第11回 働き方改革とは?目的や実現に向けての取り組み方法やメリット・問題点も解説

日常のさまざまなシーンで耳にするようになった「働き方改革」とは、一体何なのか。その具体的な内容や目的、また働き方改革を進めるうえで、クリアしなければならない課題などについて解説します。

働き方改革とは?

長時間労働やサービス残業など、いわゆる日本型の労働慣行については、かねてから問題視する声がありました。そこで、2019年4月から順次施行されているのが「働き方改革関連法」です。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」で、労働基準法など8つの労働関連法を改正するための法律です。その目的は、働く人たちそれぞれの置かれた事情に応じて、柔軟に多様な働き方を選択できる社会を実現すること、そして、よりよい将来の展望を持てるようにすることです。
そもそも、この働き方改革は政府が進めている「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みのひとつです。背景には少子高齢化による「生産年齢人口の減少」、国際的に見た「労働生産性の低さ」、さらに「長時間労働や過労死の問題」があります。
「生産年齢人口の減少」によって招かれる事態としては、国内需要の減少による経済規模の縮小、国全体としての国際競争力の低下、財政の危機、医療費増大による社会保障制度の崩壊危機などが考えらえます。
次に「労働生産性の低さ」についてですが、労働生産性とは、労働者人数当たり(または、労働時間当たり)どのくらいの成果を生むことができるかを表したものです。国の経済成長に関わる重要な指標ですが、主要先進国と比べて日本の「労働生産性の低さ」は顕著です。これは、今後日本の経済成長が悪くなることを示しており、生産年齢人口の減少と同様、社会課題の要因となるものです。
また、「長時間労働や過労死の問題」に関して言えば、高度成長期以降、日本では企業のためにプライベートを犠牲にしてでも業績を伸ばそうとする姿勢を美徳とする価値観が根付いてしまいました。その結果、長時間労働が常態化し、過労死する人が増加してしまったのです。
こういった日本社会が抱える課題を解決するために行われているのが、昨今の働き方改革なのです。

働き方改革による企業へのメリット

上記のとおり、働き方改革はさまざまな社会課題を解決するために始まったことなのですが、企業にとってもメリットがあります。
1つ目は、生産性の向上です。休暇を増やしたり残業を減らしたりすることで、労働時間を短縮。これまでよりも短い時間の中で仕事をすることになるので業務効率が上がり、生産性も向上します。
2つ目は、モチベーションの向上です。プライベートを充実させる時間が増えることで暮らしがより豊かになったり、気持ちがリフレッシュされたりすることで業務に取り組む姿勢が改善される可能性があります。
3つ目は、企業イメージの向上です。長時間労働が社会課題として認識されるようになってきた今、働き方改革を推進する企業であることは社内外に好印象を与えるポイントになります。「働く人を大切にする会社」として良いイメージを持ってもらえれば、採用活動にも有利に働き、優れた人材の獲得につながります。

働き方改革の3つの狙い

労働時間の是正

労働時間は労働基準法によって上限が定められています。以前から、時間外労働については原則月45時間、年360時間という上限が設けられていましたが、特別な事情がある場合には、労使協定によって上限を超えることも可能でした。しかし、働き方改革に関連する法改正によって、特別な事情がある場合にも上限を設け、さらに違反した場合の罰則が定められたのです。
企業としては、法令を遵守し、長時間労働が常態化していたこれまでの労働環境を改善する必要があります。そのために企業がまず取り組むべきことは、勤怠管理を徹底することです。従業員本人による自己申告だけではなく、サービス残業をしていないかなど、労働時間をきちんと把握することが重要です。
働き方改革以降、フレックスタイム制や短時間勤務といった制度の導入、有給休暇の取得促進、残業をさせないための一斉消灯など、労働時間を削減するための取り組みを行う企業は実際に増加しています。

正規、非正規間の格差解消

日本の企業においては昔から、パートタイマーや契約社員、派遣社員などの非正規雇用の従業員は、正規雇用の正社員に比べて賃金や待遇面で不利な立場に置かれてきました。ほぼ同じ業務を行っている場合でも、年収で100万円以上の差があったり、賞与がなかったりと、正規雇用と非正規雇用の間には大きな格差があり、それが当然と考えられていた時代もありました。
しかし、働き方改革によってその格差を是正し、不平等をなくそうとする動きが活発化しています。その動きの中で、ひとつの軸となるのが「同一労働同一賃金」という考え方です。正規雇用か、非正規雇用かということだけで賃金や待遇に不合理な差をつけることを禁止し、同じ企業の中で同一の仕事をしていれば、同一の賃金を支給するというものです。
これを受けて、企業の中でも具体的な取り組みとして、契約社員の給与基準の見直し、パートタイマーに対する有給休暇制度の説明や取得促進、非正規雇用から正規雇用への転換などが行われています。

多様な働き方の実現

働き方改革は、労働環境を整備するために賃金や待遇の改善を進めるだけではありません。働く人たちが自分らしく、ワークライフバランスを保ちながら働ける社会の実現を目指しています。そのためには、在宅勤務や短時間勤務など、多様な働き方を選べるように企業が柔軟であることが求められます。
その一例として挙げられるのが、育児期間中も働き続けられるような組織づくりです。新型コロナウイルスの影響もあり、さまざまな業種でテレワーク化が進みましたが、コロナ禍の前からテレワークを推進し、育児と仕事の両立を支援していた企業もあります。 育児だけではなく、働きながら家族を介護する必要が出てくることもあり、それぞれのライフステージに応じた働き方ができるような組織づくりは、今後ますます活発化していくと考えられます。

働き方改革の施行内容と時期について

働き方改革関連法が2019年4月に施行され、8つの法律が改正されました。これにより、企業に一定の義務を課すほか、新たな制度が創設されたものもあります。それらの中から、いくつかを具体的に見ていきましょう。なお、義務化されたものの中には、大企業か中小企業かによって、適用開始時期を区別しているものもあります。

①時間外労働の上限規制

時間外労働は原則月45時間、年360時間を上限とし、臨時的で特別な事情がある場合であっても、以下の範囲内でなければなりません。

  • 休日労働を含め、時間外労働合計が月100時間未満
  • 休日労働を含め、複数月平均が月80時間以内
  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年間6カ月まで

適用時期に関しては、大企業が2019年4月~、中小企業が2020年4月~です。

②年5日の年次有給休暇の取得

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日分については、使用者が労働者の希望を踏まえたうえで、時季を指定して付与することが義務化されています。
適用時期に関しては、大企業・中小企業ともに2019年4月~です。

③フレックスタイム制の拡充

労働時間の調整が可能な清算期間が、最長1カ月だったものから最長3カ月と延長されました。清算期間が最長3カ月になったことで、閑散期や繁忙期に合わせてより柔軟な働き方ができるようになりました。
適用時期に関しては、大企業・中小企業ともに2019年4月~です。

④高度プロフェッショナル制度の創設

高度の専門的知識を有しており、職務の範囲が明確で、かつ一定の年収要件を満たす労働者を対象として、法律に定める企業内手続きを経たうえで労働時間などに関する規定の適用除外を受けられる制度です。労働者としては、労働時間ではなく、成果で賃金を決定されるため、短時間で成果を上げれば良く、自由に労働時間を決められるというメリットがあります。
適用時期に関しては、大企業・中小企業ともに2019年4月~です。

⑤勤務時間インターバル制度の創設

勤務終了後、翌日の勤務までに一定時間以上のインターバル(休息時間)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するためのものです。
適用時期に関しては、大企業・中小企業ともに2019年4月~ですが、これは努力義務とされています。

働き方改革の問題点と課題

ここまで述べてきたように、働き方改革を進めることは社会課題の解決のために重要なことです。しかし、企業にとっては負担が増えるものや、解決すべき課題もあります。

①コストがかかる

「同一労働同一賃金」を実現しようとすると、非正規雇用の従業員の賃金を引き上げる必要があるため、当然ながら今までよりも人件費が増加します。
また、「年次有給休暇取得の義務化」によって、休暇を取得する人の代わりとなる労働力が必要です。さらに、以前よりも残業時間を減らすことも考えると、企業としては新たな人材を確保しなければならず、やはり人件費が増加します。新たな人材を確保せずに、業務を効率化することで労働時間を減らそうとした場合には、業務効率を支援するシステムやツールを導入する必要があるので、いずれにしてもコストがかかってしまいます。

②従業員のモチベーションが下がる

これまで基本給に残業代を加えた給与を生活費としてきた人にとっては、単純に残業を禁止されてしまうと収入が減ってしまいます。これにより、働くこと自体へのモチベーションが下がったり、自社に貢献しようという気がそがれたりする可能性があります。
また、頑張って自分の仕事をやり遂げたいと思っている従業員にとっては、労働時間に制約を設けられることにより、自分が思うように働けず、やりがいを奪われてしまったと感じる場合もあるでしょう。

③管理職の負担増

労働時間の把握や有給休暇の取得など、部下の労務管理をする管理職にとっては、働き方改革によって逆に業務が増えてしまうと考えられます。誰かの業務を減らすために特定の人に業務負担増を強いることになってしまっては、働き方改革として本末転倒です。

働き方改革の推進で抑えておくべきポイント

前項のとおり、働き方改革は企業にとって良いことばかりではありません。課題を解決しながら、企業にとってメリットを生む働き方改革を進めるためには、いくつかポイントがあります。

①現状把握とロードマップの作成

まずは自社の労働環境を詳細に把握し、義務化された基準を満たすために、何をしなければならないのかを洗い出すことから始めましょう。その際には、社内各部署の業務フローや生産性についても知っておく必要があります。
対応すべき課題に優先順位をつけ、社内の働き方改革をなるべく無駄なく行うための計画を策定。ロードマップを作成することで、社内全体で情報を共有し、意思統一をしながら、着実に進めることができます。

②助成金の活用

働き方改革を進めるにあたり、やはり企業にとって課題となるのは、コストがかかるということです。特に中小企業にとっては死活問題になりかねません。政府としてもその点は認識しており、さまざまな助成金の制度があります。たとえば、「働き方改革推進支援助成金」は、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境を整備する際の取り組みに対して、助成金を支給するものです。ほかにも、「業務改善助成金」「キャリアアップ助成金」などがあり、これらをうまく活用することで働き方改革を行いつつ、生産性向上を実現することも可能です。

③ガイドラインの確認

厚生労働省は、働き方改革関連法の内容を踏まえてガイドラインを設けています。働き方改革の概要を伝えるだけではなく、企業にとって具体的な行動指針となるような内容が盛り込まれており、非常に参考になるものです。このガイドラインと照らし合わせながら、自社内の働き方改革がどこまで実現できているかを随時確認しましょう。

まとめ

働き方改革は、日本中のすべての企業が対応すべき課題であり、日本の未来の経済にも関わる社会課題でもあります。まだまだ問題点もあり、すべてが一気に解消されるものではありません。まずは現状を把握し、一つずつクリアしていくことで、働き方改革を実現していくことが大切です。そして、これをきっかけに企業としての在り方を見直し、未来に向かってさらに成長できる組織をつくりましょう。

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