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#1:なかなか浸透しなかった企業のテレワーク推進、大企業と中小企業で差がつくペーパーレス化や業務改善

連載:テレワークの専門家に聞いた!中小企業のワークスタイルの変化と、ニューノーマル時代の勤怠管理や労務管理について

リシテア/就業管理クラウドサービス」より専門家によるコラムのご紹介です。
新型コロナウイルス感染拡大によって緊急事態宣言が発令されたこともあり、2021年現在、多くの企業が「テレワーク」という働き方を導入しています。しかし、大企業と中小企業の間には、テレワークに対する意識や取り組みに大きな差が見られると、6年以上テレワークの普及活動を行ってきた株式会社ルシーダ 代表取締役社長/(一社)日本テレワーク協会客員研究員、国家資格キャリアコンサルタントの椎葉怜子さんは話します。その意識の差が生じる背景には、どのような問題があるのでしょうか。

監修者

株式会社ルシーダ 代表取締役社長
(一社)日本テレワーク協会客員研究員、国家資格キャリアコンサルタント

椎葉 怜子

2012年、情報システム学会で「ICT(情報通信技術)活用による女性の働き方研究会」を発足。2014年、日本テレワーク協会の客員研究員に就任。以降、テレワーク関連省庁、東京都のテレワーク普及促進事業に携わる。2015年よりテレワーク先進企業の経営者・人事担当者を対象とする研究会の部会長として研究活動を行う。2020年7月 、研究成果レポート「経営・人事戦略の視点から考えるテレワーク時代のマネジメント改革」を発表。著書:「テレワークで働き方が変わる!テレワーク白書2016」(共著/インプレスR&D)、「テレワーク導入・運用の教科書」(共著/日本法令)。

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東京五輪、働き方改革関連法案よりも企業の意識を変えた“新型コロナウイルス感染拡大”

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークへの注目が高まりましたが、実はそれ以前から、政府が掲げる「働き方改革」の取り組みに意欲的な首都圏の大企業ではテレワーク制度の導入が進んでいました。そのきっかけとしては、2つの事柄があります。

1つは、2020年に開催予定だった東京五輪の開催時における交通混雑緩和を目的としたものです。2017年には、東京五輪の開会式として予定されていた7月24日が「テレワーク・デイ」と設定され、2020年までの毎年、企業等による一斉テレワークが実施されることが決まりました。2019年には7月22日~9月6日の約1ヶ月間が「テレワーク・デイズ2019」実施期間と設定され、5日以上のテレワークの実施が呼びかけられました。この取り組みには東京都の大企業を中心に全国の2887団体、約68万人が参加しています。

もう1つは、「残業時間の上限規制」や「有給休暇の取得を義務化」など8つのテーマに分かれている「働き方改革関連法」が、2018年6月に国会で成立したことです。2019年4月より大企業から順次施行されたこともあり、法律を遵守するために働き方改革の取り組みが強化され、勤怠管理の方法も見直されるきっかけになりました。テレワークが社員のワークライフバランスや生産性を向上させる働き方の手段として期待され始めたとともに、テレワークでも適正な労働時間管理ができるような勤怠管理への注目が高まり始めたのです。

とはいえ、テレワークに積極的なのは、ほんの一部の大企業だけでした。世の中の大半の企業からは「テレワークって何ですか?」と聞かれることが多く、イメージしてもらうことさえも難しい状況にありました。

私が客員研究員をつとめる、テレワークを普及・啓発するための団体「一般社団法人 日本テレワーク協会」でさえも、各自が自宅やサテライトオフィスでテレワークすることはあっても、社外の方にはweb会議での打合せを提案しづらい雰囲気がありました。コロナ前からテレワークが定着していた企業でも、社内のメンバー間ではweb会議で打合せを行っていたけれど、テレワークに不慣れなお客様にはweb会議での面談を依頼できなかったと聞きます。

この企業間に流れていた雰囲気を即座に変えたのが、新型コロナウイルスです。2020年4月以降、企業のワークスタイルに対する意識は激変しており、オフィスワークであればテレワークでも社内外の業務ができることがわかり、大手電機メーカーや大手食品会社なども、テレワークを前提とする働き方へのシフトを表明する企業が出てきています。

コロナによるテレワークの浸透は、出社を大前提とした日本特有の固定的な働き方という岩盤を砕くほどの強烈な効果があったと思っています。

生産性が高い形で働ける準備が着実に整ってきている大企業と、急ごしらえで在宅勤務をはじめた中小企業の差

テレワークに対する世の中の雰囲気は明らかに一変しましたが、大企業と中小企業には、意識や取り組みの差が顕著に見られました。

出社時の生産性をキープするため、業務の見直しが進む大企業

日本テレワーク協会でも、大企業の人事の方々からは「これまで苦労して進めてきたテレワーク推進の取り組みがコロナを機に劇的に進んだ」という話をよく聞きました。私の感覚値では、大企業は2020年春の緊急事態宣言以降、非製造業では出社率を3割以下に抑えている企業が多い印象があります。

大企業ではテレワークが多くなっても生産性の高さをキープしたまま働けるよう、急ピッチで業務改善が実施され続けています。具体的には、出社を前提としたワークフローの見直しや、経費精算・人事業務などハンコを必要とする業務のクラウド化、契約締結の電子化などです。働き方改革と業務のデジタル化(DX)が、ハイスピードで進められています。

テレワークを本格導入するか出社に戻すか 二極化してきた中小企業

一方、コロナ以前からテレワークの導入を進めていた中小企業は非常に少なかったです。私は世の中のテレワークの取り組みについてずっと注視してきましたが、他社のお手本となるような中小企業の取り組み事例を見つけるのはとても難しかったです。

その背景には、やはり大企業と違ってテレワークの導入準備にかけられる人材や資金、IT活用のノウハウ等のリソースが限られていることがあるでしょう。中小企業には、「テレワークはパソコンやセキュリティなど、とにかくお金がかかるもの」とか「自社にはテレワークできる業務がない」という漠然とした思い込みがあったからだと感じています。実際は「紙」と「ハンコ」前提の業務フローの見直しや自社サーバーを保有する必要がないためオンプレミス型サービスより初期導入費用がかからないクラウドツールの活用などの方法を取ればよいのですが、それ以前に思い込みが先行していた印象です。

そのため、昨年春の緊急事態宣言が発令されてから、慌てて“見切り発車”で在宅勤務を行った結果、テレワークに適したIT環境の整備や、web会議の活用、テレワーク時の勤怠管理などで非常に苦労された企業が多い印象です。現在、中小企業では、コロナを機にテレワークの導入を本格的に検討するように変わっていった企業と、「紙」や「ハンコ」、「対面」を重視した働き方から抜け出せず、テレワークでは「生産性が低くなる」として出社前提の働き方に戻してしまった企業に分かれてしまっているようです。

テレワーク導入のため、企業のペーパーレス化やクラウド化はどんどん進められている

通常、テレワークを導入する企業は、数カ月~1年程度のトライアル期間を設けてルール作りや遠隔でも使用できるチャットツールなどの導入、ペーパーレス化、意識改革などを段階的に進める必要があります。

昨年4月の緊急事態宣言を機に初めてテレワークを実施した企業では、通常の準備期間がないまま見切り発車で在宅勤務に突入したので、「生産性が下がった」という企業が少なくありませんでした。特に、ペーパーレス化やクラウド化を進めてこなかった会社では「紙」と「ハンコ」がテレワークの大きな阻害要因になりました。

これは中小企業に限った話ではなく、以前からテレワークを推進していた大企業さえも、緊急事態宣言中は紙の仕事が欠かせない経理や総務の社員は出社しなければならない状況だったため、「宣言終了後にまず取り掛かるのはペーパーレス化だ」とおっしゃっていました。

新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、「まずは社内手続きをどんどんペーパーレスに、ハンコレスに変えていこう」という機運自体は高まっていると感じています。

消極的な経営者には、まずテレワークに必要なツールを試してもらうのが有効

とはいえ、テレワーク自体にまだまだ消極的な考えを持つ経営層や管理職層は多いのではないでしょうか。今後テレワークをさらに推進するためには、テレワークを実施するために必要なツールを一度体験してもらうことが有意義です。

東京テレワーク推進センターでは、定期的に東京都内でテレワークの体験会を実施しています。クラウドの就業管理システム、チャットツール、Web会議システムなどが使えるPCを用意して、“1日のテレワークの流れ”を体感していただくと、中小企業の経営者の方も「テレワークにすると社員がサボるイメージがあったけど、休憩中など在籍確認ができるのは便利」「Web会議でミーティングをすれば、遠隔でも社員とコミュニケーションが取れそう」とポジティブな反応があるそうです。

参考に、テレワークを上手に導入している中小企業の事例を紹介します。石川県にある社員数約100人の製造業の会社は、社内の手続きをテレワークでも効率的に進められるよう、クラウドの就業管理ツールを入れ、さらに領収書をスマートフォンで撮影して経費精算できるクラウドツールも入れています。

クラウドサービスは自社で開発するよりもコストが安く、スピーディーに導入できます。業務フローをクラウド化した結果、業務効率も上がったそうです。興味を持たれた経営層や管理職層の方は、「業務効率の改善」という視点で勤怠管理や経費精算のクラウドツールについて調べてみられてはいかがでしょうか?

まとめ:業務の棚卸やクラウドサービスの試用など、多様な働き方に対応するためにできることから始めよう

新型コロナウイルス感染拡大によって、時勢が大きくテレワークを推奨する流れへと変化しました。しかし、企業はテレワーク推進をコロナ対策のための“一時的措置”としてとらえてはいけません。今後、働く人たちのワークスタイルはますます多様化していくと考えられるため、企業は社員1人ひとりが主体的に活躍できるための“働き方改革”を行う必要があるととらえた方がよいでしょう。

その改革の第一歩として、まずは「紙」と「ハンコ」を前提とした業務フローを洗い出し、業務の棚卸しを行いましょう。ペーパーレスを徹底し、押印を前提としていた稟議書などの社内手続きはワークフローに特化したクラウドサービスに置き換えるのも一手です。勤怠管理などの人事労務や経費精算についても、中小企業をターゲットとしたクラウドサービスが多数リリースされていますので、サービスの比較検討を行い、トライアルとして活用されてみることをおすすめします。

記事公開日:2021年6月14日

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