最適な意思決定に困るケースも多いだろう。特に、上位の戦略に基づいて計画を立て実行する段階において、変化への対応の打ち手は限られるため、計画や戦略がより重要であることは周知の事実であろう。また、目前の業務効率を上げる施策と将来に大きな利益を生む施策、比較したときに、将来の視点は大切だと理解しつつも、現場の理解を得やすい業務効率化を選ぶことが多いのではないだろうか。目前の業務の効率化の課題を認識し、改善に取り組むのは当然重要である。しかし、本当にそれが会社に利益貢献が大きいものなのか、冷静に判断する視点が必要だ。

 また、サプライチェーンは調達・生産・物流・販売などの複数の組織が密接に関係し、その実現を困難にする要因となっている。その中で、各部門がボトムアップでバラバラのKPIを設定し改善活動を進めると個別最適が進み、全社目標との整合が薄れてしまうことにつながる。この状況に陥ると戦略に基づく全体最適の意思決定が取れなくなり、変化への対応がますます遅れてしまうことにつながる。部門間の壁や上下関係の壁を意識し、忖度するあまり、大きな改善が見込める施策を後回しにしていることはないだろうか。問題をオープンにせず、現場のすり合わせにより、解決に取り組むことが美徳とされている文化の会社も多い中で、上記を実行するのが難しいのは理解ができる。

 ただ、グローバル社会でよりスピード経営が求められる中で、本来取り組むべき施策の実行が遅れる可能性はないだろうか。これを解決するのは、中長期的な視点と全体最適の視点をもち、データに基づく定量的な意思決定することが重要だと考える。その実現には、サプライチェーンのデジタル化を進め、定量的な判断材料をもとに経営判断を行う取り組みの必要など、新たな戦いに向けた備えが急務であると考える。

図2.環境変化に迅速な対応を阻害する要因や課題
図2.環境変化に迅速な対応を阻害する要因や課題

強靭なサプライチェーンを実現するうえで必要なことは

 今まで見てきた通り、世の中の環境変化が加速し不確実性も増している中、複雑なサプライチェーンの最適解も変化している。この難問を解決するためには、市場や顧客の変化にいち早く気づき、関係者と合意し、サプライチェーンの強靭化に向けた取り組みを進める以外に近道は無いように考える。また、ハイテク分野での競争が激化し貿易摩擦が起き、安全保障貿易の側面が懸念されている。また、RCEPなどの新たな経済連携協定貿易協定などにおける関税率の変更も日本の製造業に今後深刻な影響を与えるものと考える。この課題も十分に対応ができている会社は少なく、特にFTAに関しては制度を有効活用することで、戦略的に利益確保を図る視点も大事であろう。

 今企業に求められるのは、サプライチェーンの全体を捉え利益を最大化する製造・販売施策のシナリオを、客観的な数値に基づき迅速に決定をするなどのSCMの強靭化である。そして、FTAを企業戦略として組織的に活用し、コスト競争力を強化するなどの取り組みなどにおいて改善余地が大きく、また重要性も高まっているように考える。また、FTA活用を推進するために必要なコンプライアンスの順守などの、下流部分の強化も無視できない。

 当社では、サプライチェーンの上流から下流までのソリューションを提供し、全体最適な観点から真に必要な施策のご提案が可能である。例えば、人間が、特恵関税を考慮した最適な配置や経路設計などの複雑なサプライチェーンの課題の最適解を出すシーンをイメージして欲しい。このようなケースで、人がすべての組み合わせパターンを検するのは難しく、限定したシナリオでの評価しか行えないのが現実であろう。その解決策として、当社では考えうる限り膨大な組み合わせのパターンを、デジタル技術を活用してシミュレーションを行い、生産能力を満たしつつ事業目標である利益が最大となる施策のご提案が可能である。

 さて、次の章ではより具体的な例をあげて詳細を解説していきたい。

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コロナ禍、米中経済摩擦などの環境変化に対応できているでしょうか。環境が変化すれば、サプライチェーンの最適解も変化します。詳細な可視化ができていない企業も多く、サプライチェーンに変更を加えた場合の影響・効果の評価はさらに難易度が高くなります。

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