第29回 テレワークが中小企業で進まない理由とは?リスクや対策を徹底解説
第29回 テレワークが中小企業で進まない理由とは?リスクや対策を徹底解説
コロナ禍をきっかけとして、一気に広がったテレワークですが、大手企業に比べると中小企業では完全に浸透しているとは言えない状況です。一時的にテレワークを導入したものの、結局は従来どおりのオフィス勤務体制に戻した企業も少なくありません。なぜ、中小企業ではテレワークが進まないのでしょうか?その理由や具体的な対策のほか、テレワーク導入をしないことで生まれるリスクについて解説します。
- ※本コラム記載の情報は2023年4月時点のものです。
テレワークとは?
まずは言葉の意味から確認しておきましょう。テレワークについて、一般社団法人日本テレワーク協会は下記のように説明しています。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
テレワークは、働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、移動中や移動の合間に行うモバイルワーク、サテライトオフィスやコワーキングスペースといった施設利用型テレワークのほか、リゾートで行うワーケーションも含めてテレワークと総称しています。
一般社団法人日本テレワーク協会HPより抜粋
つまり、テレワークとは通信ネットワークを使って業務を行うことであり、在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィス勤務、ワーケーションは、テレワークの一種だということです。また、リモートワークという言葉が使われるシーンもありますが、「テレ(tele)」も「リモート(remote)」も「遠隔」を意味する言葉で、テレワークとリモートワークは同義と考えて良いでしょう。
なお、テレワークは1970年代のアメリカで生まれた働き方です。日本では1984年に日本電気株式会社(NEC)がサテライトオフィスを設置したのが始まりとされています。インターネットが普及したことで少しずつ導入する企業が増加し、近年の働き方改革推進とコロナ禍を背景に一気に広がりました。
コロナ禍前後のテレワーク導入状況の変化
上述したとおり、日本におけるテレワークの浸透にはコロナ禍が大きく関わっています。2020年に発出された緊急事態宣言によって外出を控えるよう要請されたことで、通常のオフィス勤務からテレワークに切り換える企業が増えたのです。実際導入率にどのくらいの変化があったのかを見てみましょう。
総務省が実施した「令和2年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業の割合が平成30年(2018年)では19.1%、令和元年(2019年)では20.2%だったものが、令和2年(2020年)には47.5%と、前年の2倍以上に増えています。
コロナ禍以降のテレワークの実施率についても、参考になる資料があるので確認しておきましょう。
- 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、企業のテレワーク実施率は、17.6%(令和2年3月2日-8日)から、56.4%(同年5月28日-6月9日/1回目の緊急事態宣言時)へ上昇し、緊急事態宣言解除後に低下するものの、2回目の緊急事態宣言時(令和3年3月1日-8日)には38.4%へ再上昇。(同じ期間、大企業:33.7% → 83.0% → 69.2%、中小企業:14.1% → 51.2% → 33.0% と推移。)
- テレワークが制度化されている企業は、大企業で53.8%、中小企業で23.7%となる。
総務省『「ポストコロナ」時代におけるテレワークの在り方検討タスクフォース(第1回)事務局説明資料』より抜粋
このようにコロナ禍でテレワーク導入が進んだものの、従来のオフィス勤務に戻った企業も多いことや、大企業に比べて中小企業ではテレワークが完全には浸透していないことが分かります。
- ※出典:総務省「令和2年通信利用動向調査の結果」
中小企業でテレワークができない・進まない理由とは?
なぜ中小企業ではテレワーク導入がそれほど進んでいないのでしょう。その理由に関しては、大企業にはあまりない中小企業ならではの課題があることが分かっています。ここからは、「どうしてもテレワークに対応できない業務がある」「テレワークに必要なツールの未導入」「組織の責任者がテレワークの必要性を理解しようとしていない」という3つの理由に関して、ひとつずつ詳しく解説していきます。
もしテレワークが進まないことでお悩みの場合には、ここであげる課題に該当しないかを確認して、自社の状況を整理するところから始めてみましょう。
どうしてもテレワークに対応できない業務がある
事業を行う中でさまざまな業務がありますが、テレワークがしやすいもの、どうしてもテレワークができないもの、工夫することでテレワークが可能なものに分けることができます。どうしてもテレワークができないものに関して、分かりやすい例をあげると、建設現場や製造工場でのオペレーション、飲食店での接客業務、介護福祉施設でのケア業務などです。これらは、その場所に人がいることで成立するような仕事であるため、テレワークにすることが困難です。大企業に比べて中小企業にはこういった業務が多い傾向にあります。
しかし、営業職では「客先に行く必要があるからテレワークはできない」と考えがちですが、ウェブ会議ツールを使うことで自宅から顧客と対話することはできます。どうしても客先に訪問する必要がある場合を除いては、テレワークに切り換えることは可能です。また、総務部門の業務では社内で作業する必要があるものと、そうでない事務作業があり、部分的にテレワークを導入することはできます。工夫次第でテレワークにできる余地があるということは抑えておきたいポイントです。
テレワークに必要なツールの未導入
テレワークでも従来のオフィス勤務と変わらない業務の質や生産性を維持するためには、ITツールの活用が不可欠です。例えば、離れた場所にいながらコミュニケーションを取るための手段として、電話を利用することが考えられますが、電話だけでは十分なコミュニケーションを取るのは難しいでしょう。相手の顔や資料を見たりしながらコミュニケーション取るためには、ウェブ会議ツールが必要です。ほかにもチャットツールや遠隔でできる勤怠管理システム、データ共有のためのクラウドシステムといったものを多くの企業がテレワーク体制を構築するために活用しています。
一方テレワークができていない中小企業では、こういったITツールを導入できておらず、業務のデジタル化が進んでいないという状況があります。その理由としては、ITに関する知識を持った社員がおらず、ツールを使いこなせる人財がいないことや、ツールを導入するためのコストを捻出するのが難しいといったことが考えられます。
きちんと人財育成と情報収集を行いながら進めることで、導入に失敗するリスクを減らすことができます。
組織の責任者がテレワークの必要性を理解しようとしていない
中小企業の中には、経営層がそもそもテレワークの必要性を理解しておらず、テレワーク未導入のままになってしまっている企業も少なくありません。「従来どおりオフィス勤務で仕事をするほうが絶対に生産性が高い」「わざわざ時間とコストをかけてテレワークを導入する意味がない」といった考え方になってしまっているため、テレワークを導入するという選択肢がないのです。これは、後述するテレワークを導入しないことのリスクやデメリットを認識していないために起こっていると考えられます。
まずはテレワーク導入のメリットとデメリットの両方について正しい知識を持ち、デメリットに対しては適切な対策を講じることでクリアできることを理解するところから始めましょう。
中小企業がテレワークをできない場合に負うリスクとは?
前項で触れたとおり、確かにテレワークを導入するためには手間やコストがかかるという課題があります。しかし、だからと言って、未導入のままでいることにも課題があるということを忘れてはいけません。
今後もテレワークを導入しないまま事業を継続していった場合に、企業として抱えることになるリスクとしては、「優秀な人財の確保が難しくなる」「災害などの緊急時の対応が難しい」「生産性があがらない」の3つがあげられます。ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。
優秀な人財の確保が難しくなる
社会全体として働き方改革が推進されており、さまざまな企業が多様な働き方ができる環境への変革に取り組んでいます。その中で、求職者から見たときに、テレワークができない会社は「仕事と家庭の両立がしづらい会社」「従業員の働きやすさをあまり考えてくれない会社」と思われてしまう可能性あります。また、現在雇用している従業員も、より自分に合った働き方ができる企業への転職を考えるかもしれません。また、今後日本は労働力人口が減少し、多くの企業が人手不足に陥ると予想されており、テレワーク未導入企業は、優秀な人財を確保するのがさらに難しくなるでしょう。
災害などの緊急時の対応が難しい
企業が対処すべき課題のひとつとして、昨今BCP対策が取りあげられることが多くあります。BCPは「Business Continuity Plan」の略語で、「事業継続計画」という意味です。自然災害や大火災、テロなどの緊急事態に遭遇した場合でも、企業は中核となる事業を継続もしくは早期に復旧できるように準備をしておく必要があるという考えから生まれた取り組みです。テレワークは、BCP対策のひとつになると考えられます。
テレワークを導入していると、公共交通機関が停止したり、オフィスが被災した場合でも事業継続がしやすくなります。それに対して、テレワークを導入していないとある日突然会社の運営が困難になり、最悪の場合そのまま倒産してしまうリスクがあります。
また、災害時に従業員の安全を確保するという点においても、テレワークができる企業のほうが優れていると言えるでしょう。
生産性があがらない
「テレワークは生産性が下がりそう」というイメージがあるのは確かですが、むしろテレワークを導入したことで生産性が向上した企業は多くあります。成功の要因のひとつとして考えられるのは、「通勤からの解放」です。テレワークになると通勤をする必要がなくなり、満員の電車に乗るストレスがなくなったり、通勤に割いていた時間をプライベートな時間として使えたりします。これにより従業員のモチベーションが向上し、生産性も向上するのです。逆にテレワークを導入しないと、こういった生産性向上のチャンスを失っていると考えることができます。
また、テレワークが導入できていない原因が、社内のデジタル化が進んでいないことにあるとすれば、業務効率化につながるようなITツールも同様に導入できないことになります。そのままでは生産性を向上させる手段が、かなり制限されることになってしまいます。
中小企業がテレワークをできない場合にやるべき対策とは?
テレワークについてより深く理解をする
前述したとおり、テレワークについてイメージだけで「テレワークができる業務がない」「テレワークだと生産性が落ちる」と考えている中小企業の経営層は少なくありません。まずはテレワークについて理解を深め、そのうえで導入を検討していくことが重要です。
具体的には、下記のようなポイントを押さえておくと良いでしょう。
- テレワークを導入することで得られるメリットは何か
- 自社が抱えている課題をテレワークでどれほど解決できるのか
- テレワークを導入しないことのリスクは何か
- どの部門のどの業務ならテレワークができるか
- 自社の体制や業務内容に合ったITツールは何か
- 導入のためのコストはいくらか
- コストを超えるメリットがあるか
他社の事例などを含めて情報収集を行い、整理をしていくことは、テレワーク導入の失敗を防ぐことにもつながります。
補助金や助成金の活用
導入コストが原因で、テレワークをできていない中小企業は、補助金や助成金の活用を検討してみましょう。補助金などは実施期間が定められているものが多く、廃止されることもあるため、導入するタイミングで適用可能なものがあるかを調べる必要がありますが、ここでは2023年4月時点で実施しているものを例としてひとつ紹介します。
「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」(厚生労働省)
助成対象者
良質なテレワークを制度として導入・実施することにより、労働者の人材確保や雇用管理改善等の観点から効果をあげた中小企業事業主
支給の対象となる経費
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就業規則・労働協約・労使協定の作成・変更
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外部専門家によるコンサルティング
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テレワーク用通信機器等の導入・運用
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労務管理担当者に対する研修
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労働者に対する研修
支給額
機器等導入助成の要件を満たした場合には、対象となる経費の30%が支給されます。
ただし、以下のいずれか低い方の金額が上限となっています。
- 1企業あたり100万円
- テレワーク実施対象労働者1人あたり20万円
上記の例は厚生労働省が行っているものですが、地方自治体が独自で補助金や助成金を支給している場合もありますので、コストで悩んでいる場合には調べてみることをおすすめします。
部分的な導入をする
すべての業務を一気にテレワークに切り換えようとすると、失敗するリスクが高くなります。まずはテレワークが馴染み(なじみ)やすい経理部門や総務部門の事務業務、現場に出ない管理業務など、対象業務を絞って部分的に導入してみるのがおすすめです。実際に導入してみると、テレワークのメリットが実感できたり、逆に対処すべき課題が見えてきたりします。そして、ITツールの使い方やシステムなど、テレワークの運用に慣れてきてから対象業務を拡大していくと、円滑に進めていくことができるでしょう。
なお、日立ソリューションズでは、テレワークに役立つさまざまなツールやサービスを提供しています。その一部をここで紹介します。
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仮想オフィスサービス
オンライン上に仮想のオフィス空間を創ることができるサービスです。仮想オフィスがあることで、テレワークでもコミュニケーションが取りやすくなったり、チームとしての一体感を醸成することができたりと、生産性向上に役立ちます。
サービス詳細:仮想オフィスサービス -
バーチャル背景設定ツール ChromaCam
背景を変更する機能のないウェブ会議ツールでも、背景変更できるようにするツールです。利用するウェブ会議ツールの種類を問わず、プライバシーを守りながら互いに顔を見て話せるというメリットがあります。
サービス詳細:バーチャル背景設定ツール ChromaCam -
オンラインホワイドボードサービス Miro
オンライン上に共同で閲覧や書き込みができるホワイトボードを提供するサービスです。ウェブ会議ツールにホワイトボード機能が付いているものもありますが、オンラインホワイドボードサービスがあれば会議の前でも後でも、随時共同で作業を進めていくことができます。
サービス詳細:オンラインホワイドボードサービス Miro
なお、日立ソリューションズにはさまざま企業へのサービス提供を通じて培ったノウハウがあり、各企業に合ったソリューションを提案しています。ツール選びはもちろん、テレワーク導入に関する悩みがあれば、ぜひご相談ください。
関連情報
まとめ
コロナ禍をきっかけに、多くの企業がテレワークを導入しています。しかし、本コラムでも紹介したとおり、中小企業では未導入の企業も多く、業種によっても導入率に差があるのが現状です。導入に至っていない理由は、企業それぞれの事情によるところもありますが、テレワークを導入して多様な働き方を実現することには、従業員のモチベーション維持や人手不足解消につながります。また、テレワーク導入をきっかけに業務フローの見直しが進み、効率化が図れることもあります。そういったメリットにも目を向けて、テレワーク導入の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
- ※本コラム記載の情報は2023年4月時点のものです。