RPAを遠隔で活用すれば、社内対応必須業務もテレワークが
可能になる!?
テレワークでRPAを利用するうえで「大きなハードル」になりやすいものが印鑑や紙などを必要とする、いわゆる「社内対応必須業務」です。しかし、“RPAの専門家”である株式会社完全自動化研究所の代表取締役社長 小佐井宏之さんは「社内対応必須業務も、RPAとワークフローシステムを組み合わせることで、RPAを活用したテレワークが進む」と言います。
株式会社完全自動化研究所 代表取締役社長
小佐井 宏之 氏
京都工芸繊維大学同大学院造形工学専攻修士課程修了後、客先常駐のプログラマーとしてエンジニア人生をスタート。小売企業の情報システム部に所属後、2010年に個人事業主として独立。2017年に株式会社完全自動化研究所を設立。RPAシステムを構築するためのコンサルティング支援やセミナー講師などを行っている。
著書:『オープンソースで作る!RPAシステム開発入門』『UiPath業務自動化最強レシピ RPAツールによる自動化&効率化ノウハウ』(以上、翔泳社)、『実務者のための失敗しないRPAシナリオ設計入門』(秀和システム)
目次
テレワークでRPAを活用したいなら、RPAを広い視野で捉える必要がある
政府は現在(2021年2月時点)、「テレワークによる出勤者数の7割減」という目標を掲げています。経団連が1月下旬に調査(会員企業1,648社を対象に実施して505社から回答)したところによると、緊急事態宣言下の11都府県ではテレワーク実施率が65%と、目標値に迫っていることがわかりました。
一方で、テレワークを行うことが難しいと回答する企業側の理由の一つに、会社に出社しなければ対応できない「社内対応必須業務」の存在があります。わかりやすいところで言うと、ハンコ(印鑑)や紙を利用する経理部の仕事などがそれに当たります。しかし、これらの業務は「テレワークで行うことが絶対にできないか?」と聞かれれば、決してそうではありません。
テレワークを推進するためには、RPA導入に加えて「ワークフローシステム」を構築することが有効です。ワークフローシステムとは、承認や稟議(りんぎ)、申請などのプロセスを電子化したもので、これを導入することでハンコの問題はクリアすることができます。もちろん、上記のプロセスをハンコや紙で行ってきた企業は、その文化を見直さないといけません。そのためには、経営者および企業全体の意識を変える必要があります。
RPAを「ただのパソコン作業の自動化」と限定せず、広く「業務の自動化」と捉えた場合、人の判断と承認・否認を含む業務全体のシステム化もRPAの範疇(はんちゅう)と解釈してよいでしょう。
テレワーク環境を整えるために、企業が整備すべきポイント
ワークフローシステムを活用し、テレワークできる環境を整えるには、全社的な整備を行う必要があります。
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人事マスタの整備
たとえば、承認や稟議(りんぎ)のプロセスをワークフローシステム上で完結させるためには、人事マスタも整備しなければなりません。「部署を兼任している従業員や役員は、どの組織に属していると規定すればいいのか分からない」「人事マスタが部署によって複数存在するし、更新するタイミングや内容が少しずつ違うので一つにできない」といった問題が発生してくるでしょう。
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コミュニケーションツールの整備
ほかにも、メールや社内チャットなどのコミュニケーションツールの整備も必要です。紙を廃止するには関係者全員にアカウントを付与し、デジタルで業務ができるようにする必要がありますが、アカウントを持たない従業員も多いのが現状です。ライセンス費用が膨らむため、結局は紙を使った業務を続けてしまうといったケースが発生しがちです。
このようにワークフローシステムを整えるのは苦労しますし、投資も必要ですが、経営者を中心に企業全体が業務自動化に取り組むことで、テレワークを推進する道筋が見えてきます。
次の項目では、このワークフローシステムにRPAを組み合わせることで、より効率よくテレワークができるというお話しをします。
テレワーク業務の効率化を進めるためには、「トータル管理」の視点を持つことが必須
テレワークに移行することができれば、通勤時間を削減できるため、業務が効率化されるというイメージをもつ人は少なくありません。しかし、実態はそうとは限らないようです。
公益財団法人 日本生産性本部が定期的に実施している調査レポートの最新版「第4回 働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(2021年1月22日)によると、45.4%が「効率が下がった」または「やや下がった」と回答しており、評価が二分されていることがわかります。
(出典:第4回 働く人の意識に関する調査 調査結果レポート)
それでは、テレワーク勤務でも業務の効率を上げるためには、どのようにしたらよいでしょうか。対策すべきポイントとしてさまざまなものが考えられますが、今回は私の専門分野であるRPAに限ったところで考えてみます。
RPAの利用方法は、担当者がシナリオを実行する必要がある、RPAを統合運用管理ツールで管理しスケジューリング実行する「半自動(Attended)」と、エンタープライズRPA製品などに代表されるように管理サーバーにてロボットを集中管理する「完全自動(UnAttended)」に大別されます。
テレワーク勤務で業務の効率を上げるためのRPA利用方法は、「完全自動(UnAttended)」です。社内のパソコンでしか使用できないアプリケーションでも、RPAが自動で操作し、自分に必要なデータだけを送ってくれるとしたら、テレワークでも効率的に仕事ができます。
さらに、自動で完結する仕事ばかりではなく、人の判断、承認が必要な業務もRPAと組み合わせることができたら劇的に効率が上がるでしょう。これがRPA×ワークフローシステムです。
たとえば、RPAが基幹システムから自動的にデータを抽出し発注書を作成します。担当者はワークフローシステム上で発注書を確認し、上長に承認を求めます。上長がワークフロー承認するとRPAが基幹システムに発注登録を行い、発注先に発注書がメール送信される、といったイメージです。担当者の仕事は発注書を作成したり、基幹システムに発注登録したりすることから、発注書の妥当性を確認することに変わります。
最近、RPAとワークフローシステムを連携したサービスが登場してきています。たとえばiPaaS製品の中にはチャットボット機能を実装しているものもありますので、iPaaS上で業務フロー(iPaaSでは「業務レシピ」と呼びます)を作成し、クラウドサービスやRPAが処理を実行するフローにチャットボットを介在させることで、「人がチャットアプリ上で情報の判断や承認をするだけで、あとは業務を自動化して遂行する」というスムーズなワークフローが実現できます。このようにRPA×テレワークの効率を考えるときは、RPA単体ではなく、ワークフローシステムもあわせて検討し、構築したほうが効率化を図ることができるでしょう。
RPAをテレワークで活用していくためには、「トータル管理」の視点をもつことが重要です。テレワーク勤務のボトルネックとなっている問題に注目し、会社全体で最適化できるよう効果的に自動化を組み込みましょう。やみくもに個々人のパソコン作業のみを自動化していてもテレワーク勤務とはつながらない可能性があります。
また、RPAを進める延長線上に業務を「見える化」し、一元的に管理できる仕組みを構築することを見据えてください。
RPA×テレワークの効率を上げるためには、運用に長けた「社外人材の活用」がカギ
今後、さらにRPA×テレワークを進めていくためには、この機会に「テレワーク」の定義自体を見直してみるとよいでしょう。自宅からリモートで会社のパソコンにつないで、同じ仕事をしているだけでは、テレワークの価値を十分に発揮しているとは言えません。
社員それぞれが自分の“会社のパソコンの中だけ”をRPAで孤立的に自動化しても、自宅のパソコンからリモートで会社の自分のパソコンを動かさなければいけなくなるため効率は上がりません。むしろ、自宅からリモート接続をするぶん、会社で仕事をしているときよりも「効率は下がった」と言えるでしょう。
私が考えるRPAを活用したテレワークとは、RPAを導入することで定型帳票作成やデータ入力などの仕事を自動化することができ、社員はテレワークで送られてきたデータを分析したり、判断したり、生産的な仕事を行ったりすることです。つまり、仕事のやり方を変えることも含めてテレワークを定義しなおす必要があるということです。
最後に、私のRPA×テレワークの状況を説明します。「業務」のテレワークではなく、「RPA開発」のテレワークですが、参考になる部分もあるかと思います。
ある企業のRPA自動化チームには外部の私を含む6人のメンバーがいますが、全員がテレワークです。要件定義書、設計書などのドキュメント管理、プロジェクト管理(進捗管理と状況を共有)、運用管理(エラー時の質問や誰がどう対応するかをチャットでやり取りする)、オンラインミーティングをMicrosoft Teamsで行っています。開発したRPAシナリオは社内で稼働していますが、クラウド上で一元管理されており、稼働状況は常にテレワーク環境からモニタリングできています。
このようにテレワーク環境においても、効率を落とさず(むしろ効率は上がる)仕事を行うことは可能です。
ただ、テレワーク環境での効率的な仕事を行うためには、RPAやその他のシステムを活用する知識とチーム全員への教育が必要です。社内に適した人材がいない場合は、RPA運用支援に長けた外部人材を活用したり、システム会社の協力を得たりすることも検討してください。
ベンダーの中には、RPA開発者に伴走し課題をオンラインで解決するサービスや、RPAの管理・運用に欠かせない全社のロボットを一元管理する仕組みや、ルール整備/ドキュメント作成、開発ノウハウを共有する環境などをサービスで提供しているところもあります。
まとめ:業務を見直し、RPAとともにワークフローシステムを構築することで、社内必須業務は完全自動化できる可能性がある
以前はハンコや紙が必須であった業務も、時代は変わり、現在はオンラインで完結できるワークフローシステムで代用できるようになっています。「それは本当に出社しないと対応できない業務か?」と疑ってみることが、RPA×テレワークを実現するための第一歩なのかもしれません。
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