業務の自動化に革新をもたらすiPaaSとは? -前編-
皆さまは「iPaaS」という言葉をご存知でしょうか。正式に記述すると「Integration Platform as a Service」となり、Integrationという「統合」、「統一」というキーワードが入っているように、複数のクラウドアプリケーションや業務システムを統合するサービスです。そしてこの統合する仕組み、つまりサービスやシステム間の連携については、システム開発レベルの品質で実現することができます。詳細については後ほど解説しますが、たとえばiPaaSを利用すれば、次のような場面で効果を発揮します。クラウドサービスを利用している業務を自動化しているが、ある日突然クラウドサービスの画面デザインが変更された場合です。一般的なRPA製品による自動化はPCのデスクトップ上に表示される操作ボタンや入力項目などを画像として認識しているため、画面のデザイン変更や新機能の追加などが行われると、RPAロボットは変更に追随することができません。
現在多くの企業のテレワーク実施に伴いクラウドシフトが進む中、この問題は今後RPAによる業務の自動化に大きな壁となって立ちはだかることでしょう。
今回はこのような問題により「RPA導入後に期待したほどの自動化ができない」「RPA運用にともなうロボット管理が業務負担となっている」などRPAのみで業務を自動化した場合に生じる課題や、それに対する解決の切り札としてiPaaSソリューションをご紹介します。 RPAによる業務自動化や効率化に課題を抱えている担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
APIエコノミー・iPaaSとは?RPA導入企業の課題解決方法への道筋について
RPA導入時には、想定していなかったクラウドサービス側のエンハンスの影響による、ロボットの監視やメンテナンスなどの管理工数の増加や、イントラ内にある社内システムにおいても大量のデータ処理に時間がかかり、期待していたほどの作業時間の削減効果が得られないなどの問題に直面されている方もいるのではないでしょうか。このような問題に対してはRPAに固執するのではなく、RPA以外の自動化手段も選択肢に加え適材適所で、自動化を実現することが望ましいと言えます。
自動化の手法としてRPAのようにPCのデスクトップ上で人が行なう操作を模倣するのではなく、クラウドサービスや業務システムとの連携にAPIを利用します。
APIとは「Application Programming Interface」の略で、あるソフトウェアやサービスの機能を呼び出して利用したり、情報をやりとりしたりする仕組みです。そして、その仕組みを利用してクラウドアプリケーション間およびクラウドサービスと企業システム(オンプレミス)間の統合環境を構築し展開するためのプラットフォームがiPaaSです。
たとえば特定の条件に合った顧客を抽出し、その顧客リストに対して定期的にメールを送信する作業は、RPAだけでもできるでしょう。しかし送信に使用しているメールアプリの画面仕様が変更になった場合は、RPAロボットのシナリオを変更された画面に合わせて修正しなければ、正しく動かなくなってしまいます。もしメールアプリのAPIが提供されているのであれば、iPaaSを利用することで、画面仕様変更時の影響を受けてロボットが停止するようなことがなくなります。さらにAPIを利用した連携はPCのデスクトップを経由せずに内部的にデータのやり取りが行われるため、RPAに比べても処理速度が圧倒的に速いこともメリットです。
ちなみに、自社システムのAPIを公開することで、他社がそれを利用しさらなるビジネスに広がっていく商圏をAPIエコノミーと言います。身近な事例としては、企業や飲食店などのウェブページに所在地を地図上に表示する際に利用されている「Google Maps API」が代表的です。同APIを使用することで、自前で地図を用意しなくても、所在地を正確に伝えられるだけでなく、Google Mapの機能を利用して、最寄り駅からの道のりや周辺情報まで表示させることができます。
このような仕組みを業務システムに利用することで、業務の自動化や生産性向上への取り組みについて、より一層スピード感を持って推進できるようになります。
iPaaSの活用が進んでいる欧米企業
iPaaSによる業務の自動化を解説する前に、日本ではあまり知られていないiPaaSですが、比較的利用が進んでいる欧米の企業ではどのようなシステムに適用しているのでしょう。いくつかのシステムをピックアップして、RPAとのすみ分けも含め日本企業と比べてみたいと思います。
まずは日本企業がRPAを適用することが多いシステムは以下になります。
- レガシーシステム
- Excel連携
- ERPシステム
- クラウドアプリケーション
これら以外のシステムについては、従来どおりシステム開発[ExcelについてはVBA(Visual Basic for Applications)含む]や人の手作業により実行されています。
次に欧米企業がRPAを適用することが多いシステムです。
- レガシーシステム
- Excel連携
- ERPシステム(APIを実装していない場合)
これだけを見るとRPAの適用システムが多い日本企業の方が業務の自動化が進んでいるように思われるかもしれませんが、欧米企業ではさらにiPaaSおよびチャットボットを利用することで以下のシステムの自動化も進めています。
- ERPシステム(APIを実装している場合)
- クラウドアプリケーション
- マイクロサービス
- 人の判断が必要な業務フロー
iPaaSを適用しているシステムの選定基準は、APIを実装しているか否かになります。
ちなみにマイクロサービスとは、機能のみが提供されAPIで利用するサービスです。ユーザーインターフェイスが提供されないため、当然RPAは利用できません。また人の判断が必要な業務フローについては、ビジネスチャットと対話しながら人の判断を業務フローに反映させる仕組みで自動化を進めています。チャットボットについては、日本企業でもコロナ禍でテレワークが進んだことで、ビジネスチャットが急激に普及したこともあり、チャット上で動作するチャットボットは身近になりつつあります。ただし、総務省の調査によるとビジネスチャットの普及率は、日本が23.7%であることに対して米国は67.4%、英国は55.9%であることから業務での利用も欧米企業の方が先行しているようです。
このように、欧米企業ではシステム開発以外の自動化手段として、RPAとiPaaS(チャットボット含む)の2択という考え方で、対象システムに対して自動化に適したテクノロジーを使い分けています。
iPaaSによりクラウドアプリケーションをより便利に使いこなす方法
さらに、iPaaSのメリットをクラウドアプリケーション連携の観点で解説しましょう。
皆さまが業務でクラウドアプリケーションを利用する際、以下の手順で利用するのが一般的ではないでしょうか。たとえばSalesforceなら、最初にサービスにログインを行い、メニュー画面からタブを選択し、ダッシュボードや案件など目的の情報にアクセスし、データ登録・更新や集計などを行うと思います。さらにプロジェクトの進捗をガントチャート形式で管理するような場合は、プロジェクト管理システムにログインし、メニュー画面から…、というように目的の情報にたどり着くまでに複数の画面をたどっていきます。当然ですが各クラウドアプリケーションによりインターフェイスや機能も異なり、それぞれ操作を覚えなくてはなりません。クラウドサービスのためカスタマイズができないという前提で考えれば、これらの操作は当たり前だと思われがちですが、実はiPaaSを利用すればもっと便利にクラウドアプリケーションを使いこなすことができるのです。
先ほど、欧米はビジネスチャットが普及している話をしましたが、たとえばビジネスチャット(Slack社の「Slack」やMicrosoft 社の「Teams」など)をインターフェイスに必要な機能を各アプリケーションから部分的に切り出して利用しています。そのため各アプリケーションにアクセスし、ログインすることなくビジネスチャット上で業務を実行します。
経費精算処理を行うために利用する文書管理や経費精算、案件管理など、複数のサービス・システムをiPaaSで連携させることで、社員が経費精算を申請すると管理者は申請内容の確認、承認、差戻しの一連の作業をSlackやTeams上で完了することができます。
実はクラウドアプリケーションを提供するベンダー側も、このような使い方を想定し豊富なAPIを提供しており、マイクロサービスが標準インターフェイスを持たないのもこのためです。日本では馴染み(なじみ)のないマイクロサービスですが、特に米国マーケットはさまざまな機能に特化したマイクロサービスベンダーがしのぎを削っています。ユーザーインターフェイスを持たないことで、ベンダーはコア機能の開発にリソースを集中し、いち早くマーケットインできるメリットがあります。近い将来、iPaaSの普及に伴い日本でも魅力的なマイクロサービスが販売されるようになると思われます。
さまざまな iPaaS製品が存在
ところで、iPaaS製品には具体的にはどのようなものが存在するのでしょう。
以下に代表的な製品を記載します。
- Zapier(ザピアー)
- Workato(ワーカート)
- IFTTT(イフト)
- Informatica(インフォマティカ)
- MuleSoft (ミュールソフト)
- Dell Boomi(デルブーミー)
- Power Automate(旧Microsoft Flow)(パワーオートメイト)
各製品により、カスタムマッピング重視のクラウドETL/ELT型の製品や、定型処理の業務フローを利用するレシピ型の製品に分類されます。また、提供しているコネクター(利用可能なAPI)にも特徴がありますので、自社の目的に応じて最適な製品を選択するのがよいでしょう。
次回は本テーマの後編として、iPaaSを適用した具体的な業務とソリューションをご紹介します。
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