スマートマニュファクチャリングソリューション
コラム「いまさら聞けないPLM入門」
~ 導入推進の最前線から ~
第2回 基本中の基本「製品データ管理」①
今回から数回に分けて、PLMを用いてよく取り組まれるテーマについて具体例も交えながら紹介していきたいと思います。
第1回目でお話したように、PLMを使って何に取り組むか?は各社各様となりますが、まずは基本中の基本とも言える「製品データ管理」を今後2回に渡って取り上げていきます。
なお、「製品」といっても皆さまの会社がお客さまに届ける最終製品だけでなく、その最終製品を製作する過程で必要になる金型や治工具、生産ラインなども「製品」と捉えていただいて読み進めていただければと思います。
似たような名前のファイルがいっぱいあるんだけど?
「あなたがCADデータを取り扱っているなら、「似たような名前のCADファイルが至るところにあって、どれが最新版かわからない」といった事態に遭遇したことが必ずあるのではないでしょうか。
ほかにも
- 異なるフォルダに同じ名前のファイルがあるが開くと形状が異なっている
- そもそも設計部門のフォルダにアクセス権がなくて探せない
- 自分のデータを誰かに上書き編集されてしまった
- 知らない間にマスターだと思っていた製品データが別のファイルに変わっていた
などはデータ管理あるあるで、多くの会社で発生している課題です。
これらの課題を解決するためには、製品データのマスター管理は避けて通れません。
なぜ製品データ管理が定着しないのか?
ところが、データ管理を全社レベルでキチンとやっている会社は意外と少ないのが実態です。
必要最小限のデータ管理なら、特別なツールなど使わなくてもフォルダ構成とファイル名のルールを決めて皆が守ればできそうなのですが、そのレベルでも定着している会社は少数派でしょう。
要因の一つは、全社統一ルールを作成するのが難しいということが挙げられます。特にもうある程度CADを導入して時間がたっているような場合は、至る所でローカルルールが生まれていて、その状態からそれらを統合したルールに移行するのは容易ではありません。
別の要因としては、最初にすべてのデータを完璧に管理しようと欲張りすぎてしまうことが挙げられます。仕掛中のデータはさておき、まずは出図対象データだけから管理しようなどの割り切りが必要になってきます。
また、なんとかルールを作成したとしても、皆がそれを守ってデータ登録することを定着させることも大きな課題です。単純なルール遵守ミスもありますし「データ管理しても俺にメリットはない」といった非協力的な声が出てくることもしばしばです。
ルールとツールと状況作り
ですので、製品データ管理を定着させるためには下記の視点での取組を同時に行うことが肝要です。
- 適切な管理ルール作り
- ルール遵守を支えるデータ管理ツールの導入
- ルール遵守しなければいけないという風土作り
それぞれの取組のポイントを整理してみます。
ルール作り
とにかくルールは少なければ少ないほうがよいです。かつ各ルールがシンプルで理解しやすいものであることも重要です。
- 管理対象データを絞る…まずは製品のマスターデータ(出図したデータなど)に管理すべき対象を絞りましょう。それがうまくいったら必要に応じて徐々に適用範囲を拡大します
- ファイル名・フォルダ名や格納場所を決める…一番大切なことは各ファイルがユニークな名前になるようなルールにするということです。これが大原則です。あとはルールが細かく複雑にならないよう、かつ覚えやすい・理解しやすいルールにしましょう。製品データの改訂履歴をどう管理するかという視点も重要です。極力ファイル名が変わらないようなルールにしておくと、後々の管理効率化につながります。
- 共用部品は管理側で準備する…多くのユーザーが利用する規格標準部品や共用部品などがある場合は、運営・管理側で一括準備してユーザーに提供するようにしましょう
- アクセス権を決める…ファイルごとではなくフォルダ単位(しかもなるべく上位階層単位で)で制御するなど、細かくしすぎないようにします。そのルールに収まりきらないイレギュラーなケースが発生したら、もう割りきって考え、PLMツール外で管理してもらうなども手です
ツール導入
バージョン管理やチーム設計などを行う場合には、データ管理ツールが不可欠になってきます。ここではPLMの機能を活用します。PLMは機能が多いですが全部使う必要はなく、自分たちの実現したいことに助けになる機能だけに絞って使うようにします。
- ルールを守りやすくする…フォルダ作成・削除は管理者にしかできないようにする、出図したデータは移動や削除ができないようにするなど、ルールが自然と守れるような設定をしましょう
- バージョン管理を行う…ルール作りでも言及しましたが、極力ファイル名を変更しないで済むよう、ファイル名に日付やバージョンを入れず同一のファイル名でバージョン管理ができるようにPLMのバージョン管理機能を活用しましょう
- ファイル属性を活用する…バージョン管理と同じように、マスター製品データが保有すべき情報(例えば「部品番号」や「設変番号」など)は、PLMの属性機能に持たせたせましょう。属性数は欲張らずに当初は5項目くらいに留めておくのがよいと思います
- ライフサイクルを活用する…設計や開発のプロセスに合わせて「仕掛中」「出図済み」などをライフサイクルとして定義してファイルのステータスがわかるようにしましょう。さらにはPLM側の管理機能を活用し「出図済み」データは一般ユーザーは移動・削除できないなどの権限をつけるとさらに頑健なデータ管理を行えるようになります
管理しないといけない風土作り
残念ながら個人の自主性や善意に頼っているだけでは定着は難しいので、「データ管理しないといけない」、「ルールを守らないといけない」という状況を作り出すことにも並行して取り組みます。
- 強制力を効かせる…ルールを遵守していないと出図を受け付けないようにするなど、ルールを守らないと仕事が進まない状態にしてしまうのが最も効果的です
- データ登録可能場所を制限する…ローカルのデータ登録場所をなくしてしまう、メールに添付できないようにするなどPLM外でのデータ管理・流通をする手段をなくしてしまうのも効果的です
- ルール遵守をサポートする…定期的に登録データのルール遵守状況をチェックし違反している場合は指摘してユーザー自身に修正してもらうようにします。またデータ管理ツールの使い方をCAD操作の教育に組み込むなどして当たり前にやるべきことという意識づけをしましょう
これらはほんの一例ですので、みなさんの会社の製品や文化に即したルール策定やPLM機能活用をご検討ください。
製品データ管理ができればPLM活用の道が開ける
データ管理は展開当初には現場から反発ができるかもしれません。わたしの経験でも展開当初は設計者から苦情の電話を多く受けました(なかにはごもっともな意見もありましたので、展開しながらもルールを追加・見直しました)。しかし数年してルールが定着すると、逆に設計者から「CADは管理ルールがしっかりしているので欲しいデータがすぐ見つかるけど、ほかのデジタルデータは全然探せない。同じようにルール決めてほしい」と依頼されたときは苦労が報われたなと感激したのを覚えています。
そういった苦難をへて製品のデータ管理、特に出図したデータのマスター管理ができるようになると、PLM活用の道が広がります。部品表と連携させたり、そのほかのデータと紐づけたりすることが容易になってきますし、いわゆるデジタルツインの整備もより簡単・確実に行えるようになります。
もちろんデータ作成者にとっても、データを探す時間や問い合わせ受ける時間、間違ったデータで作業してしまう手戻りがなくなるなどのうれしさが出ます。
最初は大変だけど必ず効果が出るのがデータ管理ですから、PLM活用を検討されていてまだ製品データ管理が十分でない場合はまずここから取り組んでみてはいかがでしょうか?
連載コラム「いまさら聞けないPLM入門」の第2回「基本中の基本「製品データ管理」」は以上になります。地味ですが、PLM活用・DX推進には必須の取組なので是非まだの方は取り組んでみてください。次回は、この「製品データ管理」をもう一歩踏み込んだお話しをしたいと思います。
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