スマートマニュファクチャリングソリューション
コラム「いまさら聞けないPLM入門」
~ 導入推進の最前線から ~
第5回 「データ一気通貫」でデータを活用しつくす ~シミュレーションを活用した試作レスへのチャレンジに向けて、必要な取り組み~
みなさま「一気通貫」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?もともとは麻雀の役の名前ですが、ビジネスシーンでは物事の初めから終わりまでを一気に進めるとか一貫して取り組むなどの意味で使われることが多いようです。
この「一気通貫」という言葉がPLM導入のときにもしばしば登場します。そのときは「データ」と組み合わされて「データ一気通貫」という言葉で利用されます。PLMで管理しているデータを製品の企画・構想段階から販売・保守に至るすべての工程で共有して使う、といった意味合いで利用されています。まさにこれは製品ライフサイクル管理(Product Lifecycle Management)そものものを指しています。
今回はその「データ一気通貫」という考え方についてご紹介します。これは次回詳しく紹介する予定のシミュレーションを活用した試作レスプロセス実現に向けても非常に重要なテーマとなりますので、基本的な考え方をしっかり理解していただけるよう、丁寧にご説明したいと思います。
知らないうちに形状変わってるんだけど?
ものづくりの工程において、工程間の意志疎通が不十分で手戻りが発生することは日常茶飯事ですよね。
- こないだもらった図面と形状が違う。勝手に変えないでよ
- なんで設計はいつも作りくい構造・形状で出図してくるんだ?
- まだ設計検討中なのに、そんな詳細な型設計始めないでよ
などといった会話に代表されるように、情報やデータへの認識違いによる作業の手戻りは枚挙にいとまがありません。データを作る人と使う人の意思疎通が十分できていない状態でデータを共有してしまうと、かえって手戻りが増えてしまう可能性があります。
それらの意志疎通上の齟齬をなくして、データのいまの素性を関係者が正確に理解し、その素性にあった使い方をするようになれば、手戻りすることなく前後工程の作業を同時並行で行うことができるようになります。ただ単にデータが共有されているだけでなく、同じデータを使ってあらゆる工程で同時並行作業ができているこの状態こそが「データ一気通貫」ができている状態と言えるでしょう。
先回までのコラムで紹介した製品データのマスター管理ができるようになったら、次はぜひこの「データ一気通貫」にチャレンジしてみてください。取組むときのポイントいついて、このあと説明していきたいと思います。
なぜデータ中心の仕事ができていないのか?
「データ一気通貫」プロセス、言い換えればデータを中心に仕事を回すプロセスを実現するためには、完成前のデータを公開・共有することが必要となります。例えば設計図面を正式出図する前の検討状態の図面や3Dデータを共有するといったことです。しかしながら、この最初のステップで躓いてしまうことがよくあります。そこには心理的な障壁が存在していることは間違いありません。
検討状態のデータを公開・共有しても、データの作成者にしたら「あーしろ、こーしろ」という指示が色んな部署から飛んできたり、「おい何勝手に先週から形状変えてるんだ」とか言われたりするリスクが出るだけで、うれしさがなさそうに思えます。だったら完成するまで見せないでおこうという思考になってしまい、データの公開・共有が進まない、あるいは公開・共有のタイミングが遅くなってしまうという事態に陥ってしまいます。
ですので、まず着手すべきは共有・公開に向けた心理的な障壁をなくすこと、になります。ここをクリアーしないことにはデータ中心に仕事を回すことができません。
データ一気通貫の実現のために
データ作成者にデータを共有・公開する気になってもらうには、①データがおかしな解釈や使われ方をしない、②共有・公開したらメリットがでる、という状態にする必要があります。
① データがおかしな解釈や使われ方をしない
そのためにまずはルールを決めましょう。PLM上のCADデータに定義したライフサイクル属性に意味付けを行い、その意味についてデータを利用する全員が理解することが最初のステップです。例えば、PLM上のCADデータに「検討中」「設計中」「出図済み」などのライフサイクル属性を付与して下記のような意味付けを行うことが考えられます。
- 検討中…まだ設計方針が固まっておらず、大規模変更の可能性もある
- 設計中…設計方針は決まったが、詳細設計途中
- 出図済み…出図されたデータ
データを利用する人は、このライフサイクル属性を確認することで、「検討中」なので型設計には着手しないでおこう、などといった判断ができるようになります。さらにライフサイクル属性に応じてPLMシステム側でアクセス権限などを設定すれば(例えば、「検討中」データは設計と生技部門しかアクセスできないようにするなど)、より確実にデータの誤用を防ぐこともできます。
また、ルール制定だけではなく、例えば出図前に設計部門と生技部門でレビューしあう場をオフィシャルに設定するなどのプロセスを作ることも有効です。ルールで基本的な認識を合わせたうえで、細かなことは実際のコミュニケーションで補完するという考え方です。ただしその場では、参加者全員がよりよい製品をお客さまに届ける意識を持ち、協調してよりよいデータに仕上げていくという雰囲気づくりを心がけます。データ作成者を批判する場・糾弾する場になってはいけません。
② 共有・公開したらメリットがでる
共有・公開するということは、関係者が同時並行で作業を行うことができるようになるということです。その関係者が享受するメリットをデータ作成者にも還元することが重要です。後工程からのフィードバックを早期に行う(ただし、これは逆効果になる可能性も秘めていますので、設計進捗・成熟度に合わせた内容のフィードバックを行うよう工夫が不可欠です)、出図からモノができるまでの期間が短くなるので出図時期をうしろにずらすなどの業務プロセスの見直しを行いましょう。
そして、データが共有・公開される環境を整えると同時に、そのデータを有効活用する仕組み作りにも着手します。具体的には、③同時並行作業のプロセスを考える、④参照元データの更新にすぐに気付けるようにする、⑤参照元データ利用者は更新に強いデータ作りを行う、などの仕組み作りが必要になってきます。
➂ 同時並行作業のプロセス
作業の並列化はプロセス改革の常套手段ですが、手戻りのリスクが付きまといます。リスクを避けるためには、現状の作業プロセスをDSM(Design Structure Matrix)などを使い分析し、極力手戻りが少なくて済むような作業プロセスに再構築する必要があります。同時並行で作業すると効果が高い作業、前工程がFIXしてから作業しないと手戻りが大きい作業などを認識することが重要です。
④ 参照元データの更新にすぐに気付ける
例えば金型設計などは、設計部門の作る製品データを参照して行われると思います。このような場合は、その製品に変更が入ったら、すぐにわかる・気づけることが同時並行作業の重要ポイントです。これらの実現にはPLMの機能活用が有効です。いつだれがどのデータを修正したか、あるいは修正しようとしているかなどをリアルタイムで把握できます。さらに先回コラムのテーマでもある「部品表連携」をしておくことで、これらから行おうとしている変更がどこまで影響を与えるのか?を事前に確認することもできるようになります。とはいえ、人と人がやることですので、システムだけに頼り切らずに日ごろからコミュニケーションをとって状況を共有しておくことも重要なことは言うまでもありません。
⑤ 参照元データの更新に強いデータ作りを行う
これはCADデータのモデリング手法の話となってしまいますが、参照元データに変更が入ったら金型データ全部作り直し、では逆に作業効率が悪くなってしまいますので、その影響範囲を最低限にとどめる変更に強いCADデータのモデリングが必要です。PLMベンダーなどはそういったモデリングテクニックや知見を豊富に持っていますので、相談してみるとよいアドバイスがいただけるでしょう。
データ一気通貫の実現はプロセス改革そのもの
いかがでしたか。
PLM導入の目的のひとつにプロセス改革を掲げられることがよくあります。その実現には、この「データ一気通貫」の業務プロセスへの移行が鍵となります。そしてこの「データ一気通貫」を支えるのは「製品データ管理」であり「部品表連携」です。
連載コラム「いまさら聞けないPLM入門」の第5回「「データ一気通貫」でデータを活用しつくす」は以上になります。このあたりまでできるようになると、ただデータ管理しているという状態からステップアップして、データ中心に仕事が回り始めていることが実感できる機会が増えてきます。その様子を見て、この仕事もデータ使ってやれるようにしたいといった声がでてくれば、PLMの活用範囲もどんどん広がります。そのような状態めざして「データ一気通貫」に取り組んでみてください。
次回は、この「データ一気通貫」の一部であるシミュレーション技術活用にフォーカスをあてたいと思っております。
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