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働き方改革における残業時間の上限規制と企業がとるべき対応

社労士監修

リシテア/就業管理クラウドサービス」より専門家によるコラムのご紹介です。
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法は、2020年4月から中小企業においても本格的に適用されるようになりました。中でも「時間外労働の上限規制」については、従来の運用ルールから変更された部分も多く、企業にとっては特に注意しておきたいポイントといえます。そこで今回は、働き方改革関連法によってどのような法改正が行われたのか、従来の法律からの変更点についておさらいするとともに、時間外労働の上限規制に対して企業はどのような取り組みをすべきなのか解説します。

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監修者

小野社会保険労務士事務所代表

小野高史

大学卒業後、小売業界、社会保険労務士法人での勤務を経て、2014年に小野社会保険労務士事務所を開業。 開業後は、労務相談、労務リスク対策、法改正対応、就業規則作成などのコンサルティング業務を事務所の主軸業務とし、製造業、運送業、飲食業、IT業をはじめ、幅広い業界において、実務的で質の高い労務サポートを行っている。

時間外労働とは

そもそも時間外労働には「法定外残業」と「法定内残業」と呼ばれる2種類が存在します。法定外残業とは、労働基準法によって法定労働時間として定められている1日8時間、週40時間を超えて労働した時間を指すのに対し、法定内残業は企業の就業規則に定められている所定労働時間を超えて労働した時間のことを指します。

たとえば、就業規則によって所定労働時間が7時間と定められている企業の場合、1時間までの残業は法定内残業、それ以降の残業は法定外残業となります。なお、労働基準法では、労使間でいわゆる「36協定」を締結しない限り法定労働時間を超える労働(法定外残業)は禁止されています。

法改正における変更点

では、働き方改革関連法によって、時間外労働に関する取り扱いは具体的にどのように変わったのでしょうか。

法律の改正が行われる前までは、労使間で36協定を締結していれば原則月45時間まで、年間360時間までの時間外労働が認められていました。仮にこの時間をオーバーしたとしても、企業は行政指導の対象となるのみで、それ以上の罰則はありませんでした。

しかし法律が改正された後は、時間外労働の運用がより厳格化されることとなりました。月45時間(1年単位の変形労働時間制では月42時間の場合あり)を超える時間外労働が認められるのは1年のうち6カ月までとなり、この上限をオーバーした場合には事業主に対し厳しい罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課されます。

なお、臨時的な特別な事情がある場合には最大で月100時間未満(休日労働も含む)、年720時間以内(休日労働は含まない)までの時間外労働が認められますが、実際の時間外労働と休日労働の合計は複数月(2から6カ月)平均で80時間以内でなければなりません。また、仮に労使間での合意があった場合でも、上記の時間外労働時間をオーバーすることは禁止されています。

企業が取るべき対応

働き方改革関連法によって、残業時間の厳格な管理が求められることとなりました。こうした中、企業が取るべき対応としては2つのポイントが挙げられます。

従業員の労働時間を客観的に把握すること

客観的かつ適切な方法で労働時間を把握するためには、企業は具体的に何をすればいいのでしょうか。2017年に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(156kb)」(PDF)によって、残業代を適切に支払うため労働時間を適正に把握することは以前から求められていましたが、管理監督者や裁量労働制の適用者はその対象外とされてきました。しかし2019年4月、働き方改革により改正された労働安全衛生法の施行に伴い、健康管理強化の観点から、ガイドラインでは対象外とされていた管理監督者や裁量労働制の適用者を含めた原則すべての従業員について、労働時間の状況を「客観的に把握」することが法的に義務づけられることとなりました。そのため、企業は原則として客観的な方法、つまりタイムカードやパソコンの使用時間(ログインからログアウトまでの時間)などにより、従業員の労働時間の状況を把握することが求められます。

労働時間の具体的な把握方法

  • 労働時間の状況の把握は、原則として、タイムカードによる記録、パソコンの使用時間の記録など、客観的な方法によること。
  • やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合は、自己申告も認められるものの、一定の要件を全て満たす必要がある。

参考:東京労働局 労働基準部 健康課「改正労働安全衛生法のポイント(580kb)」(PDF)

従業員の業務ボリュームを調整し残業時間の削減に努めること

特定の部署や従業員のみに残業時間の偏りが生じている場合には、業務量が適正かを調査し、必要に応じて業務負担の調整を行います。このとき、なぜ残業時間が多いのか原因を追究することも重要です。従業員のスキルや経験不足のため時間がかかっているケースもあれば、特定の従業員ばかりに業務が偏っているケースも考えられます。

残業時間を短縮するためには、仕事の進め方やプロセスを見直すことも有効な方法ですが、それ以前に従業員や部署ごとの業務量を適正化し、公平性を保つことが前提となります。

時間外労働の上限規制による懸念点

時間外労働を削減する際、数字だけにとらわれてしまうことも少なくありません。そうなると、上層部の命令や圧力によって残業がしにくくなり、結果としてサービス残業が常態化する懸念も生じます。従来の業務量はそのままで、業務効率化やプロセスの見直しの取り組みもされないままだと、現場で働く従業員へしわ寄せが来ることが予想されます。

本来の目的である働き方改革に逆行し、本末転倒な結果にならないようにするためにも、時間内に仕事が終えられるよう企業側が有効な対策を取ることが重要です。前述した業務ボリュームの調整はもちろんですが、生産性の高い従業員の仕事の進め方を参考にしながら、企業や部署内で横展開していくことも有効な方法といえるでしょう。

従業員のための働き方改革を

働き方改革における残業時間の上限規制は、企業に「時間外労働を削減すること」を目的とさせてしまいがちです。しかし、本来の目的は「生産性の向上」であることを忘れてはなりません。生産性を上げるためにムダな業務を削減したり業務効率化を図ったりすることで、結果的に残業時間の短縮につながるケースも少なくないのです。そのため、まずは「生産性の向上」を念頭に置くのがよいでしょう。

そして、生産性の向上は企業だけでなく、ワーク・ライフ・バランスを高めようという従業員一人ひとりの意識改革に結びつくというメリットにもなるでしょう。従業員のための働き方改革を実践することにより、モチベーションが向上し、優秀な人材の確保にもつながるため、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

記事公開日:2022年7月14日

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