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なぜASPICEは現場へ定着しないのか?ASPICEのプロセスを現場に定着させる方法を紹介
2025年3月19日
車載ソフトウェア開発において、Automotive SPICE®(以下、ASPICE)に適合した新たな開発プロセスの導入は、安全性と品質の確保、開発プロセスの標準化の観点から非常に重要です。しかし、現場でのプロセス浸透が難しいという課題に直面している企業も少なくありません。
本記事ではASPICEに適合した新たな開発プロセスが従業員に浸透しない原因と、その解決策としてALM(Application Lifecycle Management)ツールの有用性について考察します。
1. ASPICEの必要性
ASPICE(Automotive Software Process Improvement and Capability dEtermination)とは、ISO/IEC 15504(SPICE)をベースにした、自動車業界向けのプロセス評価モデルです。ソフトウェア開発プロセスの成熟度レベルを評価するためのフレームワークであり、開発プロジェクトの標準化と安全性、品質の確保を目的としています。
近年、車載ソフトウェアの複雑化や規模の拡大にともない、自動車メーカーには品質、安全性、サイバーセキュリティ対策が十分に考慮されていることを外部に説明する責任を負うようになってきました。この責任を果たすためにASPICEが重要な役割を担っており、現在では多くの自動車メーカーがサプライヤーを選定する際、ASPICEの一定レベルを達成していることを条件とするケースが増えています。
ASPICEの重要性が認識される一方で、その導入には多くの課題がともないます。特に、ASPICEを企業全体に効果的に浸透させることは、単なる規格の適合だけでなく、組織文化や業務プロセスの変革を必要とするため、一筋縄ではいかないことが少なくありません。サプライヤーとの連携や、プロジェクトの規模に応じた柔軟な対応が求められるほか、社内の技術者や管理層の間でASPICEに対する理解を深め、共通認識を持つことが重要になります。
こうした背景から、ASPICEの新たなプロセスを効果的に社内に根付かせるためには、特定の課題に対処する必要があります。次章でそれらの課題を深掘りしてみましょう。
2. ASPICEのプロセスを浸透させることを難しくする4つの課題
社内にASPICEのプロセスを浸透させるうえで以下4つの課題が挙げられます。
1. 複雑なプロセスの理解不足
ASPICEに適合した新たな開発プロセスは詳細で複雑なため、従業員がすべてを理解し、実践するのは容易ではありません。新入社員や経験の浅い従業員だけではなく、既存のプロセスに慣れた従業員にとっても、ASPICEに適合した新たなプロセスを理解するためには膨大なドキュメントの読解が必要となり、それが大きな負担となります。
たとえば、システム要件分析プロセスが導入された場合、各要件のトレーサビリティを確保するために、どのように要件を文書化・追跡・更新するかを理解する必要があります。とはいえ、情報が多岐にわたるため、一部のプロセスを誤って解釈したり、適切に実施できなかったりするケースが想定されます。
2. 教育とトレーニングの不足
ASPICEに適合した新たな開発プロセスを理解し、実行するためには適切な教育とトレーニングが必要です。しかし、これらが十分に行われていない場合、従業員はそのプロセスの重要性や具体的な実行方法を理解できません。
ASPICEにおける新たな開発プロセスの理解が不足している場合、その影響はプロジェクト全体におよびます。特に、個々のプロセスがどのように結びついているのか、それぞれがプロジェクトの成功にどのように貢献するのかを理解していないと、安全性や品質の確保、開発コストといった面でも問題が生じます。
3. 現場の抵抗感
日常の業務に忙殺されている現場のエンジニアや、長年の経験に基づいた独自の開発手法に慣れているベテランエンジニアは、しばしば新しいプロセスの導入に対して抵抗感を示すことがあります。
エンジニアにとって、新しいプロセスはこれまで培ってきた知識や経験が無視されるかのように感じられることがあり、現行の方法に信頼を置いている場合には特に、その変更に対する心理的な壁が高くなりがちです。
日常業務での忙しさからも、新しい手法を学習し、それを習得するための時間やリソースを割くことが難しく、結果として現状維持を選ぶ傾向が強まるのです。また、変革が失敗した場合の責任を負うリスクを避けたいという心理も働き、積極的に新しいプロセスを受け入れる姿勢が希薄になることも少なくありません。
4. プロセスの一貫性の欠如
プロジェクトごとに既存のプロセスの実行方法が異なる場合、従業員は混乱しやすくなります。一貫性のないプロセスは、品質のばらつきやミスを引き起こす原因となります。
たとえば、あるプロジェクトでは詳細なテスト計画の策定が求められる一方で、別のプロジェクトでは簡略化された手法が採用されていると、テストの質がプロジェクト間でばらつき、製品品質にムラが生じるリスクが高まります。このような状況では、ASPICEの導入効果を十分に発揮することが難しくなります。
これらの課題を効果的に解決するためには、全社的な取り組みが不可欠となります。しかし、意識改革やルールの再確認だけでは根本的な解決には至りません。特に、多忙な開発現場においては、効率を維持しながらも新しいプロセスを定着させるための具体的なサポートが必要です。
そこで鍵となるのが、ツールの活用です。ツールを導入することで、開発者が意識しなくても自動的にプロセスが組み込まれる環境を整えることが可能になります。次章では、ALMツールを用いた解決策について詳しく見ていきます。
3. 解決策としてのALMツールの活用
ALM(Application Lifecycle Management)ツールは、ソフトウェア開発のライフサイクル全体を管理するツールです。これを適切に活用することで、ASPICEに適合したプロセスを自然に従業員に浸透させることが可能になります。ALMツールが提供する機能には、以下のようなものがあります。
1. ワークフローの設定
ALMツールには、プロジェクトの進行を管理するためのワークフロー機能があり、作業の順序性を保ちながら適切な承認フローを設定することが可能です。これにより、従業員は自分のタスクを実行する際に、ASPICEに適合した新たなプロセスに沿った手順を自然に踏むことができます。たとえば、以下の設定が可能です。
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タスクの自動割り当て
プロジェクトの各フェーズで必要なタスクを自動で割り当てます。従業員は次に何をすべきかを明確に把握できます。
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承認フローの設定
ALMツールは各タスクの完了後に必要な承認ステップが設定されているため、品質管理やリスク管理を徹底できます。
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進捗状況の可視化
プロジェクトの進捗状況がリアルタイムで可視化されるため、管理者はプロセスの遵守状況を容易に確認できるようになります。

2. ステータスの管理
ALMツールを活用すると、タスクの割り当てや承認フローなどを自動化し、開発プロセスの標準化が進みます。
たとえば、問題解決管理では、以下のステータス管理や作業フローを実施する必要があります。

これらの作業フローやステータスの管理はALMツールが実施するため、開発メンバーはそのフローに従い抜け漏れなく作業を進められ、一貫した品質の成果物を作成できるようになります。
これにより、従業員はASPICEを意識せずとも、自然にASPICEに適合した新たな開発プロセスに沿った作業を実施可能です。
4. まとめ
ASPICEに適合した開発プロセスの浸透は、安全性と品質の確保、開発プロセスの標準化のために不可欠です。しかし、その浸透が難しい原因として、新しいプロセスの理解不足や教育とトレーニングの不足、現場の抵抗やプロセスの一貫性などが挙げられます。
これらの課題を解決するためには、ALMツールの活用が非常に有用です。ALMツールに設定されたワークフローや承認フローに沿って従業員がタスクを実行することで、ASPICEに適合したプロセスを意識せずとも、新たなプロセスに沿ったプロジェクト運営を行えるようになります。
これにより、プロジェクトの進捗状況や品質管理が効率的に行われ、最終的に高品質な車載ソフトウェア開発を実現できます。ALMツールを活用して、ASPICEに適合したプロセスの浸透を図り、より効率的で高品質な開発をめざしましょう。
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