業務の自動化に革新をもたらすiPaaSとは? -後編-
前編ではiPaaS(Integration Platform as a Service)の概要や、利用が進んでいる欧米における活用方法などを解説しましたが、今回は後編として特定のiPaaS製品をクローズアップし、機能や具体的な活用事例をご紹介します。
本題に入る前にウォームアップも兼ねて、“なぜRPAではなくiPaaSなのか”について解説したいと思います。
RPAによる自動化の限界とは?
業務の自動化においてRPAでは困難な要件を以下に記載してみました。
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大量のデータ処理
RPAはPC上の人の操作を再現するテクノロジーであるため、システムに入力するデータ量が膨大であれば、当然処理にも時間がかかります。
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対象システムのアップデート
対象システムがクラウドサービスの場合、サービスベンダー側の都合でアップデートや改修が行われるため、画面デザインの変更や新機能の追加にRPAは追随できません。
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イベントによる実行
基幹システムやクラウドアプリケーションなどのデータ処理の完了や特定機能の操作(例:案件ステータス変更やファイル登録・更新、承認、メール受信など)に連携するような、対象システムの内部的なイベントをトリガーに実行する機能は実装していません。
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人の判断や承認が必要な業務フロー
RPA単体では人が行うような高度な判断は難しいため、人の判断や承認が不要な業務フローのみが自動化の対象となります。
これらのRPAで実現することが困難な要件を自動化できるのがiPaaSです。
では、技術的な仕組みとしてRPAと何が違うのでしょうか。
RPAとiPaaSの違い
iPaaSは各システムが提供しているAPI(Application Programming Interface)を利用し、システムと内部的にデータ連携を行うため、大量のデータであっても高速に処理を完了することができ、RPAが苦手な「システム画面のデザイン変更」の影響も受けません。また、APIによりシステムの機能を呼び出すことで、システムの内部的なイベントをトリガーに業務フローを自動実行することも可能です。
人の判断や承認が必要な業務フローの自動化に関しては、チャットボットと連携することでチャットボットが人とのインターフェイスになり、業務フローに人の意思を反映することが可能になります。チャットボットとの連携もAPIを利用するiPaaSだからこそ、容易に実現できるメリットと言えるでしょう。
iPaaS製品選定のポイント
国内で購入できるiPaaS製品にはさまざまなものがあります。今回は企業の一般的なバックオフィス業務やフロントオフィス業務を自動化することを目的に、製品選定のポイントを以下に記載します。
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対応システム・サービスが豊富
APIを利用してさまざまなシステムやサービスに接続できることがiPaaSのメリットなので、そのメリットをいかすためには標準でAPI接続を可能にする部品(iPaaSでは「コネクタ」と呼びます)を豊富にそろえていることが重要です。
また、iPaaS製品の中には、クラウドサービスの統合のみにフォーカスしていて、オンプレシステムとの接続が考慮されていない製品もあります。オンプレシステムと接続が必要であれば、そのための仕組みも標準で実装している製品を選ぶことが重要です。
さらにオンプレシステムにはERPパッケージやその他の業務アプリケーションなどさまざまなシステムが含まれており、標準コネクタで対応しきれないこともあるため、必要なコネクタを個別に作成できる機能も不可欠です。 -
すぐに使い始めることができる導入・活用の容易性
一般的にiPaaSの導入後には、環境準備やユーザー教育、レシピ(RPAに例えると「シナリオ」に相当するアクションを記述した業務フロー)作成など、時間と工数がかかります。これらの作業を省力化するためには、システムとの接続に特別な構築が不要で、ユーザー操作が直感的であり、レシピについてもサンプル数が多いことがポイントです。また、サンプルレシピについてはメーカーが提供するもの以外にも、他ユーザーや販売パートナーが作成したものが日々拡充されていく、コミュニティの存在も重要な選定基準になります。
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iPaaS以外の機能の有無
人の判断や承認を業務フローに反映させる機能として、チャットボットとの連携のお話をしましたが、この機能はiPaaS製品に実装されていればさらに利便性も高いといえるでしょう。また、業務フロー全体の中にはAPIを持たないようなレガシーシステムとの連携や、Excelを活用する業務などは、RPAの方が適しているものもあります。そのためRPAと連携が可能であることもポイントです。
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その他のチェック項目
その他のチェック項目として、導入実績や購入後にも安心できるサポート体制、製品の将来性および製品戦略、もちろんライセンス体系や価格も重要な要素です。
Workato(ワーカート)の特徴
iPaaS製品の代表例として、米Workato社のWorkatoをご紹介します。
Forresterなど著名なレポートにおいてWorkato社はリーダポジションに属しており、iPaaS製品の中でもトップレベルの製品です。
製品の最大の特徴は、クラウドサービスと連携するためのコネクタが標準で400種類以上提供されているため、ほとんどのクラウドサービスと連携することが可能です。また、レシピについても25万以上のコミュニティレシピが提供されており、自由に使うことができます。レシピ作成はトリガーやアクションを選択するだけのローコード開発であることもあり、高い生産性を実現することができます。
その他の機能として、人と連携するためのチャットボット機能や、社内システムと連携するコネクタが用意されていることも他のiPaaS製品にはないWorkatoの特徴と言えます。
Workatoの活用事例
Workatoを導入した企業が実際にどのような業務に利用しているのか、事例をご紹介します。
なお、各事例における企業名については匿名とし、業態および業種のみとさせていただきます。
事例1:ベーカリーカフェ
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(Workatoを適用した業務)
保守業務におけるIoT端末の故障検知&保守サービス会社への通知
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(業務の詳細)
4,000店舗に設置しているIoT端末(お客様がメニューをオーダーする端末)20,000台のログをSplunkにより収集し、ビッグデータ分析システムにて故障を自動検知。
検知した故障データをServiceNowに自動登録し、サポートチケットを自動作成。
故障の内容に応じて保守サービス会社へ障害データを自動通知。
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(効果)
Workatoが各システムのデータを収集しServiceNowに登録することで、人手をかけることなくIoT端末の故障対応を行うことが可能になり、またIoT端末の故障を未然に防ぐことで、お客様や店舗に負担をかけないことによる満足度向上を図ることができました。
事例2:物流会社
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(Workatoを適用した業務)
各取引先の注文データの取得と請求データ処理(RPA連携事例)
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(業務の詳細)
RPAを利用し各取引先のシステムにログインを行い、注文データを自動取得。
取得した注文データを基幹システムに自動登録し、配送データを作成。
会計システムとの連携を行い、請求データ処理を自動化。
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(効果)
基幹システムとの連携に関して、インターフェイスを独自で開発する場合は、2.8人月を必要としましたが、Workatoにより4時間で実現。
会計システムとの連携に関しては、レシピを2.5日で作成できたことからシステム開発工数の低減により600万円のコスト削減に成功しています。
事例3:通信インフラ向け半導体製造会社
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(Workatoを適用した業務)
新入社員の採用~入社までの各種手続
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(業務の詳細)
人事部門にて、採用した新入社員の情報(名前、職務、配属先部署名など)をWorkdayに登録。
Workdayに登録された新入社員情報をServiceNowに自動登録し、IT機器(PC、スマホ、タブレットなど)、事務用品(机/椅子、キャビネット、消耗品など)の手配や、VPN設定などを自動で実行。
並行して、Workdayに登録された新入社員情報をOktaに登録し、各システムへのアカウントを自動で作成。
機器の手配とアカウント登録が完了すると、結果をマネージャーにメールで自動通知。
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(効果)
新入社員を採用する度に人事部門や総務部門が手作業で行っていた、各種手続きを自動化することで、担当者の作業負荷の低減と、人的ミスにによるトラブルを解消。
事例4:会計ソフト販売会社
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(Workatoを適用した業務)
IT部門における社員のIT機器/ソフトウェアの申請受付・承認業務
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(業務の詳細)
社員(8,000人)がチャットボットを利用しSlack上でIT機器/ソフトウェアの申請を行うと、社員の申請情報はServiceNowに自動登録・管理される。
申請情報はIT部門に通知され、チャットボットにてSlack上で承認を行う。(標準的な申請はルールに基づき自動承認される)
承認が完了するとServiceNow上のステータスが完了に自動変更され、申請した社員に作業完了が自動通知される。
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(効果)
年間60,000件の申請処理を手作業で行っていましたが、WorkatoによりIT部門の作業時間を40%省力化し、年間に換算すると3万時間の作業時間を削減することに成功。
事例5:ITインフラサービス提供会社
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(Workatoを適用した業務)
社員の不正対策などセキュリティ強化
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(業務の詳細)
Boxにて管理しているファイルの不適切なダウンロードをSplunkにて検知すると、ダウンロードを行った社員の上長をWorkdayで検索し、行動内容をチャットボットがSlack上で自動通知。
上長はその行動内容に対する判断結果をSlack上でチャットボットに回答。
上長が行動内容に対して不正と判断した場合は、Oktaのアクセス権限を自動で変更し、直ちに当該社員のアクセス権限を失効。
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(効果)
競合他社へ転職を予定している社員が、機密情報や業務ノウハウ情報などを持ち出すことを未然に防ぐことに貢献。
また、社員のセキュリティ意識が高まり、結果的に業務の生産性が向上。
まとめ
前編、後編と2回にわたりiPaaSの概要と代表的な製品であるWorkatoをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
依然として新型コロナウイルスの終息が見えない状況ですが、Afterコロナにおいてもニューノーマルが常態化されることを想定し、多くの企業はDX(Digital Transformation)を一層推進していくと思われます。また、テレワークについても主な働き方のひとつとして定着する傾向もあり、業務の自動化はより多種多様な業務への対応が必要になります。そんな中、自動化の選択肢としてiPaaSは重要なテクノロジーとなることでしょう。
日立ソリューションズでは、iPaaS製品の導入だけでなく「RPAを含めた自動化に最適なツールの検討」から「iPaaSを適用すべき業務の選定」、「業務フロー(レシピ)の作成支援」まで、ワンストップでサポートいたします。業務の自動化について悩みを抱えている方は、ぜひ相談してみてください。
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