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アフターコロナでのサプライチェーンの新たな打ち手

スピード経営の実現に向けた予算策定と計画業務の連携の改善

 一般に製造業では、中長期の予算策定→年度予算策定→販売・需給計画→生産・調達計画→投入計画といった段階を経るが、計画段階では、納期優先の生産・販売計画が立てられることが多く、モノを動かすSCMと予算づくりのプロセスが連携しておらず、客観的な数値に基づく定量的な意思決定・経営判断が難しい。そのような中では、製販会議などにおいて社内で声が大きい人や影響力がある人の発言が意思決定に大きく影響したり、議論が紛糾したりするなどの結果、部分最適な意思決定になることが往々にしてある。

全体最適の意思決定を行うためには、利益と納期を一気通貫でコントロールすることが必要であるが、これを実現できている企業は少ないのではないだろうか。サプライチェーン全体の実態は複雑なため、熟練者が限られた時間の中、限られた選択肢のパターンで、経験と勘でシミュレーションを行っている会社も多い。またサプライチェーンのデジタル化の取り組みの必要性を認識しつつも、一部の取り組みになっているのが実情であろう。

図3.予算策定と計画業務における連携の課題
図3.予算策定と計画業務における連携の課題

 これまで見てきた通り、予算策定と計画業務の間における溝を解消し、シームレスにつなげることができれば、より経営判断に有効で定量的な判断材料を提供することができて、環境変化に強い迅速な意思決定ができると考える。これを実現するのが、当社のグローバルSCMシミュレーションサービスである。生産拠点や販売拠点、輸送・物流ルートなどのサプライチェーン全体をモデル化し、需要・供給能力・コスト・関税などに関するさまざまなデータをもとにシミュレーションを行う。考えられるパターンを網羅的にシミュレーションを実行し、納期を満たしながら同時に利益を最大化する生産・販売のパターンを提示することが可能である。

 図4.複雑なサプライチェーンにおける最適解の提示
図4.複雑なサプライチェーンにおける最適解の提示

ここで需給計画プロセスの改善事例を解説する。

年間の予算策定プロセスだが、まず企画部門が方針設定し、営業部門がそれを元に販売計画を立案、そして製造部門で生産計画を立てる運用をしていた。ここの計画策定プロセスに多大な時間と工数がかかっていた。例えば、1月から3月の間に年度計画を立てるのに、いざ、生産可否の結果がわかるのは2月後半、といった状況であった。これでは、部門間で調整を行ったり施策を検討して再計画したりする時間は十分に取れない。また、生産計画の立案は人手での作業のため、複数パターンで計画を立てることは難しく、どうしても数量や納期の観点から、声が大きいものや早いもの勝ちになってしまう課題も抱えていた。当社ソリューションを活用した場合には、営業サイドの販売見通しが判明した時点で施策検討が可能なレポートを即座に出力できる。納期優先のこれまでの1パターンのシミュレーションから、「利益優先」で、かつ多くの施策パターンを試せるようになり、シミュレーションの質・量ともに向上し、全体最適の意思決定を実現できる。また、この施策を実行すれば改善するだろうという定性的な考えに、数値根拠を示すことが可能だ。複数部門が関わる意思決定において、客観的なデータを見ながら議論進めることで、意思決定プロセスが明確となり、早期に有効な打ち手の合意に至ることができます。環境変化に迅速に対応することに成功した事例といえよう。

FTAを戦略的に活用し競争力強化

 従来からビジネスにおけるFTA活用の重要性は語られてきていたが、RCEPに代表される各種FTAの拡大は関税低減のメリットと海外企業との競争が激化することの両面がある。海外企業の多くは、FTA活用などの関税メリットを享受できるのを当たり前のように考えており、競争力強化の観点から組織的な取り組みが行われている。活用メリットがある場合には、商流や物流も柔軟に変えてくるなど実行が格段に速い。ただ当社の調査結果によると、日本企業においては、まだまだ経営者の関心・意識は決して高くなく、企業として戦略的にFTAに活用できているとは言えない状況にあり、早急な対応により競争力強化が求められる。

図5.日本におけるFTAの利用実態・意向 調査
図5.日本におけるFTAの利用実態・意向 調査

 また、実際の現場において、担当者は自分しかいない、会社として、ルールがあるわけではなく、担当者のルールで証明していて、証明が間違っていたら個人の責任なのか・・・、同じ国、同じ製品であるのに証明の内容がバラバラ・・・であったりするなど、多くの悩みを抱えている。FTAの大きな効果を期待されながら、活用を躊躇するのはさまざまな事情がある。しかし前向きに活用しない限り、激化するグローバル競争で後れを取ってしまう気がしてならない。企業として、「FTA活用することの関税の削減メリット」と「検認のリスクの課題」を正しく認識し、「役割と責任」を明確にした体制を確立する必要があると考える。

 また、企業として正しいFTA適用業務のプロセス・ルールを構築する必要もある。そのうえで、制定したプロセスに沿って業務が効率よく遂行される仕組みが必要となる。これらのFTA活用を支援するために「原産地証明書管理サービス」を提供している。業務効率向上とコンプライアンスの両立をめざしたサービスとなっている。もし上記の課題でお悩みの場合には、是非ご相談をいただきたい。

図6.日立ソリューションズによるFTA活用支援
図6.日立ソリューションズによるFTA活用支援

まとめ

 日本の製造業は、コロナによる劇的な環境変化に対応をしようと日々さまざまな課題に向き合っていることと思う。本コラムであげた課題は、まったく新しいものではなく従来から存在していた課題が、環境変化とともに顕在化し、重要度が増してきたと考える。日本企業は古くから和を重んじることを美徳とする文化がある中で、環境変化に迅速に適応することが苦手だと思う。ただ正しく事象を認知できて共通認識が形成された場合、協調性がはたらき同じ方向に進むことに長けていると考える。今後の世界のグローバル化はますます進展し、海外企業との競争がさらに激化していくなか、デジタル技術を活用する必要性は増々高まっていくと考える。そのような環境下においても、デジタルによる見える化と定量評価による合意形成が協調性の手助けになると考える。

 昨今の情勢も踏まえて、サプライチェーンにおけるSCMと予算づくりのプロセスが連携と意思決定の課題やFTA活用における課題を中心に解説をしてきた。また書面の都合上、今回触れることができなかった課題についても別コラムで解説を行っていきたいと考えている。本コラムを通して、サプライチェーンの強靭化という難題に対して取り組まれている皆様に、少しでもお役に立つことができればと願う。

 ※本書は、貿易を中心とする内容であるため、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)、TPP(環太平洋経済連携協定)などのEPA(経済連携協定)も、FTAとして表現・構成。

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