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セキュリティコラム
サイバー攻撃リスクを最小限に!
製品のセキュリティに欠かせない「SBOM」とは
ソフトウェアの脆弱性を悪用したサイバー攻撃は、さまざまな企業にとって脅威となっており、ひとたび被害に遭えば、業務停止など自社に多大な経済損失をもたらすだけでなく、顧客情報漏洩といった深刻な事態を引き起こす場合もあります。製品開発企業においては、インシデントへの対応・対策版の提供・再発防止など想定外の損失が予想されます。本記事では、製品開発で対応すべきセキュリティ課題や対策ポイントについて解説します。
1. ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃
ソフトウェアの脆弱性は毎年発表される「情報セキュリティ10大脅威」において、常に上位にランクインしています。これは、脆弱性を悪用した攻撃が高度な技術を必要とせず、かつ効果的な攻撃手段として認識されているためです。ソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃としては、次のような特長があります。
- 低コスト・高効率:攻撃者にとっては相対的に低いコストで、大規模な被害を与えることができる可能性があります。例えば、既知の脆弱性を悪用するワームは、インターネットを通じて短時間で広範囲に感染します。
- 攻撃ツールの拡散:新たな脆弱性が発見されると、それを利用した攻撃ツールが短時間で拡散され、多くのシステムが同時に攻撃されます。
- 開発段階における攻撃:脆弱性の種類は多岐にわたり、新たな攻撃手法が常に登場しています。例えば、サプライチェーン攻撃のように、ソフトウェア開発段階でライブラリやツールにマルウェアを仕込むことで最終的な製品に影響を与える手法も増えています。
2. ソフトウェアの脆弱性対策で注目されるSBOMとは
ソフトウェアの脆弱性を狙ったサイバー攻撃被害を防止するためには、脆弱性の早期発見と適切な対策が不可欠です。前述のとおり、ソフトウェアの脆弱性は依然としてセキュリティリスクとなっており、開発段階からセキュリティを考慮した対応が求められています。
SBOM(Software Bill of Materials)は、ソフトウェアの構成要素とその依存関係を詳細に記述したものであり、潜在的な脆弱性の早期発見を可能にし、ソフトウェアの脆弱性を狙ったサイバー攻撃に対するレジリエンスを高めるために重要な情報となります。従来、ソフトウェア開発におけるセキュリティ対策は開発者の経験に依存する場合が多く、開発時の脆弱性対策が不透明でした。SBOMは、ソフトウェア製品を構成する部品と依存関係の詳細を記述しており、ソフトウェアを構成する要素を一元管理することが可能になりました。これは、製造業における部品表(BOM)に相当し、ソフトウェア製品の構成要素を網羅的に把握するための重要な情報源となります。
SBOMに含まれる情報
SBOMに含まれる情報は以下のとおりです。
- 各部品の識別情報:部品の名称、バージョン、一意な識別子など
- ライセンス情報:部品の利用に関するライセンスの種類と条件
- 供給元情報:部品の提供元や開発者
- 部品間の依存関係:各部品とほかの部品の依存関係
- セキュリティ情報:既知の脆弱性やパッチの適用状況
- SBOM作成情報:作成日時やツール
SBOMのフォーマット
SBOMを記述するフォーマットさまざまな種類がありますが、代表的なフォーマットとしては以下です。これらのフォーマットは、SBOMに含まれる情報を構造化し、異なるツール間でのデータ交換を可能にします。
- SPDX(Software Package Data Exchange):Linux Foundationによるオープンな標準フォーマットで、SBOM記述のための最も一般的なフォーマットの一つです。
- CycloneDX:OWASP※が策定したSBOMフォーマットで、SPDXと同様に広く利用されています。
- SWID(Software Identification)Tag:XMLベースのタグで、SBOMの一部として使用されます。
SBOMの作成方法
SBOMは、以下の方法で作成することができます。
- 手動作成:各コンポーネントの情報を一つずつ収集し、SBOMフォーマットに手動で記述します。
- ツールによる自動生成:ツールを使用することで、ソフトウェアの依存関係を自動的に解析し、SBOMを生成することができます。
- ビルドプロセスへの統合:ビルドプロセスにSBOM生成を組み込むことで、ソフトウェアのビルド時に自動的にSBOMが生成されます。
3. セキュリティにおけるSBOMの重要性
SBOMはソフトウェア製品に潜む脆弱性を特定し、サイバー攻撃のリスクを大幅に軽減するうえで不可欠です。SBOMは、製品開発のライフサイクル全体において、セキュリティ強化とコンプライアンス確保に不可欠な役割を果たしています。
企画から開発段階
- 脆弱性対策:SBOMを開発段階から活用することで、ソフトウェアに含まれる脆弱なコンポーネントを可視化し、開発の早い段階でセキュリティリスクを軽減することができます。
- ライセンス管理:各コンポーネントのライセンス情報を一元管理することで、ライセンス違反のリスクを最小限に抑え、法的な問題を防ぐことができます。
出荷から運用・保守
- インシデント対応の効率化:セキュリティインシデントの発生時、SBOMをもとに影響範囲を迅速に特定し、最小限の被害で対応することができます。
- リスク管理:サプライヤーから提供されるソフトウェア部品のセキュリティ情報を把握することで、リスクを可視化し、管理することができます。
- 法規制への対応:2024年に発効が見込まれている欧州連合(EU)のサイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act:CRA)など、世界的に厳しくなるサイバーセキュリティ規制への準拠を支援します。
脆弱性検出プロセス
- SBOMの作成:製品のSBOMを作成します。
- 脆弱性データベースとの照合:作成したSBOMを、脆弱性データベース(NVD:National Vulnerability Database)などと照合します。
- 脆弱性レポートの生成:照合結果に基づき、ソフトウェア製品に含まれる脆弱性のリストを生成します。
4. SBOMの活用メリット
SBOMを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
セキュリティ向上
- セキュリティ対策の効率化:SBOMを用いて定期的に脆弱性情報を分析することで、効率的にセキュリティ対策を図ることができます。
- 脆弱性の影響調査:サイバー攻撃を受けて明らかになった脆弱性について、ほかの製品でも影響がないか、効率的に調査を行うことができます。
コンプライアンス対応
多くの国や地域で、ソフトウェアのセキュリティに関する規制が強化されています。
- 欧州:EUサイバーレジリエンス法(CRA)では、対象のデジタル製品のSBOM作成と提出が義務付けられています。
- 米国:2021年5月に公表された大統領令の中で、米国政府機関向けに調達するシステムはセキュリティ対策の要件としてSBOMの提出が求められています。
- 日本:経済産業省が2024年度から導入を予定している「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度」において、IoT製品が満たすべきセキュリティ要件の一つとしてSBOMの活用が組み込まれる可能性があります。
脆弱性管理の高度化と効率化
SBOMを活用することで、従来の脆弱性管理で抱えていた課題を克服し、より高度で効率的な脆弱性管理を実現できます。
- 自動化による迅速な脆弱性検出:従来の人手による脆弱性診断に比べ、SBOMと脆弱性データベースを連携させることで、ソフトウェアに含まれる脆弱性を自動的に、より迅速かつ正確に検出できるようになりました。これにより、人的ミスによる見落としを防ぎ、脆弱性発見までの時間を大幅に短縮できます。
- 影響範囲の把握:脆弱性が発見された場合、その影響範囲を詳細かつ正確に特定することができます。これにより、無駄な修正作業を省き、効率的な対策が可能になります。
- 優先順位付けにもとづいた対策:SBOMに含まれる情報と脆弱性データベースを照合することで、各脆弱性の危険度を客観的に評価し、リスクの高い脆弱性から順に対策を実施できます。これにより、限られたリソースを効果的に活用し、セキュリティレベルの向上を図ることができます。
- 脆弱性レポートの自動生成:SBOMと脆弱性スキャン結果をもとに、わかりやすい脆弱性レポートを自動生成できます。これにより、経営層やセキュリティ担当者への報告が容易になり、意思決定を迅速化できます。
5. SBOMツールの選び方
SBOMツールは、今やOSS(オープンソースソフトウェア)を多く活用するソフトウェアのセキュリティを確保するために不可欠なツールです。さまざまな機能や特徴を持つツールが数多く存在するため、自社の環境やニーズに最適なツールを選ぶことが重要です。SBOMツールを選ぶ際は、以下の点を検討します。
- 目的:SBOMを生成する目的を明確にします(脆弱性管理、ライセンス管理、コンプライアンス対応など)。
- 対象:スキャン対象となるソフトウェアの種類(コンテナイメージ、ソースコードなど)と規模を把握します。
- 運用:出荷後も含めた製品ライフサイクルの中で、いつ・誰が・どうやって利用するのか、ツールを導入することで生じる既存プロセスへの影響などを検討します。
- 開発環境:既存の開発環境やツールとの連携性を考慮します。
- 機能:必要な機能(脆弱性スキャン、ライセンスチェック、レポート生成、カスタムルール作成、SBOMの自動更新など)を洗い出します。
- コスト:導入や運用に要するコストを確認します。
- サポート:提供されるサポート体制(SLA、問い合わせ窓口、コミュニティサポートなど)を確認します。
- セキュリティ:ツール自体のセキュリティ対策が十分に行われているか確認します。
- 拡張性:将来的に機能拡張が必要になった場合に対応できるか、また既存のツールとの連携が容易か確認します。
- 法規制への対応:利用するツールが、関連する法規制に準拠しているか確認します。
上記を考慮したうえで、可能な場合はPoC(概念実証:Proof of Concept)を実施し、実際の環境でツールを試してみることをおすすめします。
6. SBOMと構成管理の違いと連携
SBOMと構成管理は、どちらもソフトウェア開発において不可欠な要素ですが、次のような違いがあります。
- SBOM:ソフトウェア製品を構成するコンポーネント(ライブラリ、フレームワークなど)とその依存関係を詳細に記述した文書です。いわば、ソフトウェア製品のレシピであり、製品の構成要素を網羅的に把握するための情報源となります。
- 構成管理:ソフトウェア開発における変更管理の活動全般を指します。ソースコード、ドキュメント、設定ファイルなど、ソフトウェア開発に関わる資産を管理し、変更履歴を記録することで、ソフトウェアの品質を確保します。
SBOMと構成管理ツールは連携させることで、以下のような相乗効果が期待できます。
- より詳細な脆弱性分析:SBOMに記載されたコンポーネント情報と、構成管理で管理しているソースコードや設定ファイルを連携させることで、より詳細な脆弱性分析が可能になります。例えば、特定の脆弱性が、どの部分のソースコードに影響を与えるのかを特定することができます。
- 変更履歴の追跡による影響範囲の特定:ソフトウェアに変更を加えた場合、構成管理の履歴を参照することで、その変更がどの部分のコードに影響を与えたのかを特定できます。さらに、SBOMと照合することで、その変更がどのコンポーネントの脆弱性に影響を与えたのかを特定することも可能です。
- コンプライアンスの強化:SBOMのライセンス情報と構成管理で管理しているソースコードを連携させることで、ライセンス違反のリスクをより正確に評価し、適切に対策を行うことができます。
- セキュリティリスクの低減:サプライヤーにソフトウェアのSBOMを要求し、自社の構成管理システムと連携することでセキュリティリスクを可視化し、対策を講じることができます。
- 迅速なインシデント対応:インシデント発生時、SBOMを参照して脆弱なコンポーネントを特定し、構成管理システムで該当するソースコードや設定ファイルを特定することで、迅速な対応が可能になります。
例えば、あるWebアプリケーションでSQLインジェクションの脆弱性が発見された場合、SBOMで対象のデータベースライブラリを特定し、構成管理システムでそのライブラリを使用している箇所を確認することで、迅速にパッチ適用が可能となります。 - 開発初期のセキュリティ強化:開発初期段階からSBOMを作成しておくことで脆弱性の少ないコンポーネントの選択が可能となり、セキュリティリスクを低減します。
さらに構成管理ツールでソースコードを管理し、セキュリティスキャンを自動化することで、開発中のセキュリティ問題を早期に発見し、修正することができます。 - レガシーシステムのマイグレーション:レガシーシステムのSBOMを作成し、脆弱性を洗い出します。そして、構成管理ツールを使用し、マイグレーション後のシステムの構成を管理し、変更の影響を最小限に抑えます。
SBOMと構成管理の連携は、ソフトウェアのセキュリティ対策において非常に重要な役割を果たします。これらのツールを効果的に活用するためには、ツール間の連携、データの一貫性、人材育成の3つの課題を解決することが重要です。今後、AIなどの技術の発展により、SBOMと構成管理の連携はさらに進化し、ソフトウェア開発のあり方を大きく変えていくことが期待されます。
7. まとめ
サイバー攻撃の脅威が増大する中、SBOMはソフトウェアのセキュリティ確保において不可欠な要素となるでしょう。AIなどの技術の進展とともに、SBOMの分析も高度化し、より精度の高い脆弱性予測や、新たな脅威の検出が可能になるでしょう。また、サプライチェーン全体の可視化が進むにつれて、SBOMはサプライチェーン全体のセキュリティを確保するための基盤となることが期待されます。SBOMは、製品開発のライフサイクル全体を通して欠かせない存在です。SBOMを活用することで、企業はより安全で信頼性の高い製品を開発し、提供することができます。SBOMは、単なるセキュリティ対策ではなく、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させるための重要な一歩となるでしょう。
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