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第22回 労働生産性の定義とは?計算方法や向上させる方法まで解説
第22回 労働生産性の定義とは?計算方法や向上させる方法まで解説

目次
労働生産性の定義とは?
労働生産性という言葉の意味の前に、まずは生産性とは何かを確認しておきましょう。生産性とは、モノやサービスをどれだけ少ない資源で効率的に生み出しているかを知るための指標です。モノやサービスを生み出すためには、原料や土地、設備、労働力といった資源が必要です。これらの資源を投入した量(投入量)を分母とし、生み出されたモノやサービスの量(産出量)を分子としたときの割合が、生産性ということです。
では次に、労働生産性の定義ですが、労働生産性とは投入した労働量に対する産出量の割合です。労働者1人当たり、もしくは労働者1人が1時間当たり、どれだけのモノやサービスを生み出せているかを知ることができる指標になります。なお、労働生産性には、後述する「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の二種類があります。
物的労働生産性
物的労働生産性は、生産物の個数や大きさ、重さといった物理的な量を産出量として見たときの労働生産性のことです。物価の変動といった外部要因で変動してしまう販売額ではなく、物量を基準にしているため、製造業などの現場で純粋な生産能力や業務効率を測る際に用いられます。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性は、企業が新しく生み出したモノやサービスの金銭的な価値を産出量として見たときの労働生産性のことです。一般的に、モノを作って販売する際には、外部から原材料を購入し、それを加工し、原材料費よりも高い金額で販売します。その差が、加工によって新たに付与された価値であり、ここで言う付加価値ということです。
業務効率化との違い
昨今の働き方改革の中で、企業が抱える課題として「生産性向上」や「業務効率化」が挙げられることがありますが、ここから両者の違いを説明します。
上で述べたとおり、「生産性とは、モノやサービスをどれだけ少ない資源で効率的に生み出しているかを知るための指標」です。そのため、生産性を向上させることと、業務効率化をすることは同じと思われるかもしれません。しかし、業務効率化は、業務の中からムリ・ムダ・ムラを排除することで、業務を効率的にしていくことです。労力を削減したり、時間を削減したりするのが目標で、生産量が増えるところまでをめざすものではありません。一方で、労働生産性を向上するために、投入する資源である労働力を削減するという施策を考えることはできます。投入する労働力を減らしても、産出する量や価値が今と同じ、もしくは今以上にすることができれば、労働生産性が向上したと言えます。この場合において、労働生産性向上は目的であり、業務効率化はその手段ということです。
国際社会における労働生産性の定義
日本では国全体として生産性向上に取り組んでいますが、その理由の一つとして、国際的に見て「日本は労働生産性が低い」と言われていることが挙げられます。各国の労働生産性を比較したものとして、以下のようなランキングデータがあります。
OECD加盟国の中でみても、近年は1970~1980年代半ばとほぼ同じ17~21位程度で推移している。そして、2020年をみると、OECD加盟38カ国中23位へと落ち込んでおり、これは1970年以降で最も低い順位である。
公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2021」より抜粋
では、国の労働生産性がどのように測られているかを確認しておきましょう。
国際社会において労働生産性を比較・分析するときには、付加価値に基づいて付加価値労働生産性を算出するのが一般的です。その際の付加価値とは、その国のGDP(国内総生産)にあたるとされています。計算式で表すと以下のとおりです。
国際社会における労働生産性=GDP÷就業者数(もしくは就業者数×労働時間)
つまり、1人当たりのGDPであり、これは「国民経済生産性」と呼ばれる指標です。「日本は労働生産性が低い」という国際的な指摘は、かなりマクロな視点で見たときのものであり、「日本の労働者個々の生産性が低い」という意味ではないことがわかります。また、日本の生産性が低い理由としては、長時間働くことを美徳とする古い考え方がまだ日本の一部の企業に残っていることが挙げられるでしょう。
労働生産性の計算式について
物的労働生産性の計算式
上記のとおり、物的労働生産性は、生産物の個数や大きさ、重さといった物理的な量を産出量として算出するので、計算式は以下のようになります。
物的労働生産性=生産物の物量÷労働量
労働量を労働人数にすれば、労働者1名当たりの物的労働生産性になり、労働量を労働人数×労働時間にすれば、労働者1名1時間当たりの物的労働生産性を算出することができます。
例えば、ある工場で4人の従業員が8時間で96個の商品を製造したとします。この場合、労働者1人当たりの物的労働生産性は24個になり、労働者1人1時間当たりの物的労働生産性は3個です。
付加価値労働生産性の計算式
付加価値労働生産性は、新たに生み出した金銭的な価値を産出量として算出するので、計算式は以下のようになります。
付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量
また、付加価値額は以下のように算出します。
付加価値額=生み出したモノやサービスの販売額(売上高)-外部から購入した費用
外部から購入した費用には、原材料費や部品費、外注加工費、運搬費といったものが含まれます。付加価値額は、その企業が手間をかけることで増加した金銭的な価値であり、粗利に近いものと考えるとイメージしやすいでしょう。
物的労働生産性と同じく、上記計算式の労働量を労働人数にすれば、労働者1名当たりの付加価値労働生産性になり、労働量を労働人数×労働時間にすれば、労働者1名1時間当たりの付加価値労働生産性を算出することできます。
例えば、ある工場で4人の従業員が8時間で製造した商品の売上金額が300,000円で、原材料費などの外部購入費が140,000円だとします。このとき付加価値額は160,000円なので、労働者1人当たりの付加価値労働生産性は40,000円になり、労働者1人1時間当たりの付加価値労働生産性は5,000円になります。
労働生産性を上げるメリット
人材不足に対応できる
少子高齢化が進む日本では人口が減少し、労働人口も減少。その結果、人材不足に陥ると予想されています。各企業でも今後はますます人材確保が難しくなってくるでしょう。この状況下で労働生産性を向上させ、少ない人数でも生産力を維持できる企業になることは、大きなメリットと言えます。
新規事業への投資ができる
労働生産性を上げるということは、労働力を削減することができる、つまり人件費を削減できるということです。その分の資金を新規事業に投資して、付加価値の高い事業へと成長させることができれば、さらに生産性を向上させ、企業運営によい循環を生むことができます。
ワークライフバランスが向上する
労働生産性が向上すれば、従業員の労働負担を減らすことができます。残業や休日出勤が多く、長時間労働をせざるを得なかった従業員が、プライベートな時間を確保できるようになり、仕事と私生活を両立しやすくなります。
労働生産性の高い企業の特徴
発言機会が均等にある
ある調査によって、労働生産性の高い組織には二つの共通点があることが判明しました。その1つが、組織を構成するメンバー全員に自分の考えを発言できる機会が設けられていて、実際に発言の割合がほぼ均等になっていたことです。逆に、生産性の低い組織では、一部のメンバーが発言機会をほぼ独占してしまっていました。
社会的感受性が高い
もう1つの共通点は、メンバーの社会的感受性の平均値が高いことです。社会的感受性とは、相手の表情や言動からその人の気持ちや望みを察知する能力です。生産性の高い組織では、社会的感受性の高いメンバーが多く、コミュニケーションが円滑になるのです。その中でもリーダーとなる人が高い社会的感受性を持っている場合、うまく組織が機能し、生産性が高まるのです。
労働生産性を向上させる方法
現状を知る
ここからは、労働生産性を向上させるためにやるべきことを5つのステップに分けて紹介します。
1つ目は、現時点での労働生産性を把握することです。具体的な目標値を設定するためにも、取り組み結果を分析するためにも、まずは現状を知ることが重要です。算出方法は「労働生産性の計算式について」の項で紹介したとおりです。
なお、自社の労働生産性が高いか低いかを知るための参考値として下記のようなデータがあります。
- 2020年度の日本の時間当たり名目労働生産性(就業1時間当たり付加価値額)は、4,986円。
- 2020年度の日本の一人当たり名目労働生産性(就業者一人当たり付加価値額)は、805万円。
公益財団法人日本生産性本部「日本の労働生産性の動向 2021」より抜粋
業界や業種、企業の規模によって異なるため、一概にこの数値が基準になるとは言えませんが、参考目安として知っておくのはよいでしょう。
KPIを設定する
2つ目は、KPIの設定です。KPIとは、組織の目標達成に向けた進捗を示す定量的な指標であり、重要業績評価指標とも呼ばれています。KPIを設定すれば、労働生産性向上に向けた取り組みの目標が明確になり、社内の意思統一が図りやすくなります。
なお、KPIを設定するための手立てとして、SMARTモデルと呼ばれるものがあります。SMARTは、Specific(具体的な)、Measurable(計測可能な)、Achievable(達成可能な)、Relevant(関連した)、Time-bounded(期限を定めた)の頭文字を並べた言葉です。KPIを設定する際には、社内のメンバーがわかりやすいように具体的で明確であること(S)、客観的に分析できるように計測可能なものであること(M)、モチベーションが維持できる現実的な目標であること(A)、最終目標に関連していること(R)、先送りされないよう期限があること(T)、この5つを意識することが重要です。
ボトルネックを見つける
3つ目にするべきことは、労働生産性を下げている原因を見つけ出すことです。そのために、まずは業務の棚卸をしましょう。「どんな業務が存在しているか」「どれだけの人員を割いているか」「どれだけの時間をかけているか」「どのような手順で行なっているか」を整理することで、ミスが発生しやすい業務や効率化できていない業務など、労働生産性を低下させているボトルネックを顕在化することができます。ボトルネックを洗い出すことができれば、対処すべき優先順位や最適な解決策を考えやすくなります。
補助金などを調べる
労働生産性を上げるには、多くの場合、社内人材の育成や業務効率化ツールの導入などが必要になり、そのためにはコストがかかります。労働生産性を向上させることが中長期的にはメリットになることはわかっていても、現時点でその取り組みに予算を割く余裕がない企業は少なくありません。しかし、生産性向上に関しては、日本全体の課題でもあるため、補助金制度などの国が積極的にサポートをしています。そういった補助金などの支援がないかを調べるのが、4つ目にすべきことです。
例えば、経済産業省が所管する中小企業庁が「IT導入補助金」という制度を運営しています。もちろん条件はありますが、補助対象として認められれば、業務を効率化するために勤怠管理システムや受発注管理システムなどのITツールを導入した際の費用の一部を補助してくれます。また、国だけではなく、地方自治体としてサポートを行っていることもあるため、利用可能な支援制度がないかを調べるとよいでしょう。
To Doリストを作成する
5つ目にすべきことは、To Doリストの作成です。KPIが設定でき、ボトルネックがわかれば、あとは一つひとつの課題に対して、具体的な解決策を考えて、リスト化しましょう。やるべきことが途中で曖昧にならないよう、リストにして、社内のメンバーにも共有します。一つずつ課題をクリアし、リストを更新していくことで、メンバーのモチベーション維持にもつながります。
労働生産性を向上させるためのポイント
従業員のモチベーションを向上させる
会社の利益を増やすだけではなく、給料をアップしたり、働きやすい環境を整えたりするなど、労働生産性向上は従業員とってもメリットがあると実感できるようにしましょう。モチベーションが上がれば、取り組みに対する協力が得やすくなります。会社とのエンゲージメントが強くなれば、離職を防ぐことにもつながります。
業務を見える化する
「ボトルネックを見つける」の項でも触れたように、まずは現状として業務がどのように行われているのかを把握します。そして業務の棚卸をしたら、労働生産性向上に取り組む担当者だけではなく、社内や部内に共有するようにしましょう。同じ業務でも、人によって業務の仕方やフローが違っていることを互いに知ることができ、業務改善や業務標準化につながるきっかけになります。
コア業務に投資する
各業務の見直しを行い、工数を減らすなどして地道に業務効率化を行うことは、労働生産性向上には役立ちます。ただ、より生産性を高めていくためには、利益に直結するコア業務に人員を割き、ノンコア業務はアウトソーシングしたり後述する自動化をしたりするなど、「選択と集中」が鍵になります。
DXを推進する
現代社会において労働生産性を高めるためには、さまざまなITツールを活用した業務DX化が欠かせません。クラウド化することで柔軟な働き方ができる環境を整えたり、RPAやAIを導入して業務を自動化したりと、自社のボトルネックに合わせたDX推進を検討しましょう。
PDCAサイクルを回す
労働生産性向上に限ったことではありませんが、このような取り組みを行う際には、評価と改善が重要です。短期的な成果を求め過ぎず、さまざまな施策を行いながらPDCAサイクルを回して、企業としての着実な成長をめざしましょう。
ITを活用する場合のおすすめツール
RPA(Automation Anywhere「Automation 360」)
RPAは定型業務を自動化するツールとして非常に有用です。Automation Anywhere「Automation 360」はクラウドベースのRPAで、運用コストを削減しつつ、高度なセキュリティや使い勝手のよさを実現したツールです。使いやすいユーザーインターフェースで、ITスキルを持たない、現場で業務を行っている従業員でも、自分の業務を簡単に自動化することができます。
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Workato
既存の社内基幹システムとさまざまなSaaSが併存している企業が多くあり、こういった場合にはシステムやサービスの連携が重要になります。Workatoはクラウドかオンプレミスかを問わず、アプリケーション同士の連携を可能にするiPaaSです。複数のSaaSとオンプレミスの既存システムを連携して業務を自動化するなど、組織を横断するワークフローの自動化をすることもできます。
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電子契約ソリューション DocuSign
取引先との契約を紙の書類で行っている場合、契約書に押印もしくは署名をし、封入して郵送するというプロセスが必要ですが、電子署名サービスのDocuSignを活用すれば、契約業務をデジタル化し、円滑かつ効率的に行うことができます。リモートワークを導入しているにもかかわらず、押印のためだけに出社するといった無駄もなくすことができます。
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ワークマネジメントソリューション for monday.com
ワークマネジメントソリューション for monday.comは、チーム内の作業を見える化するクラウド型の業務管理ツールです。プロジェクトチームを組んで業務を行う際には、各担当者で作業を分担します。それぞれの作業の進捗状況が、いつでもチームのメンバーから見えるようにすることで報告業務が不要になるなど、円滑なチーム運営が可能になります。またmonday.comは、さまざまな業種に対応できるよう200以上のテンプレートが用意されていて、すぐに使い始めることができるのが特長です。
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リシテア/就業管理・リシテア/工数管理
労働生産性向上のためには、誰がどのくらい働いているのか、何に時間を費やしているのかといった勤務状況を把握することが必要です。リシテア/就業管理は、多様な雇用形態に対応する勤怠管理システムで、従業員の勤務時間や休暇取得状況をリアルタイムに把握できます。また、リシテア/工数管理もあわせて活用することで、作業工数データを一元管理し、労働時間や作業内容を定量的に把握することが可能です。これにより、適切な労働時間管理を実現し、生産性向上や労務リスクの削減に貢献します。
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まとめ
本コラムでは、労働生産性についてその定義から計算方法、労働生産性向上を実現するためのポイント、有用なITツールまで、基礎的な情報を幅広く紹介しました。労働生産性向上に向けた取り組みは、会社の利益を増やすだけでなく、労働時間を含めた働く環境の改善にも関わります。会社視点だけでなく、従業員視点でも生産性向上に取り組んでいくことが大切です。ここで紹介した方法やツールを参考にしながら、企業としての成長を実現していきましょう。