• 自動運転

  • コネクテッド

  • 組み込み開発

自動運転、「レベル3量産時代」に突入 企業はどう立ち向かうべきか

2022年5月31日

この記事では、レベル3の開発動向をはじめ、今後本格化する自動運転車の量産時代に向けどのような開発姿勢が求められるかを解説していく。

自動運転専門メディア「自動運転ラボ」寄稿

※本記事は「自動運転ラボ」の見解に基づき執筆されています。

自動運転レベル3の開発動向

「レベル3」は条件付きで自動運転が可能に

まず、自動運転のレベル分けからおさらいしていく。世界で最も準拠されている米自動車技術会(SAE)が策定した基準では、自動運転レベルは6段階に区分けされている。

レベル0はADAS(先進運転支援システム)未搭載車、レベル1はアダプティブクルーズコントロールなどの縦方向制御、またはレーンキープアシストなどの横方向制御のうちどちらか1つ、レベル2は縦・横制御の両方を支援するADASが相当する。

現在の市販車両の多くはレベル1から2に属す。ハンズオフ運転を可能にするADASは高度なレベル2で、トヨタのレクサスなどに搭載されている機能がこのレベルに相当する。レベル2+と表記されることもある。ここまではすべての運転タスクについてドライバーが責任を負わなければならない。

自動運転レベル1 運転支援
自動運転レベル2 特定条件下での自動運転機能
自動運転レベル3 条件付き自動運転
自動運転レベル4 特定条件下における完全自動運転
自動運転レベル5 完全自動運転

出典:国土交通省

一方、レベル3は特定の条件下においてシステムがすべての運転タスクを担う自律した走行を実現する。ここからが自動運転の領域だ。

例えば、時速60キロ以内といった速度帯域や、高速道路限定、仮想的に線引きしたエリア(ジオフェンス)内といった道路や地理条件、天候、インフラ協調の有無などを条件にODD(運行設計領域)を設定し、そのODDにおける条件を満たす状況において自動運転を実現する。

ただし、ODD内においてもシステムが限界に達する可能性があり、その際、ドライバーは速やかに自動運転から手動運転に移行しなければならない。システムから手動運転への要請(ターンオーバーリクエスト)が出された際、ドライバーは直ちに運転動作に戻ることができる状態でなければならない。

レベル4も同様に一定条件下で自動運転を実現するシステムだが、レベル3と異なり、ODD内において何らかの問題が生じても、手動運転・操作に頼ることなく安全に走行を続けるか、あるいは安全に停車するシステムが備わっている。

レベル5は原則、ODDに縛られず、どのような状況下においても自動運転を実現する最高峰のレベルとなる。

先行するホンダをダイムラーやBMWが追う

自家用車におけるレベル3搭載車は、2021年3月にリース販売を開始したホンダの新型レジェンドが口火を切った。最新のシステム「Honda SENSING Elite」とともに、高速道路渋滞時に自動運転を実現する「トラフィックジャムパイロット」を搭載した。

海外では、独ダイムラー(メルセデス・ベンツ)が2022年前半にもフラッグシップモデルのSクラスにレベル3システム「DRIVE PILOT」のオプション設定を開始する予定だ。

当初予定より若干ずれこんだが、ドイツ運輸局から型式指定を既に受けており、これまで未搭載だったLiDARを追加し、レベル3を可能にする。

独BMWは、海外メディアのインタビューの中で、2022年後半に北米で発売予定の7シリーズセダンからレベル3の実装を開始し、その後5シリーズセダンやX5、X7などに順次広げていくという。自国ドイツではなく北米を実装エリアに選んだのは、レベル3の規制がないためとしている。

韓国ヒュンダイは、2021年11月開催の自社カンファレンスの中で、自動運転技術の開発担当責任者が2022年発売予定の新型「Genesis G90」にレベル3を搭載すると語ったようだ。

このほか、中国の長安汽車や第一汽車(FAW)、吉利汽車(Geely)などが過去にレベル3搭載車の量産化に言及している。小鵬汽車(Xpeng)や上海蔚来汽車(NIO)もレベル3技術をほのめかしており、レベル3に関わる同国の規制緩和を待っている可能性がある。

いずれにしろ、2022年中には複数のメーカーからレベル3量産車が発売されることはほぼ間違いない。2022年は、本格的なレベル3時代の幕開けとなりそうだ。

自動車業界100人に聞いた!自動運転の開発・設計に関する実態調査

自動車業界の技術・研究開発部門の有職者向けに「自動運転の開発・設計に関する実態調査」を実施しました。現場のリアルな声を纏めた調査レポートを無料でダウンロードいただけます。

レベル3量産時代、企業はどう立ち向かうべきか

自動車メーカーはどう動くべきか?

レベル3量産時代を迎え、各自動車メーカーはどのような戦略を採っているのか。ホンダやメルセデス・ベンツのように前向きにレベル3開発を進めているメーカーもあれば、急がず慎重に開発を進めているメーカーや、レベル3は開発せずレベル4に注力しているメーカーもある。

慎重派の多くはほぼ実用域のレベル3技術を有しているものの、さらなる技術の向上や社会受容性の向上、法環境のさらなる整備などを理由に、「見」の立場をとっているように感じる。

ただ、ホンダに加えダイムラーなどがレベル3を実用化し、世界各地で社会実装が始まれば社会受容性は大きく向上し、安全状況を見極めて速度制限などの規制も徐々に緩和される可能性が高い。その際に出遅れることがないよう、状況を見極めながら水面下でしっかりと開発を続けていくものと思われる。

また、スウェーデンのボルボ・カーズやフォードのように、レベル3を開発せずレベル4に注力しているメーカーも存在する。手動運転と自動運転が混在する危険性を考慮し、レベル3を飛び越えレベル4の開発を進めているのだ。

サービス用途のレベル4車両の開発を進めた方がビジネス的に優位性を発揮しやすい面もあるため、各社の戦略が分かれるところだ。

システム開発企業はどう動くべきか?

では、自動車産業を取り巻くシステム開発企業などはどう動くべきか。レベル3車両には、核となる自動運転システム以外にも必要とされる技術は山ほどある。

例えば、ドライバーの状態を的確に監視・把握し、注意喚起や車両制御を行うドライバーモニタリングシステム(DMS)や、コネクテッド化された自動車を外部からの不正侵入から守るサイバーセキュリティはレベル3に必須の技術だ。

これらの技術はレベル4以降にも通じるほか、高度化が進むADASにおいても今後重要視される技術となる。すべての車両がコネクテッド化され、ハンズオフ運転を可能にする乗用車が増加していくためだ。

近年注目度が高まっているドライブレコーダーも、大きなポテンシャルを有する。車両周囲の状況を監視・記録する従来の役目はもちろん、車内カメラによるDMS機能や簡易ADAS機能なども実現域に達している。

今後は、カメラの画像データの有効活用にも注目が集まるところだ。リアルタイムのプローブ情報として道路交通情報を構築可能なほか、高精度3次元地図の作製・更新への活用にも期待が寄せられている。ドライブレコーダーをセンサーとして捉えることで、その可能性が大きく広がっていくのだ。

また、車内の移動時間の過ごし方にも注目すべきだ。現在、通信技術の高度化とともに車載インフォテインメントシステムの高度化が進んでおり、スマートフォン連携などの機能はもはやスタンダードなものとなっている。

レベル2までの車両においては、あくまで運転操作の邪魔にならないものや他の乗員向けのコンテンツが主流となるが、レベル3はドライバーも運転操作から解放されるため、より多彩な機能を活用できる環境が生まれるのだ。

こうしたサービスは、自動運転技術の高度化に伴って拡大していくことは間違いない。将来を見越し、さまざまなサービスを提供可能なコックピットシステムや車載インフォテインメントシステム、車中エンタテインメント向けのプラットフォームなどの開発も求められるところだろう。

異業種企業はどう動くべきか?

レベル3、レベル4、レベル5と自動運転技術が高度化していくのに伴い、ドライバーや乗員の車内における行動や車内空間は自由度を増していく。運転からの解放は、車内の移動時間に自由をもたらすのだ。

言い換えれば、こうした移動時間は「可処分時間」となり、その有効活用が求められていくことになる。どういった機能・サービスが需要を喚起することができるのか、またそこから逆算し、レベル3で実現できることは何か――といった観点でビジネスチャンスを探っていく視点を持つことが肝要となりそうだ。

レベル3は自動運転の入門編、未来を見据えた開発を

レベル3は自動運転の「入門編」と言える。ここから速度域や走行エリアなどのODDを広げ、精度をいっそう高めていくことで自動運転技術はさらなるレベルアップを図っていくのだ。

つまり、レベル3はレベル4やレベル5といった将来技術に直結するものであり、付随する車載インフォテインメントシステムなども同様にレベル4以降を意識したものへと進化を遂げていく。

現在目の前にあるものに留まらず、また既存の自動車の概念に縛られることなく、将来実現する未来から逆算したシステム開発がよりいっそう重要性を増していくことになる。シミュレーション技術やモデルベース開発など有効な開発手法を積極的に導入し、未来を見据えた研究開発が求められることになりそうだ。

自動運転専門メディア「自動運転ラボ」

日本唯一の自動運転専門メディアとして、市場を牽引する大手メーカーからIT・技術分野で革新の一翼を担うスタートアップまで、モビリティ業界の最前線を発信しています。

自動車業界100人に聞いた!自動運転の開発・設計に関する実態調査

自動車業界の技術・研究開発部門の有職者向けに「自動運転の開発・設計に関する実態調査」を実施しました。現場のリアルな声を纏めた調査レポートを無料でダウンロードいただけます。

スマートモビリティソリューション コンテンツ一覧

関連商品・キーワード